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見逃せない!2016年を代表するミニシアター映画の名作たち[後編]

2016.12.26(Mon) | 松村知恵美

2016年上半期に、ミニシアターランキングを彩った注目作をピックアップした今回の特集。
作品を並べてみると、あら不思議。ハッピーな作品が多かった前編とは打って変わって、なんだか“得体の知れない何者か”を描いた不穏な作品が揃っているような気がします。
得体の知れない天才、得体のしれない“それ”、得体の知れない裏切り者たち、得体の知れない老人、得体の知れない独裁者…。
英国のEU離脱決定、アメリカ大統領選のトランプ氏勝利、熊本地震にSMAP解散騒動…。今までの地盤が揺らぐような不安感を感じさせる時代の空気を映し出した作品が並んでいるような気がします。

『完全なるチェックメイト』
完全なるチェックメイト
トビー・マグワイアが実在のチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーを演じる『完全なるチェックメイト』。時は1972年、米ソ冷戦の最中に、ソビエト出身のチェス世界チャンピオンと国の威信をかけて戦うこととなった、ボビー・フィッシャーの姿を描いています。
ここで描かれるボビーは、チェスの才能に恵まれたIQ187の天才ながら、家族の愛に恵まれず、精神的に不安定になっている傲慢な男。トビー・マグワイアはそんなボビーを熱演し、手に汗握るチェスの戦いや、盤外の心理戦などを見事に表現しています。天才たちの駆け引きの奥深さと凄まじさに、チェスに詳しくない人でも楽しめる作品です。
『イット・フォローズ』
イット・フォローズ
人間ではない何者か、“それ”がゆっくり歩いて自分に迫ってくる。そして、“それ”に捕まれば殺されてしまう。肉体関係を結ぶことで“それ”は感染していく…。そんな奇妙でオリジナリティあふれる設定で話題となったティーン・ホラー。
いろいろな人物に姿を変えながら、自分に向かってまっすぐにゆっくり歩いてくる“それ”の恐怖は、なんとも言えない気持ちの悪いもの。日本にも貞子や伽倻子といったホラーアイコンがいるけれど、“それ”には彼女たちに匹敵するくらいのインパクトがあります。グロテスクな描写などはないけれど、じわじわ迫り来る怖さを感じさせるこの映画、これまでにはなかった新しい恐怖を味わさせてくれる意欲作です。
『インサイダーズ/内部者たち』
インサイダーズ
韓国の政治家がスキャンダルを巻き起こしている今、その内容がやけにリアルに感じられるのが、この『インサイダーズ/内部者たち』。韓国では歴代ナンバー1の大ヒット作品となりました。
本作で描かれるのは政治家と財閥企業、そしてマスコミの癒着。その癒着の構図を野心あふれる若手検事と復讐に燃えるチンピラ男のコンビが切り崩していく様は、なんともスリリング。手に汗握る展開が待ち受けています。
骨太な物語を支えるのは、イ・ビョンホン、チョ・スンウという実力派スター俳優たち。韓国映画ならではのリアルな暴力描写も満載ながら、彼らの演技から目が離せなくなってしまいます。策略を駆使した男たちの戦いを見事なエンターテインメントに昇華させた、見応えたっぷりの一作。
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
Mr.ホームズ
過去に何度も映像化されてきた名探偵、シャーロック・ホームズ。本作では「LOTR」シリーズのガンダルフ役などでおなじみの名優イアン・マッケランが、御年93歳になったホームズを演じています。
今作のホームズは、引退から30年を経て、少し物忘れも激しくなってきたおじいちゃん。唯一の心残りである30年前の未解決事件を調べるため、残された体力や知力を振り絞って事件に挑んでいきます。ホームズ家に暮らす家政婦の幼い息子・ロジャーとの交流に、少しほっこりさせられたりも。
終戦直後の日本・広島をホームズが訪れ、真田広之演じるミスター・ウメザキと出会うというサブストーリーなどもあり、重層的に展開していく物語に人生の機微を感じる一作です。
『帰ってきたヒトラー』
帰ってきたヒトラー
1945年に自殺したはずのアドルフ・ヒトラーが、なぜか死の直前に2014年にタイムスリップしていた、という大胆な設定の物語。偶然にヒトラーと出会ったリストラ寸前のTVディレクターが、彼を“TVヒトラー”という芸人として売り出して、いつの間にか人気者になってしまう様子を描いています。
基本的にはフィクションながらも、街でヒトラーに出会った一般人の反応は、すべてドキュメンタリー。ヒトラーの扮装をした俳優が街を歩き、一般のドイツ国民と会話をする様子をそのまま描いています。
戦後60年を過ぎた今、帰ってきたヒトラーがドイツ国民たちをアジテーションする姿は、かなり衝撃的。シニカル、かつユーモラスに現代のドイツを描き出した、注目の問題作です。

冒頭ではちょっと不穏なことを述べてしまいましたが、ここでピックアップした作品はどれも良作ばかり。得体の知れない存在だけではなく、彼らに立ち向かったり、不安定な彼らを支える存在もしっかりと描かれています。ボビー・フィッシャーにはライバルもいたけれどメンターもいたし、Mr.ホームズにはロジャーという愛すべき10歳の相棒がいたし、ヒトラーには彼を阻止しようとする市民たちもいたのです。 エンターテインメント作品を娯楽として味わいつつ、時代や世相に思いを馳せてみるというのも、年末年始にふさわしい楽しみ方の一つかもしれません。

見逃せない!2016年を代表するミニシアター映画の名作たち[前編]

Writer | 松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

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