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カナダが生んだ時代の寵児! グザヴィエ・ドランの才気ほとばしる監督作3選

2016.08.03(Wed) | 今祥枝

若手実力派監督として確固たる地位を築き、その動向は世界各国の映画人から注目を集めているグザヴィエ・ドラン。今年の第69回カンヌ国際映画祭では、最新作『It’s Only The End Of The World(英題)』(2017年2月11日公開)がグランプリ受賞の快挙。俳優としての活躍も目覚しく、現在絶賛開催中の第3回「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」で8月6日から上映となる『神のゆらぎ』では、自ら出演を希望し、末期の白血病を患う難役に挑んでいる。そんなドランの、いずれも高い評価を得ている監督作は、胸が苦しくなるほどのさまざまな愛の形を伝える秀作ぞろいです!

『マイ・マザー』(2009年)
マイ・マザー
ドランが17歳で書いた自伝的短編をもとに、18歳で監督・脚本・主演を務めて撮りあげた監督デビュー作。高校生ユベールとシングルマザーの母親の壮絶なぶつかり合いを描いた本作は、食べ方が汚い、品がない、無能だと母親を激しく嫌悪し、罵るユベールの苛立ちは、”反抗期”と一言では片付けることのできない過激さ! 10代特有のナルシズムや漠然とした不安や苛立ちに加えて、芸術家肌のユベールは彼氏の家庭の自由な空気にしゃれた家と比較しては、現実の醜さに絶望する。確かにユベールの母親は理想的とは言えないが、ユベールの若さゆえの傲慢さと稚拙さ、残酷さは、誰しもが通った道とはいえ辛くもなる。だが、これは子供の親離れの過程を描いた物語なのだ。憎悪や反発の強さは結びつきの強さに比例しているのだと気付いたとき、映画の見方は逆転する。「殺したいほど母親を憎んでいる」と独白するユベールの愛の深さ、そして母親の我が子を思う気持ちの強さに、わしっと心を素手で掴まれる思いがして苦しくなる。

時折挿入されるモノクロームの映像やモノローグ、アートのように美しい瞬間の数々は、早熟なドランの演出のテクニカルな面の斬新さが際立つ。だが、何よりもユベールの焦燥感が心と肌をヒリヒリとさせる感覚のリアリティーは、この若さでなければ撮れなかった、演じられなかったという意味で奇跡の一作といえるだろう。逆に、この若さで自身の分身を主人公にした作品で、これほどの完成度を誇ることができるのかと、その稀有な才能には驚くばかり。まさに”ドラン伝説”はここから始まったのである。
『わたしはロランス』(2012年)
わたしはロランス
モントリオール在住の小説家で、国語教師のロランスは、30歳の誕生日に恋人の女性フレッドに「女性になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまった」と告白。フレッドは激しく非難するものの、ロランスの最大の理解者、支持者として人生をともに歩む道を選ぶ。当時、24歳でカンヌの常連となっていたドランが選んだ題材は、近年注目度が増す一方のLGBTがテーマ(ドラン自身もゲイを公表している)。男性として生まれだが女性の服装やメイクで女性として生きる、でもセクシャリティーはまた別の問題、というロランスの存在が、小さな街で浮きまくるのは想像に難くない。2人が周囲の偏見や社会の嘲笑と闘いながら、人はいつも強くあることはできないという弱さも見せつつ、結局のことろ、これは普遍的な愛の物語であることに気付かされる。ドランは本作でも圧倒的なビジュアルセンスを発揮しながら、優れたストーリーテラーとして、ロランスの生き方を偏見と闘う社会派ドラマとしてではなく、あくまでもひとつの愛の形として描き切っているのだ。

ロランスを演じるメルヴィル・プポーの女性としての姿格好、仕草、たたずまいの美しさは特筆すべきものがあるが、フレッド役の『マイ・マザー』にも出演したスザンヌ・クレマンのエモーショナルかつパワフルな演技に圧倒される!
『Mommy/マミー』(2014年)
Mommy/マミー
『マイ・マザー』でドラン流”親離れ”を描いた彼にとって、母親というものが、いかに大きな、あるいは大きすぎる存在なのかを思い知らされるのが『Mommy/マミー』だろう。2015年、架空の国としたカナダで新政権が成立し、発達障害の子どもを持つ親が経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合、法的手続きを経ずに施設に入院させる権利を保障した法律ができる。そんな中、夫の死後、ひとり暮らしをしていたダイアンのもとに、ADHDで施設に入っていた一人息子スティーヴが放火をおこし、施設から追い出されて戻ってくる。時々暴力的な衝動を押さえられないスティーヴ、職を失ったダイアン、向いに引っ越してきた休職中の教師カイラの3人が、何とか助け合って生きていこうとする過程は辛くも楽しくもあるのだが、本作もやはり母と息子の強い愛、絆に物語は集約される。スティーヴは『マイ・マザー』のユベールと違い、ストレートに愛情を求め、不安に駆られて「ママはいつか僕を愛さなくなる」と激昂する。対して「私たちには愛しかない」と返すダイアン。それでも、親子は不安で不安で、何度も何度も激しくぶつかり合いながら愛情を確認し合う。なんという激しさ、なんという互いへの愛情の強さ!

この映画のラストシーンの解釈は、人によって見解がわかれるのではないかと思う。だが、これだけは言える。これもまた母親と息子の、たとえようもなく尊い愛の物語であると。また、本作もドラン作品らしくテクニカルな面が凝りに凝っているが、アスペクト比1:1を多用した画面構成によるアップの多用が非常によく効いている。メインキャストの体当たりの熱演にも拍手!

おわりに

ドランの監督作品は、メンタル的にタフな作品が多く、スクリーンからあふれ出るパッションを受け止めきれないと思ってしまうこともあります。でも、それこそがドラン作品の醍醐味。そして根底にあるのは愛。どれから観ようか迷ったら、個人的にはやはりルーツといえる『マイ・マザー』からの鑑賞をお勧めします! また、ドランは自らを「第一義としては俳優」だと語っているので、『エレファント・ソング』や『神のゆらぎ』など、俳優として望んで出演した作品も合わせてチェックしてみてくださいね。

Writer | 今祥枝

いま・さちえ/映画・海外ドラマを専門とするライター。「BAILA」「日経エンタテインメント!」「エクラ」「日本経済新聞 電子版」「シネマトゥデイ」「MY STAR CLUB」などの雑誌・ウェブにて執筆中。ほか各局HP、プレス、劇場パンフ等に寄稿。時々ラジオ、TVに出演・監修など。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。

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