ホーム > 憶えていますか?あの頃の気持ち…子どもの目線で描かれる映画

憶えていますか?あの頃の気持ち…子どもの目線で描かれる映画

2016.10.16(Sun) | 上原礼子

誰もがかつては子どもだったはずなのに、なぜ、いつの間に忘れてしまうのでしょうか。あのころの純粋で、みずみずしい気持ちと、あふれるようにあった想像力を…。今回は、そんな子どもの目線で描かれた映画に注目。小さな瞳に映る、俗物そのもの(?)の大人の姿に思わずハッとさせられます。

部屋で生まれた男の子が初めて知る世界…でも愛はもう知ってる 『ルーム』
ルーム
[部屋]で生まれたジャックは、その朝、5歳になりました。毎朝、椅子やランプなど[部屋]にあいさつをして、ママと2人きりの1日が始まります。夜になると、ママを[部屋]に閉じ込めた“オールド・ニック”がやってくるので、そのときにはクローゼットの中で眠ったふり。あるとき、ママはこの絶望的な状況からジャックを救い、[部屋]しか知らない彼に本物の世界を見せるために、全てをかけた脱出作戦を計画します。しかし、ジャックの勇気と頑張りで、なんとか無事に外に出ることができた2人を待ち受けていたのは、また別の厳しさが待つ世界でした…。

女性作家エマ・ドナヒューによる世界的ベストセラー小説を映画化した『ルーム』は、ショッキングな題材ではあるものの、ジャックの目線と語りにより驚愕のストーリーが淡々と展開します。その[部屋]の残酷さや非道さは、健気なジャックとあまりに対照的で余計に胸に迫りますが、ジャックが醜い行為を見なくて済むようにしていることがせめてもの救い。

この映画の肝は、性犯罪のサバイバーの物語であることはもちろん、決して平穏とは言い難いリアルな世界を生き抜いていくために、何が大切かを教えてくれること。[部屋]の中での力強い親子関係があったからこそ、外に出てから、多くのものを失ったママにジャックが伝える言葉が沁みてきます。

初めて見た空の大きさ、眩しさに目を見開いておののき、戸惑いと驚きの中で少しずつ現実を受け入れていく男の子ジャックを演じたのは、カナダ出身のジェイコブ・トレンブレイくん。オスカーを獲得したブリー・ラーソンとともに来日した際には、そのキュートさで話題となりました。ブリーとは大好きな『スター・ウォーズ』の話で盛り上がり、[部屋]の小物を一緒に手づくりしたり、レイアウトすることで実の親子のように仲を深めていったそうです。
血縁だけじゃない、毎日の関わりが愛を育む 『メイジーの瞳』
メイジーの瞳
主人公はメイジー、6歳、NYに暮らす動物とお絵かきが好きな女の子。ママ(ジュリアン・ムーア)はカッコいいロックシンガー、パパ(スティーヴ・クーガン)はいつも忙しそうなアートディーラー。けんかばかりの2人は離婚し、メイジーはそれぞれの家を10日ごとに行き来することに…。

『キッズ・オールライト』の製作陣が贈るこの映画に登場する親たちは、それぞれ不規則な仕事とはいえ、幼いメイジーよりも自分の都合や気分、欲望が第一優先。メイジーも、そんなふうに自分の人生を生きる両親の姿はちょっぴり誇らしくもあり、もちろん大好きなのですが、やっぱり寂しさや複雑な思いはその瞳の中に見えます。両親もまた、決してメイジーを愛していないわけではなく、会うたびたくさん抱きしめて、たくさん「愛してる」と伝えます。しかし、一度もその言葉を口にはしなくても、一緒に今日の洋服を選んだり、お絵かきしたり、パンケーキをつくってくれるのは、両親の再婚相手のマーゴやリンカーン。メイジーの目線の世界へ下りてきて、日常を過ごしてくれます。

メイジーを演じるのは、実の母も女優で祖母が日本人というオナタ・アプリールちゃん。ソフィア・コッポラ作品で知られる衣装デザイナー、ステイシー・バタットが手がけた柄×柄や、ガーリー×ハードテイストの高度テクの子ども服をいとも簡単に着こなし、キュートで健気なメイジーを好演します。また、ママの再婚相手リンカーンを演じたのは、『ターザン:REBORN』のアレクサンダー・スカルスガルド。オナタちゃんとの身長差や、ガチ遊びに興じる姿は萌え度高し。そんなアレックス演じるリンカーンの腕にぶら下がるメイジーの瞳のキラキラこそ、子どもにとって最高の幸福感そのものでしょう。
家出して初めて気づく家族の大切さ 『天才スピヴェット』
天才スピヴェット
主人公は科学が得意な10歳の少年、T・S・スピヴェット。モンタナの牧場で一緒に暮らす家族は、時代遅れのカウボーイを地で行くパパ、つい研究に夢中になってしまう昆虫学者のママ、モンタナを出て女優になりたい姉、そしてT・Sの二卵性双生児の弟で元気いっぱい、パパのお気に入りのレイトン。ある日のこと、銃の暴発事故でレイトンが亡くなってしまいます。そんな中、T・Sのある発明が権威ある科学賞を受賞。この家族に自分の居場所はないと悟った彼は、たったひとり大陸横断の貨物列車に飛び乗り、授章式に出席するためワシントンDCまで出掛けることに…。

壮大なスケールで描かれる、天才少年スピヴェットの“プチ家出”。監督を務めたのは、『アメリ』で知られるフランスの鬼才ジャン=ピエール・ジュネです。監督らしいブラックでも温かいユーモアは、スピヴェットの頭の中で展開図のように説明され、時々アニメになって飛び出すので、ポップアップ絵本のようで遊び心たっぷり。「やっぱり我が家が一番…」と思わせてくれる、すてきな“家出”ファンタジーなのです。

冒頭、家族1人1人を紹介し、ワシントンからかかってきた1本の電話への受け答え方で、スピヴェットの知性と個性が見えてきます。まるで、少年版アメリ!? オーディションから抜擢され、実際にスピヴェットを演じたのはカイル・キャトレットくん。劇中でも披露するロシア語をはじめ6か国語を操り、さらに子ども対象の総合格闘技の3年連続世界チャンピオンでもある、リアルな天才少年なのでした。
大切な存在ほどそんなふうに思うのかも 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [DVD]
NYでパパ(トム・ハンクス)、ママ(サンドラ・ブロック)と家族3人暮らしていた9歳の少年オスカーは、感覚が鋭敏で頭がよく、自分で決めたルールは必ず守りたくて、つい1人でしゃべり続けてしまうところがあります。大好きなパパは、そんなオスカーに遊びの中でいろいろなことを教えてくれました。しかし、あの“最悪の日”9.11がやってきます。1年後、亡き父の所持品から“鍵”と人名らしき「ブラック」と書かれた封筒を見つけたオスカーは、パパが遺したメッセージだと思い、NY中の472人ものブラックさんに会いに行き、鍵穴を探そうとしますが…。

9.11文学の金字塔といわれる同名の世界的ベストセラーが原作。突然に訪れた最愛の人の死は、かなり知能が高いであろうオスカーにとっても、理解できないことばかり。空っぽの棺を埋葬するお葬式の意味、おばあちゃん家の口のきけない間借り人(マックス・フォン・シドー)の存在、誰にも秘密のあの日のパパからの留守電、それを取ることができなかった自分…。オスカーの悲しみが癒えるためには、NYじゅうを駆け回るぐらいの多くの時間と手間が必要だったのでしょう。

監督を務めたのは、『リトルダンサー』や『トラッシュ! この街が輝く日まで』など、少年の成長物語に定評のある名匠スティーヴン・ダルドリー。オスカーを演じたのは、クイズ番組のチャンピオンとなり、プロデューサーにスカウトされたという演技初挑戦のトーマス・ホーンくん。ダルドリー監督の指導の下、最愛の人を失った悲しみを抱えたオスカー少年を感情豊かに熱演します。

いずれも、厳しい現実を突きつけていながら、ラストには温かい涙と笑顔が自然にあふれてくる物語。子どもたちの無垢な感性による演技から、世知辛い現代にすっかり擦れてしまった自分自身を省みてみませんか?

Writer | 上原礼子

情報誌・女性誌等の編集・ライターをへて、現在はWEB「シネマカフェ」を中心にフリーに。子ども、ネコ、英国俳優などが弱点。看護師専門誌で映画&DVDコーナーを14年担当し、医療や死生観などにも関心アリ。試写(映画館)忘備録と、映画を通じて悲嘆を癒やす試み【映画でグリーフワーク】をFacebookにて随時更新中。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA