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ジュゼッペ・トルナトーレが描く“映画的”シーンが印象的な作品5選

2016.09.16(Fri) | 春錵かつら

映画には“映画的”シーンというものが存在します。ピタリとはまった構図が観客を魅了するドラマティックなシーン、絶妙なカット割とセリフの間の妙が紡ぎ出すエモーショナルなシーン。観客が「くぅ~!!!」と唸って震えてしまうほど格好いいシーン。
“映画的”というものを定義づけるのは難しいけれど、私たち観客の心を鷲づかみにし、その物語の世界へ連れ去ってくれるものだということは、心のどこかで知っているはず。
イタリア映画界の巨匠・ジュゼッペ・トルナトーレ監督も、そんな “映画的”シーンの多い作品を創る監督のひとりです。そこで「ある天文学者の恋文」の公開を間近に控えたトルナトーレ監督の、数ある中でも特筆したい“映画的”シーンをピックアップしました。

『ニュー・シネマ・パラダイス』
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1988年公開の本作は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の出世作であり「顔」とも言えるヒューマンドラマ。ローマ在住の映画監督のもとに届いた、歳の離れた親友の訃報。彼の幼き日の回想から、物語は始まります。
映画好きの方には言わずもがな、本作の“映画的”シーンはなんと言ってもラスト、父親のように慕った親友・アルフレードの形見のフィルムを映写するシーン。今までに幾度となくメディアでも紹介されている有名なシーンです。
脈絡なく繰り返される同じシチュエーションのフィルムたちだからこそ、かつて交わした言葉や感情、そして笑顔を呼び起こす至高の“映画的”シーンになっています。
このシーンで、トルナトーレ監督は、アルフレードと主人公が交わす親愛だけでなく、キャラクターたちへの慈愛、溢れんばかりの映画への敬愛も込めることに成功しました。今観てもなお色褪せない、人生で一度は観ておきたい作品です。
『海の上のピアニスト』
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豪華客船の中で生まれ、生涯船を降りる事のなかった「1900(ナインティーンハンドレッド)」と呼ばれるひとりの天才ピアニストの物語。製作は1998年ですが、日本では1999年の年末に公開され、1900年代最後に観る作品として、これほどピッタリの作品はありませんでした。
本作の“映画的”シーンは、ティム・ロス演じる1900が、親友マックスの船酔い対策にと、揺れる船の中でピアノを演奏するシーン。大しけで右へ左へと大きく傾く船に合わせて、ストッパーを外したグランドピアノが、ロビーを所狭しと踊りまわり、合わせて「マジック・ワルツ」が奏でられます。ファニーでダイナミック、そして何よりドラマティックなシーンです。
海の上、そしてピアノの前にいる彼は無敵。人生にも例えられるその海原を、滑らかに航海しているように見える、これぞ “映画的”シーン。
いつでも降りる事の出来たその船。彼にとって、海の上より地上の方が、茫洋たる世界だったに違いありません。
『マレーナ』
マレーナ [DVD]
1940年のシチリアの小さな漁村を舞台に、ひとりの少年の初恋と成長を描いた人生ドラマ。結婚後すぐに夫が出征してしまった村一番の美人マレーナに一目ぼれをした、12歳の少年レナート。映画はレナートの目線で描かれ、来る日も来る日も妄想や慕情に悶々とした日々を過ごします。一方、モニカ・ベルッチ演じる未亡人マレーナ。伏し目がちの寂しげな姿が男心を一層刺激するのかもしれませんが、美しさは彼女にとってはもはや重い荷物に過ぎず、その美しさがやがて悲劇を呼びます。
この作品にも”映画的”シーンが度々登場しますが、ひとつ選ぶとしたら、このシーン。町なかで彼女がたばこを咥えると、男たちが一斉にライターの火を差し出すシーンです。あらゆる場面が客観的に見えるのは、それが「恋をした少年」の目に映る景色だから。視線の中央にはいつも鮮明で美しい彼女がいて、周りに群がる男たちも、遠巻きに噂する女たちも、すべてが同じ人間のように一様に褪せた姿で単調。とても印象的なシーンです。
熱に浮かされたような恋から冷め、少し成長したレナートの目に映るマレーナの姿が、おそらくリアルな彼女の姿だったのかもしれません。
『鑑定士と顔のない依頼人』
鑑定士と顔のない依頼人
ジェフリー・ラッシュ演じる人嫌いの老美術鑑定士が、ある日鑑定を依頼してきた謎の若い女性に恋をするという2013年製作のミステリー。「恋は盲目」という言葉にピッタリの作品ですが、「本物とは何か、偽物とは何か」「真実とは何か、嘘とは何か」を観客に問いかけます。
孤独で狷介な老鑑定士・ヴァージルが唯一心を癒せる秘密の場所が、本作の“映画的”シーンのひとつ。女性の肖像画たちが壁を埋め尽くす部屋の中央に座り、沢山の“彼女たち”と見つめ合い、対話するヴァージル。壮観です。それは劇中冒頭のレストランでのシーンと似て、独尊のパーフェクト・ワールドです。
それと繋がるかのように、後半で、ヴァージルが歯車や時計が壁を埋め尽くすレストラン「ナイト&デイ」を訪れたときのシーンも実に“映画的”。このとき、彼が座るのは部屋の中央にあるひとつの椅子にではなく、周囲に多くの人々が集った客席の一角。彼を見下ろしているのは“名画の女性たち”ではなく、“時”です。「偽りのなかに真実がある」とは、主人公のモデルとなった鑑定士自身の言葉。一連の“時”はヴァージルにどのような真実をもたらしたでしょうか。彼の手袋に、彼自身の変化が投影されている演出も心憎い、贅沢なミステリーです。
『ある天文学者の恋文』
ある天文学者の恋文
トルナトーレ監督の新作は、ひとりの天文学者が教え子である恋人に遺した、長い恋文を巡る物語。数十億年前に死滅しても地球に光を届け続ける星々のように、死してなお、恋人の元に届く愛のメッセージを描いた壮大なロマンスです。
天文学者のエドを演じたのはジェレミー・アイアンズ。歳の離れた恋人エイミーをオルガ・キュリレンコが演じています。ヒロイン、エイミーの職業がスタントマンのため、劇中には劇中劇よろしくモロに“映画的”なシーンが多く登場します。
そんな中、“映画的”だなと思ったのは、エイミーが友人と訪れる影絵の舞台。水色に照らされたスクリーンに黒く浮かび上がる、「人間」と「偉大なる何者か」の影。
愛する人の死によりエイミーにとって日常の些細なこと全てが、突然なにかしらの意味を持ち始めます。光と影が生み出すその物語も例外ではありません。非常に美しい“映画的”シーン。
明確なメッセージを受け取りたいのにそれは星の瞬きの如く、事象に込められた意味を手探りで探るしかありません。星の瞬きが永遠のように地上を照らすこと、愛する人に光を送り続けようとする天文学者、そして光を当てて紡ぎ出す影絵の舞台はリンクし、観客を寓話から奇蹟へ、そして愛しい現実世界へといざないます。永遠に近しい悠久を愛で満たすような、神秘的なラブ・ストーリーです。

◆『ある天文学者の恋文
9月22日(木・祝)全国順次ロードショー

ジュゼッペ・トルナトーレ監督を思うとき、いつも「人生に対して寛容な映画を撮る人」という言葉が浮かびます。喜劇も悲劇も、後悔も諦観も、理不尽な仕打ちさえ、トルナトーレ監督の作品に登場する人々は受け入れ、どの物語の結末もそんな彼らを許容します。それは決して我慢や忍耐といった窮屈なものとして描かれるのではなく、どんな人のどんな選択も肯定されているような感情に包まれるのです。純愛も不倫も「愛」には変わりなく、欲望も願いも「希望」には変わりない、というような。
その寛容さを根底に、観客を虜にする大きな一助となっているのが、トルナトーレ作品の殆どを手掛けている、盟友エンニオ・モリコーネの音楽。トルナトーレ監督特有の美しく繊細な映像と見事に融合して“映画的”シーンを観客に強烈に印象づけます。

何年経っても鮮明に浮かび上がる“映画的”シーンの数々は、思い出すたび、あなたの映画への愛を深めてくれるはず。ぜひ、あなたの“映画的”シーンを発見してみてください。

Writer | 春錵かつら

映画を主軸にムックや月刊誌、WEBで活動中のフリーライター。 CMのデータ会社にて年間15,000本を超えるCMの編集業務に携わる傍ら、映画のTVCMのコラムを某有名メールマガジンにて連載。 フリーに転身後、大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務める。料理本、漫画/映画解説本、ペット関連、ビジネス本など、幅広いジャンルで執筆中。著書に「絶対に見逃すな! 犬の症状これだけは!」など。

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