ホーム > 若き逸材が集結。自主映画の祭典<PFFアワード作品>を体感

若き逸材が集結。自主映画の祭典<PFFアワード作品>を体感

2016.09.21(Wed) | 水上賢治

今年で第38回を迎える<PFFぴあフィルムフェスティバル>は、これから映画作家を志す人たちに開かれた映画の祭典。そのメイン・プログラムに据えられているのが<PFFアワード>だ。このPFFアワードは、自ら企画し、自らの手で創り上げた自主映画にスポットを当てたコンペティション。ここでの入選や入賞をきっかけに、のちに飛躍した監督は旧くは森田芳光や石井岳龍、黒沢清、園子温、矢口史靖、塚本晋也、橋口亮輔、最近では内田けんじや石井裕也、市井昌秀らほんとうに枚挙にいとまなく、”若手映像作家の登竜門”と称されている。

これからの日本映画の未来を担う才能を見い出す場といえるPFFアワードだが、今年は初の試みとしてオンラインで見ることができる!配信は東京開催終了後の翌日から早速スタート。9/24~10/23までの期間限定になるが全作品をオンラインで楽しむことができる!

◆PFFアワード2016上映作品 オンライン配信
期間限定<2016/9/24(土)~10/23(日)>

PFF2016_傀儡
今年の<PFFアワード2016>の入選作は全20作品。その見どころは、ひと言では言い尽くせない。ただ、ひとつ言えるのは、おそらく世間一般にあるイメージよりも相当に多彩なラインナップであること。もし、自主映画に「四畳半の物語」「内容が暗い」「映像がイマイチ」「役者が素人」といったイメージを抱いていたら、それはもうひと昔前の話。現在の自主映画はすっかり様変わりしており、内容はコメディをはじめとしたエンターテイメント路線から作家性の高いアート作品まで幅広く、役者の演技レベルも総じて高い。中には、完成度が商業映画と遜色ないものも少なくない。

今年のアワード作品でいうと、松本千晶監督の『傀儡』は、いま劇場で公開されていても不思議ではないぐらいといえるほど完成度が高い。空撮によって物語の舞台であるダムのある山村を収めた導入シーンは、ハリウッドの大作サスペンスのはじまりを予見させるような流暢さを感じさせる堂々たるもの。かつての恋人の死の真相を調べ始めた週刊誌記者の男がいつの間にか謎の迷宮に陥るストーリーも、よく練りこまれていて、反復のシーンが効果的に取りいれることで過去と現在、事実と虚構を往来する巧みな構成に魅せられる。また、二階堂智、戸田昌宏、烏丸せつこ、渋川清彦といった名のある実力派俳優が出演。自主映画としては異例といってもいい豪華キャスト映画でもある。
PFF2016_溶ける
一方で、いまの時代の空気を色濃く反映された作品が多いのもまた現在の自主映画の大きな特徴かもしれない。作り手が自分のいま感じていることを素直に形にしてぶつけるケースが多いのだから、そうなるのはある意味、当然といえば当然。そのテーマはひとりよがりに、あまりに半径1メートルの小さな世界に留まってしまうことがあるのも否定できない。でも、逆に商業では二の足を踏むような、タブーや過激な題材に果敢に挑み、今の社会をリアルに映し出し、その時代に痛烈なメッセージを放つ作品が出現することもたびたびある。その中には、現在一般公開されている映画よりもよっぽど現代の社会をリアルに映し出している、たとえば今の男女の恋愛観が感じられる美しいだけでは片づけられないラブストーリーや、現代社会の窮状を切実に訴えたドラマが少なくない。あくまで個人的意見に過ぎないが、政治家や役人こそみてほしくなるほど、国の現実や今を生きる人々の心情をとらえた作品は、圧倒的に劇場公開作品よりも自主映画に多いと思っている。

今回のアワード作品においては、井樫彩監督の『溶ける』はとりわけ「今の時代」を感じさせる1作。田舎町で暮らす女子高生の言葉にできない焦燥感や苛立ち、どうにもできない現実と埋めることのできない心の孤独を見事に描き切っている。しかも、その心情を言葉ではなくヒロインの身体で表現。主人公・真子の表情や立ち振る舞いで基本物語る演出がすばらしい。また、そこからは、地方と都会の格差や価値観の違い、現代の10代が考えている性といった現代の社会問題がムクムクと立ち上る。この物語は、とりわけ今を生きる女子高生の心にきっと届くに違いない。
PFF2016_限界突破応援団
そのほかにも福島の桜の風景を見事な構図で収めたドキュメンタリー作品『福島桜紀行』や、授業の合間の休み時間という一瞬から、不思議と学校生活の記憶と感覚がよみがえるアニメ『楽しい学校生活』、エンターテイメントに徹底した漫画的なアプローチの演出が光るスポ根青春コメディ『限界突破応援団』など、実に多種多様な作品が並ぶ。ひとつ付け加えると、各作品にはいたらないところがないとは言い切れない。でも、きっと見終わったとき、「自主映画ってこんなにも個性的で豊かで面白いのかと」と20作品すべて感じてもらえるはずだ。
PFF2015_あるみち
なお、青山シアターでは、昨年度の<PFFアワード2015>の全作品も先月から絶賛配信中。こちらも今年のPFFアワードに負けないほど多彩な作品が顔を揃えている。

杉本大地監督の『あるみち』はグランプリに輝いた1作。監督自身の体験を自ら主演を務めて再現した作品で、浪人時代を経て大学に入った日々が描かれる。いわば自伝といえる作品だが、ひとりよがりになることなく、浪人生のやるせなさ、新天地での出会いといった、その局面に立った人間が味わう戸惑いや苦悩を克明に描出。それゆえ、普遍性をもったほろ苦い青春ドラマになっている。
PFF2015_嘘と汚れ
猪狩裕子監督の『嘘と汚れ』は、現代の社会に深く斬りこんだ力作。誰かの犯したミスが呼び水となって疑心暗鬼になったある職場の人間関係が崩壊していく様がシビアに描かれる。欺瞞や勝手な思い込みといった人間の心を巣食う闇を容赦なく照らし出す監督の眼差しがとにかく鋭い。決して後味のいい映画とはいえないが、主人公に自分を照らし合わせたとき無視できなくなるとでもいおうか。自分の身に寄せずにはいられなくなる映画だ。

これらの作品を含むPFFアワード2015の入選作は今年と同様に20作品。この機会に、こちらの作品もチェックしてほしい。

<PFF>は東京開催後、京都、神戸、名古屋、福岡と開催は続く。でも、もよりの開催都市がないので、やむなく足を運べずにきたという人はけっこう多いのではないだろうか?でも、オンライン配信ならばうれしいことに全国どこからでも観ることが可能だ。また、もうひとつ提案させてもらえるならば、今は、キャストにどれだけ有名な俳優の名が並んでいるかや、原作が人気の漫画かどうかや、前評判が高いかどうかなどを判断基準に、見る映画を選択しがち。それはそれでいいけれども、たまにはそんなことを抜きに、自分の感性を信じて映画を選んでみるのもいいのではないだろうか?今は無名だけど、いつか大活躍するかもしれない俳優やいつか大成するかもしれない映画監督に出会うかもしれない魅力が自主映画には確実にある。そこに至るには観る側も勇気をもって新たな一歩を踏み出さなければならない。そんなあなたの新たな一歩を踏み出して、この機会に、最新の自主映画を体感してほしい。

Writer | 水上賢治

映画を主としたライター。基本的にどんな映画でも見るが、中でもドキュメンタリーやインディペンデントを中心にした日本映画を愛する。現在はウェブ「ぴあ映画生活」「リアルサウンド映画部」や雑誌「AJ」、テレビガイド誌などで執筆中。PFFセレクションメンバーの経験あり。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA