ホーム > 本当にブッ飛んだ人たちの
ドキュメンタリー映画に仰天

本当にブッ飛んだ人たちの
ドキュメンタリー映画に仰天

2016.07.29(Fri) | 村山章

“ドキュメンタリー映画”とひと口に言っても歴史的大事件を扱ったものから大自然や動物を映したものまで様々ですが、生の人間のブッ飛んだ姿がフィクションをはるかに凌駕することがあります。劇映画でやってしまうと「リアルじゃない!」と言われてしまうほどの凄味が宿ったドキュメンタリー映画の名作をご紹介しましょう。

『マーダーボール』
マーダーボール [DVD]
2016年はオリンピックとパラリンピックの年ですが、パラリンピックの正式種目「車椅子ラグビー」の世界に密着したスポーツドキュメンタリーが『マーダーボール』です。“マーダー(殺人)”とは物騒な言葉ですが、車椅子ラグビーの別名であり、パラリンピックの競技の中でもぶっちぎりでデンジャラスな競技なのです。

バスケやテニス、バレーボールと車椅子を使った球技は多々ありますが、“マーダーボール”は車椅子の形状からしてイカレています。車輪には金属製の盾が付けられているし、装甲車みたいなバンパーを装着した車椅子もある。“マーダーボール”は文字通り車椅子をぶつけ合ってボールを奪い合う格闘球技。集まってくる選手たちも荒くれ者ぞろいです。

中でも「ウソだろ!」と叫びそうになるほどドラマチックなのが、元アメリカ代表選手だったジョー・ソアーズ。年齢を理由に戦力外通告されてしまったソアーズは激怒して、隣国カナダのチームの代表に就任。自らを切り捨てたアメリカ代表チームを叩き潰して金メダルを狙うのです。

完全に熱血マンガの展開ですが、実話なのがドキュメンタリーの強み。しかもソアーズには父親とは正反対のおっとりした息子がいて、感動的な親子ドラマまで生んでしまう。あまりにも盛り沢山な内容に、取材していた監督や撮影班も「マジか!」とテンションが上がったに違いありません。
『最後の1本 ~ペニス博物館の珍コレクション~』
最後の1本 ~ペニス博物館の珍コレクション~
ジョー・ソアーズがスポーツと復讐に取り憑かれた男なら、なんと「ペニスの収集」の取り憑かれた男がアイスランドにいました。世界初にして唯一の「ペニス博物館」の館長になった“シッギ”ヒャールタルソンという元教師です。

シッギの趣味は哺乳類のペニスの標本を集めることでしたが、奥さんから「家がペニスだらけになるから博物館でも始めなさい!」と言われ本当に「ペニス博物館」をオープンしてしまいました。そんなシッギにはどうしても達成したい目標がありました。「あらゆる哺乳類のペニスを集めてきたコレクションに唯一足りないもの、“人間のペニス”を生きている間に博物館に加えたい!」

そして「博物館初のペニスの標本になりたい!」と2人の男が名乗りを上げます。一人はアイスランドが誇る伝説の冒険家。もうお爺ちゃんですが「ワシがブイブイ言わせたこのペニスを後世に残したい」と言うのです。2人目はアメリカの名もない中年男。自分にとって唯一の自慢であるイチモツに“エルモ”と名付けていて、エルモを有名にしたいと心から願っているのです。

『最後の1本』はこのペニス提供にまつわる珍騒動の顛末を描いたドキュメンタリーです。人間のペニスが欲しくてたまらない老館長、自分の栄光を永遠に残したい元冒険家、そして生きてるうちにチョン切ってすぐにでも寄贈したいと迫るオッサン。正直全員バカばっかりと思うかも知れません。

でも彼らがブッ飛んでいる本当の理由は、老いの不安や逃れられない孤独感をなにかで癒したいという必死の想いがあるからなのです。さぞやバカバカしい映画だろうと思って観ると、可笑しくも切ないヒューマンドラマであることに気づいて驚くかも知れません。ちなみに自分は感動で心が揺さぶられ過ぎて、途中で劇場から飛び出しそうになりました。
『バス174』
バス174 スペシャル・エディション [DVD]
『バス174』はブラジルで製作された犯罪ドキュメンタリーです。2000年6月にリオでジャネイロ市街でバスジャック事件が発生、その模様がリアルタイムでテレビ中継されました。犯人はサンドロ・ド・ナシメントというスラム出身の若者。チンピラが起した行き当たりばったりの犯行でしたが、監督のジョゼ・パジーリャは表立って報道されなかった犯人の背景を探るうちに、ブラジル社会が抱える闇の深さに行き当たるのです。

パジーリャは後に『エリート・スクワッド』『エリート・スクワッド/ブラジル特殊部隊BOPE』という二部作を監督し、南米の興行記録を塗り替える大ヒットとなりました。『エリート・スクワッド』は凶悪犯罪に立ち向かうためには暴力や殺人も辞さないブラジル警察の特殊部隊“BOPE”の実態を描いた劇映画ですが、『バス174』での取材が作品の着想になっています。

パジーリャはバスジャック事件を起こしたナシメントが、BOPEが起したストリートチルドレン虐殺事件の生き残りだったことを知ったのです。暴力と憎しみの連鎖はいったいどこから始まり、どこに繋がっていくのか? 『エリート・スクワッド』二部作やハリウッドに招かれて監督したリメイク版『ロボコップ』にも連なる社会派テーマの出発点としてぜひ観てほしいドキュメンタリー映画です。そしてジョゼ・パジーリャという才能ある映画作家の名前もこの機会にぜひ覚えていただきたいです。
『アクト・オブ・キリング』
アクト・オブ・キリング
『アクト・オブ・キリング』は今回紹介する4本の中でも一番の問題作でしょう。1965年にインドネシアで起きた大虐殺の実態を暴くゾッとする内容でありながら、思わず笑ってしまう瞬間がいくつもあるのです。

アメリカ人のジョシュア・オッペンハイマー監督は、1965年の虐殺事件を取材しようとインドネシアに住み着き、現地語もマスターして事件の被害者や遺族を訪ね回っていました。しかし虐殺について語ってくれる人を見つけるのは至難の業。なぜなら虐殺を行った当事者たちが現在も英雄扱いされ、政府の高官や町の名士になっていたからです。

そこでオッペンハイマーは虐殺事件の加害者側に取材してみようと方針を変えます。すると加害者たちは、まるで自慢話でもするように自分たちの凶行について喜々として話し始めたそうです。

そこでオッペンハイマーはある提案しました。「あなたたちのやったことを再現して映画にしませんか?」と。すると虐殺の当事者たちは喜々として自作自演の映画作りに取り掛かる。その異様な顛末をドキュメンタリーにしたのが『アクト・オブ・キリング』です。

殺された人の数は100万以上と言われていますが、その当事者が自分たちを褒めたたえる映画を作る。あくまでも自分たちは正義だと信じている彼らの無邪気さが、時にシュールな笑いをもたらします。語弊はありますが一種のブラックコメディと言ってもいいでしょう。

しかし画面に映っているのは間違いなく、その手で何十人となく殺した殺人者なのです。そして加害者のひとりの心の中で「自分は間違っていたかも知れない」という疑問が頭をもたげてくる。その心の変化こそが本作のキモであり、ドキュメンタリーにしか映し出すことのできない迫真の瞬間なのです。

この映画には121分の劇場公開版と、166分のディレクターズカットの2バージョンが存在します。監督の想いをより反映しているのは166分の全長版でしょうが、個人的には劇場公開版のラストの方に底冷えするような怖さと人間の業を感じました。とはいえラストシーンが違うわけではありません。ただ微妙な構成や編集のタイミングの違いが、映画を観た後の印象を大きく変えるのです。

幸い青山シアターでは『アクト・オブ・キリング』の2つのバージョンをどちらも観ることができるので、興味が湧いた方はぜひ観比べてみてください。

アクト・オブ・キリング 劇場公開版( 121分)
アクト・オブ・キリング ディレクターズカット(166分)

おわりに

今回紹介した4本はどれも、まるでフィクションのようなノンフィクションであり、見せ方としても劇映画とドキュメンタリーの境界を越境するような面白さがあります。一概に「面白い」と言ってしまうにはヘビーなテーマも扱っていますが、どんなテーマであれ映画としての力がなければ観客にも伝わらない。あまりドキュメンタリー映画になじみがないという方は、この刺激的な4本を入り口にしてみてはいかがでしょうか?

Writer | 村山章

1971年生まれの映画ライター。中学生の時にテレビで放送された『明日に向かって撃て!』を観て以来、映画にハマって現在に至る。「週刊SPA!」「OCEANS」「DVD&Blu-rayで~た」等の雑誌やウェブ媒体で原稿を執筆。いくつになってもダメ人間のダメっぷりを描いた映画への偏愛が止まりません。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA