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“真実”をみつめる勇気をもつ女性たちに乾杯!女性監督の視点はいつも前向きです

2016.07.15(Fri) | 立田敦子

ドイツ系ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの伝記映画『ハンナ・アーレントが』のヒットで知られるドイツ出身のマルガレーテ・フォン・トロッタ。新作『生きうつしのプリマ』は、亡き母とそっくりのオペラ歌手を見つけたシンガーのゾフィがその真実を辿る物語です。自分が信じるもの、大切なものを守るために、人生をかける女性にフォーカスするトロッタ監督。その視点を通して描かれる女性の生き様はとてつもなく魅力的。女たちのドラマにはいつも感動と謎がいっぱい。

『ハンナ・アーレント』
ハンナ・アーレント
 NYの大学で教鞭をとるドイツ人哲学者ハンナ・アーレントは、悪名高きナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンが逃亡先のアルゼンチンで捕らえられ、裁判にかけられることを知り、イスラエルに飛びます。歴史的な裁判をすべて傍聴したアーレントは、ザ・ニューヨーカー誌にレポートを発表しますが、その内容を巡って大論争が勃発。アーレントは、あまりにも普通で陳腐なアイヒマンの「凡庸さからくる悪」を主張しましたが、悪魔的な世紀の極悪人というレッテルを貼りたい多くの人々から大バッシングを受けるのです。
 実は、アーレントはドイツ系ユダヤ人。ナチズムの台頭によって、祖国ドイツを離れ、フランスへ渡りましたが、結局強制収容所に送られました。が、そこから逃亡し、アメリカへ亡命。そう彼女こそ“被害者”だったのです。が、その憎しみに眼鏡を曇らせることなく、勇気をもって、真実を追求しつづけました。思考停止こそ悪を生む。今日の世界にも届かせたいアーレントのメッセージ。これこそ、トロッタ監督がこの作品に込めた思いなのでは?
『生きうつしのプリマ』
生きうつしのプリマ
 誰にでも秘密はあるもの。これは母親の死後、その秘密を巡る旅に出た娘と家族の物語です。
 シンガーのゾフィは、父親から呼び出され、亡くなった母親にそっくりの国際的オペラ歌手カタリーナの存在を知り、ドイツからはるばるNYに出かけていきます。話を聞いたカタリーナは、まったく取り合わないが、やがてゾフィは、母親に夫や娘も知らなかった別の人生があったことを知ります。
 子供にとって、母親は女ではありません。ほとんどの子供たちは、女としての母の人生など考えたこともないのが普通かもしれません。けれど、今回、ゾフィは、ひとりの女性としての母親と向かい合うことになります。
 ひとりの男性と“最長で2年しか続かない”とボヤくゾフィ。仕事も恋も停滞気味の彼女が、母親の生き方をどうとらえるのか。ドイツ、NY、イタリアと旅しながら、体当たりで謎に挑んで行くゾフィの姿に共感を覚えます。
 それにしても、亡き愛妻とそっくりの女性の存在にとまどう父親。男性のこうした無力さ、哀愁を描けるのも女性監督ならでは!

◆『生きうつしのプリマ
7月16日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほか 全国順次ロードショー
©2015 Concorde Filmverleih / Jan Betke

おわりに

思うに、女性監督のほうが“真実”を描くことに向いているのかもしれません。ファンタジーの世界に逃げ込むことなく、厳しい現実を見つめて、そこから新たなる道を切り開いて行く。
マルガレーテ・フォン・トロッタ監督は、そんな女性らしい視点で、気骨ある作品を撮り続ける監督なのです。悪事を働く人、ウソをつく人、秘密をもつ人。そうした欠点をすべてをひっくるめて、人間なのです。人間愛に満ちているから、彼女の作品には希望が感じられるのではないでしょうか。

Writer | 立田敦子

取材や映画祭などで世界中を飛び回る映画ジャーナリスト。 『エル・ジャポン』『フィガロ ジャポン』『GQ JAPAN』『すばる』『In Red』『キネマ旬報』など様々なジャンルの媒体で執筆中。 映画人へのインタビューは年間200件以上にのぼる。

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