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ダークファンタジーだけじゃない! 多彩な北欧映画をイッキ見

2017.01.15(Sun) | 足立美由紀

「北欧映画」と聞いて、どんな作品を思い浮かべますか? 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年/ラース・フォン・トリアー監督)でアイスランドの歌姫ビョークが演じた、視力を失いつつあるシングルマザーの過酷な運命はかなり衝撃的でしたし、『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年/トーマス・アルフレッドソン監督)に登場するヴァンパイアの少女の捕食風景は、幼い2人の恋物語という甘酸っぱさを吹き飛ばすインパクトがありました。北欧映画には白夜や雪景色、荒涼とした風景が登場することも多く、ダーク・ファンタジーのイメージを持つ方も多いかもしれません。でもそれだけじゃないんです!
今回はイッキ見したくなる“多彩な北欧映画”を5本紹介します。

ゆるネタコメディ?… 否! 不条理さがクセになる人間賛歌『さよなら、人類』
さよなら、人類
スウェーデンの奇才ロイ・アンダーソン監督によるブラックユーモアと技巧が詰まったアナログ巨編。散歩する惑星』(2000年)愛おしき隣人』(2007年)につぐ、人間をテーマとした“リビング・トリロジー三部作”の最終章です。この作品は第71回ヴェネツィア国際映画祭で、アカデミー賞受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や塚本晋也監督の野火ほか、世界各国から集められた強敵を押さえて金獅子賞に輝いた傑作です。

面白グッズを売り歩く冴えないセールスマンのサムとヨナタンが出会った、パッとしないけれど一生懸命に生きる人々の姿がショートエピソードで描かれます。そのどれもがブラックジョークが効いた小ネタやシニカル&哲学的な話なので、ともすればユルいコメディを見ている錯覚に陥ることもあるかもしれません。
ところが! そんなモヤモヤの先に突如現れる物語の主題~ヨナタンの苦しい胸の内が見えてくると。それまでのエピソードに対する印象がガラっと反転して、悲しいことや嬉しいこと全部ひっくるめて“人生”なのだという思いと共に、不器用に生きる登場人物への愛おしさがじわじわと湧いてきます。

そんなアンダーソン・マジックが心地いい本作。人類が終末に向かいつつある可能性を描いた“リビング・トリロジー三部作”の中でも、「本作には最も“生きる喜び”があふれている」と監督も語っています。
また監督が只者ではないことが分かるのが、絵画のように美しいそのビジュアル。巨大スタジオにセットが組まれたという全39シーンは、固定カメラを用いて1シーン1カットで撮影。置かれている大道具&小道具もかなりシンプルですが、チープというよりむしろレトロフュチャーの趣。その秘密は徹底的に練られた配置や色彩、遠近法の活用など、計算し尽くされた緻密なシンプルさにあるようです。
『悪党に粛清を』
悪党に粛清を
『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(公開中)や『ドクター・ストレンジ』(1月27日公開)に出演するなど、最近ハリウッド進出も順調なデンマーク俳優マッツ・ミケルセン主演のウエスタン・ノワール。

1870年代。敗戦後デンマークから単身海を渡り、苦労してアメリカで事業を成功させた元兵士ジョン。ようやく呼び寄せた妻子をならず者に殺されてしまい、怒ったジョンはそのならず者をすかさず射殺して開映早々“悪党を粛清”しちゃいます。しかし粛清しなければならないのはヤツだけじゃなかった! 成敗したならず者が地域一体を治める悪名高きデラルー大佐の弟だったことで、ジョンの戦いはさらに壮絶に…。

メガホンをとったのはデンマーク人監督クリスチャン・レブリング。1995年にラース・フォン・トリアーらとともに“ドグマ95”を提唱。10ヶ条からなる「純潔の誓い」で過剰な特殊効果の使用などを禁止する運動に参加していた人物です。現在その活動は休止しているようですが、つまりこの作品は、ストイックな映像美学を持つであろう監督が手掛けた“北欧西部劇”だということ!
この作品の制作にあたり、子供の頃から西部劇の大ファンだったというレブリング監督は、随所に「アメリカの古典的な西部劇へのオマージュ」を散りばめたそう。その言葉通り、本作では砂ぼこりが舞う荒涼とした大地を舞台に、西部劇必須の“ガンアクション”と王道の“復讐劇”が繰り広げられます。

また出演陣がいいですね。“悲哀を感じさせる寡黙な男ジョン”を「北欧の至宝」の異名を持つマッツ・ミケルセン、後にジョンと心を通わせる“敵側の声を失った情婦マデリン”をエヴァ・グリーン、そして“不敵で残虐なデラルー大佐”にジェフリー・ディーン・モーガンという豪華な布陣で、法や秩序のない世界で自らの居場所を作っていった者たちの闘いの物語を描き出しています。最近珍しい西部劇の中でも、「正統派」の冠がふさわしい完成度の高い一本です。
『ハロルドが笑う その日まで』
ハロルドが笑うその日まで
大型家具店の創設者誘拐を企む老人ハロルドのドタバタ劇ながら、コメディーでくくるにはあまりに切なくてハートウォミングなノルウェー発のヒューマンドラマ。長く厳しい冬を室内で過ごす北欧ではインテリアに格別の思い入れがあるそうで、そういう意味ではとても北欧っぽい映画なのではないでしょうか。

物語はハロルドが営む本物志向の家具店の隣に、あの有名家具店「IKEA」が北欧最大の店舗をオープンさせたところから始まります。予想通りハロルドは廃業に追い込まれ、家も失い、その心労がたたったのか愛する妻マルニィも急死。たった一人残されたハロルドは、憎たらしいIKEAの創業者カンプラードを誘拐して殺害することで、恨みを晴らそうします。

本当はハロルドだって自分が八つ当たりしていることは分かっているんです。でも全てをいっぺんに失ってしまったことはまぎれもない事実で、そしてなにより、誇りを持って売ってきた「高級家具」が「量産家具」に敵わなかったことが悲しくて…。クオリティでなくプライスが優先されたことにがっかりしてしまったんですよね。さてハロルドは、最後に笑うことができるのでしょうか?
『過去のない男』
過去のない男 [レンタル落ち]
日本でも人気の高いフィンランド人監督アキ・カウリスマキによる、記憶喪失になった男の行く末を描いたヒューマンドラマ。この作品は第55回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。

ヘルシンキで男が暴漢に襲われ、一命はとりとめたものの記憶喪失に。そんな厄介者に港町の住人がさまざまな手を差し伸べてくれたことで、男は貧しいながらも充実した生活を送り始めます。そしてある日、たまたま出かけた救世軍の炊き出しで、スタッフとして働いていたイルマに心奪われるのですが。
イルマと男は急速に打ち解けていきますが、銀行強盗事件に巻き込まれたことがきっかけで男の身元が判明してしまいます。故郷に戻り“過去”を取り戻すのか、それとも現在進行形の“今”を大切にするのか…。分別のついた大人の男女が選んだ結末に、きっと胸が熱くなるハズ。

この作品でもカウリスマキ映画のお約束~登場人物があまりしゃべらず、音楽で心情を語る手法は健在で、日本からもクレイジーケンバンド「ハワイの夜」が挿入歌として登場。作品に豊かな情感を与えています。
『好きにならずにいられない』
好きにならずにいられない [DVD]
アイスランド発、43歳独身の冴えない大男が落ちた淡い恋の物語。あの名匠フランシス・フォード・コッポラ監督も絶賛した、心に染みる感動作です。

単調な毎日を送るシャイでオタクのフーシは母親と二人暮らし。趣味はミニチュアの兵士と戦車を使って「エルアラメインの戦い」を再現することと、ラジオ番組にヘビメタをリクエストすること。そんなフーシを心配した母親は、カウボーイハットとダンスレッスンのチケットをプレゼントします。そして母親に促されて渋々行ったスクールの駐車場で素敵な女性シェヴンと出会ったことで、孤独だった人生に明るい光が差し込んで…。
職場の同僚のイジメにあったり、同じアパートの住人からロリコンの疑いをかけられたりと不運続きのフーシ。しかもようやく出会った運命の女性シェヴンは心に傷を負っていて、女性経験のないフーシにはかなりハードル高め…。そんな彼がコンプレックスを跳ね除け、少しづつ外の世界に飛び込んでいく姿に勇気をもらいます。観れば自然と力が湧いてくる、そんな温もりを与えてくれる珠玉の1本です。

~だけじゃない北欧映画の魅力は伝わりましたでしょうか。ジャンルは異なりますが、どの作品も観終えた後に希望の兆しが感じられる作品です。もし少しでも興味を持っていただけたのなら、この機会にイッキ見、してみてくださいね!

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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