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じわっと心に染み入り、ほんの少しだけ心を動かしてくれる – 大人にこそ見てほしい珠玉のロードムービー3選

2016.06.03(Fri) | 山田井ユウキ

旅を通して人との出会いや別れ、心の成長や葛藤などを描く物語を「ロードムービー」と呼びます。僕、このロードムービーってやつが大好きなんですよね。個人的に旅好きということもあるのですが、ロードムービーを1本見終わると必ず何か心に残るモノが得られるから。そういう意味で、ロードムービーにハズレなし、なのです。

今回はそんなロードムービーの中から、珠玉の3本を厳選してご紹介します。どれもすばらしい作品ばかりですが、それぞれタイプが違うので自分に合うと思ったものをぜひご覧ください。

イントゥ・ザ・ワイルド
イン・トゥ・ザ・ワイルド
「イントゥ・ザ・ワイルド」はアメリカのノンフィクション小説「荒野へ」を原作とする映画です。ノンフィクションなので、そこに描かれていることは基本的に実話なわけです。お話自体は単純で、裕福な家庭に生まれ将来を約束された青年・クリスが、そういった俗的なものに嫌気が差して旅に出るというもの。 クリスは最終的に自然豊かなアラスカの地にたどり着き、そこで命を落としてしまうのですが、そこまでの2年間を追った作品です。実在したクリスが残した資料などをもとに取材して書かれたノンフィクション書籍をショーン・ペンが映画化しました。 このクリスという青年ですが、見る人の年齢によって彼に抱く印象は違ってくると思います。おそらく30代以上であればイラッとする人が多いでしょう。お金持ちの坊っちゃんがすべてを捨てて自分探しの旅に出る--なんて、それだけ聞いたらどこにでも転がっているエピソードですからね。「はいはい、中二病だったね」の一言で片付けたくなります。 実際、そうなんですよね。クリスは旅の途中で人との出会いに恵まれながらも、最終的にはそれらを振りきってアラスカの自然に分け入り、知識・準備不足のために命を落とすわけですから、とんだ甘ちゃんです。 でも、映画を見ると、それだけでは片付けられない感情が沸き起こってくるのです。それがクリスという青年の持つカリスマ性なのか、それともショーン・ペンの映画作りの妙なのかはわかりません。でも、とにかく、誰しもがクリスの生き様を見て何かしらの感情を揺り動かされるはずです。それがプラスの感情であれマイナスの感情であれ、2時間半の映像を見て誰かと語り合いたくなるとしたら、その映画には大きな価値があるとは思いませんか? アラスカまでたどり着いたクリスが人生の最後に何を悟ったのか。それは映画でご覧ください。「そんな当たり前のことを今さら!?」と思う人もいるでしょうし、「その通りだ!」と感銘を受ける人もいるかもしれません。ただ、それがたとえ"当たり前で今さらなこと"であっても、案外そういう真理を再確認できる場というのは少ないものです。クリスは若く、愚かだったかもしれません。でも、彼の旅は決して意味のないものではありませんでした。少なくともこの映画を見終わって、僕はそう思うのです。
星の旅人たち
星の旅人たち
和歌山にある熊野古道ってご存知でしょうか。世界遺産にも登録された参詣道で、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へと通じています。実は「道」自体が世界遺産に登録されることは非常に稀なことなのだそうです。 そんな世界遺産に登録された「道」が熊野古道の他にもあります。キリスト教の聖地の一つとされるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路です。ルートはいくつかあるようですが、フランスからサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す1000km近い道程が一般的。ちなみに世界遺産の道同士ということで、熊野古道を擁する和歌山県とサンティアゴ・デ・コンポステーラを擁するガリシア州には交流があるそうです。 豆知識はさておき、「星の旅人たち」はそんなサンティアゴ・デ・コンポステーラを舞台にしたロードムービーです。2010年にアメリカとスペインの合作で誕生した作品ですね。 主役となるのはアメリカ・カリフォルニアの眼科医トム・エイヴリー。ある日、トムのもとに、自分探しの旅に出たまま疎遠になっていた一人息子のダニエルがサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の途中で亡くなったという知らせが入ります。 息子の遺体を引き取りにスペイン国境の街サン・ジャンを訪れたトムは、息子の遺品であるバックパックを背負い、遺灰を持って息子が行くはずだった巡礼の旅に出る決意をするのでした。 死んだ息子の代わりに巡礼路を歩く父親が主役ということで、なんだか暗い雰囲気かと思われるかもしれませんが、どっこい、意外なほど明るい物語です。明るいというと語弊があるかもしれませんが、少なくともジメッとした空気感の作品ではありません。もちろんトムは最初、ふさぎこんでいるわけですが、旅を続けているうちに一緒に歩く仲間が現れ、次第に心を開いていくのです。 そんな仲間たちにも、それぞれ旅を続ける理由があります。旅の目的も国籍も年齢も性別もまるで違う人々が、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼という一つの目的にもとに集まり、本当の仲間になっていくのです。トムが息子の死をきっかけに巡礼に出なければ、この仲間たちが出会うことはなかったでしょう。そう思うと何か不思議な巡り合わせを感じずにはいられません。「旅」とは人生の縮図なんだなと、そんな思いが自然と心の奥から湧き出ててくる作品です。
きっと ここが帰る場所
きっとここが帰る場所
イントゥ・ザ・ワイルドの監督でもあるショーン・ペンが俳優としての本気を見せた作品が「きっと ここが帰る場所」です。何やら含みのあるタイトルですが……いったい、どんな映画なのでしょうか。 ショーン・ペンが演じるのは、かつてロックスターとして人気を誇ったミュージシャンのシャイアン。諸事情あって現在は引退し、アイルランド・ダブリンにある豪邸で妻と共に悠々自適な生活を送っています。 引退したといっても、シャイアンはちょっと、いやかなり変わり者。現役の頃と同じように派手なメイクで生活しており、人付き合いもほとんどなく、株の売買で暇をつぶす毎日です。 シャイアンは人付き合いもヘタで、たまに自宅に人を招いて食事をしてもうまくいきません。映画の前半はこのシャイアンの生活がダラダラと描かれます。ストーリーも何もあったもんじゃありません。ひょっとしたら、ここで投げてしまう人がいるかもしれません。でももうちょっと、もうちょっとでいいから見てください。 中盤以降、物語が動きます。長年会っていなかったシャイアンの父親が危篤であるという連絡が入るのです。結局死に目には会えなかったシャイアンですが、葬儀の後で父親のある秘密を知り、彼に代わって目的を果たす旅に出ることになります。 シャイアンはもう中年ですが、社会性に乏しく感性もズレた男です。ロックスターだった過去を憎みながらも、それでも現役当時のメイクがやめられない。そういう意味で年齢だけは大人の「子ども」なのです。 本作の「旅」はそんな中年男が子どもから大人になるまでの成長譚です。それだけに、僕のようなオッサンにとっては若者が主役のロードムービーよりもはるかに刺さるものがあります。あなたはラストの彼の姿を見て何を思うでしょうか。その瞬間のために、この2時間があったのだと思わされます。

おわりに

旅は人を成長させてくれるもの。その意味で、優れたロードムービーもまた人を成長させてくれるのです。といっても肩肘を張る必要はまったくありません。気軽にふらりと旅行にでも出るつもりで、ロードムービーの世界に飛び込んでみてください。そこから必ず何か得るものがあるはずです。

Writer | 山田井ユウキ

ウェブ、雑誌を中心に執筆するフリーライター/カメラマン。 映画からIT、ホビー、料理までオールジャンルに執筆する。 主な媒体に「MacFan」「料理王国」「マイナビニュース」など。 その他、イベント主宰、セミナー講師なども行う。

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