ホーム > ダーク・ファンタジーとアートが融合。ティム・バートンの世界

ダーク・ファンタジーとアートが融合。ティム・バートンの世界

2017.02.05(Sun) | 足立美由紀

奇抜なキャラクター造形や独特の映像センスで、世界中に多くのファンを持つ鬼才ティム・バートン監督。ポップカルチャーから児童文学まで幅広いジャンルの題材を取り上げながらも、どの作品もティム・バートン流のダーク・ファンタジーの味わいがするから不思議です。そんな唯一無二の作家性を持つ監督作の中から、恐ろしさと可愛さが共存するアーティスティックな映像世界が楽しめる作品を5本ピックアップしました。

奇妙で愛嬌のある“キミョかわいい”子供たちが暮らすワンダーランドへようこそ! 『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
MissPeregrine_JPN_Launch1Sheet
ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストに52週連続でランクインしたランサム・リグズの児童文学「ハヤブヤが守る家」を原作に、孤独な少年と奇妙な子供たちがつむぐ友情と冒険のダークファンタジー。

周囲に馴染めない孤独な少年ジェイクは、謎の死を遂げた祖父の遺言で小さな島を訪れます。そこには怪しくも美しい女主人ミス・ペレグリンが特殊能力を持つ子供たちと暮らす屋敷が。時間をループさせ、何度も同じ1日を繰り替えすその島で、その名の通りハヤブサ(=ペレグリン)に変身できる能力を持つペレグリンと共に、ジェイクは恐ろしい怪物と対峙することに。

原作はアメリカ児童文学ですが、舞台は1940年、イギリスのどこかにある小さな島。そのため古城のようなとんがり屋根の屋敷やリスが暮らす大木も備えた広大なイングリッシュガーデンなど、まるでブリティッシュ童話のような世界が広がります。

とはいえやはり本作もティム・バートン映画。空中浮遊する能力を持つ美少女エマが、体が浮かないように履いている靴がゴス系ブーツだったり、白いマスクをかぶっている双子が妙に禍々しかったり、サミュエル・L・ジャクソン扮する悪役バロンの容姿がわりとホラーだったりします。おまけにミス・ペレグリンを演じたのは、凄みのある美貌が印象的なエヴァ・グリーンですからね。出身はフランスながらゴスの匂いがするエヴァが、今回はセクシー路線を抑え目にして、身を挺して子供たちを守る女主人役を粛々と演じています。

この作品でティムが伝えたかったのは、「個性的であることは悪いことではない」ということ。特殊な能力を持ったがゆえに世間から隔絶して暮らす彼らには、幼いころ独特の感性を持っていたことから周囲に馴染めず孤独だった監督の姿が投影されているのかもしれませんね。とにかく、彼らを襲う恐ろしいモンスターの造形といいバートン入魂のビジュアルアートが満載ですので、児童文学の枠を超えた“大人も楽しめるマジカル・アドベンチャー”として肩肘張らずにご賞味ください。

◆『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
2月3日(金) TOHOシネマズ日劇他全国公開
© 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.
『ビッグ・アイズ』
ビッグアイズ
60年代のアメリカで、ポップアート界を揺るがす一大騒動となった「ゴーストペインター事件」を元にしたアートドラマです。この作品でヒロインを演じたエイミー・アダムスは、第72回ゴールデン・グローブ賞(コメディ/ミュージカル)で最優秀主演女優賞を受賞しています。

作家ウォルター・キーンは大きな瞳が印象的な肖像画 “ビッグ・アイズ”シリーズで一躍ポップアート界の寵児となります。テレビのトークショーに出演したり、女性たちにチヤホヤされたりと派手な生活を送るウォルターでしたが、実はその絵を描いたのは彼ではなく、引っ込み思案の彼の妻マーガレット。口下手だった彼女はウォルターに丸め込まれ、ゴーストペインターを務めていたのでした。しかし、いつまでたっても事実を公表しない彼を不審に思ったマーガレットは、自分の想いが込められたビッグ・アイズを取り戻すため、裁判を起こすのですが。

ティム・バートン監督も長年のファンだという “ビッグ・アイズ”シリーズ。顔の半分はありそうな大きな目を特徴とするこの人物像は、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)や『フランケンウィニー』(2012年)などでも登場する、可愛いけれどちょっと恐ろしいキャラクターを彷彿とさせます。そんな共通項もバートンが映画化を熱望した理由の1つかもしれませんね。

また、それまでの“芸術絵画は手書きするもの”という既成概念を打ち破り、ポスターや絵葉書を量産して60年代の芸術文化に新風を吹き込んだその疾走感や、ポップなアートシーンも見どころです。
『ティム・バートンのコープスブライド』
ティム・バートンのコープスブライド [DVD]
ティム・バートンが原案・製作を手がけ、絶賛された『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』から12年。本作はバートン自ら監督を務めたストップモーション・アニメーションです。いわゆる“コマ撮り”と呼ばれるアニメで、立体物を少しずつ動かして1コマずつ撮影しています。

19世紀ヨーロッパ。成金の息子ビクター(ジョニー・デップ)は、破産した没落貴族の娘ヴィクトリア(エミリー・ワトソン)と結婚することに。いわゆる政略結婚なのですが、お互いに恋の予感がした2人は結構いい雰囲気。しかし、結婚式のリハーサルで不手際ばかりのビクターは、牧師から結婚延期を申し渡されてしまいます。なんとか結婚したいと夜の森で式の練習をするビクターでしたが、またしても不手際でコープス・ブライド(=死体の花嫁)のエミリー(ヘレナ・ボナム=カーター)に求婚してしまい、死者の国へと引きづり込まれて…。

ヨーロッパの街並みや死の国の住人であるエミリーの破れた花嫁衣裳がヒラヒラ舞う様子など、その幻想的なビジュアルはため息ものの美しさ。現世を味気ないモノトーンで色付けする一方で、死者の国をポップでカラフルに彩るなど皮肉の効かせ方も見事です。そしてコマ撮りとは思えないほど滑らかな登場人物たちの動きや時折挿入されるミュージカル的演出など、見ごたえアリの1本です。
『9 ナイン ~9番目の奇妙な人形~』
9ナイン
原案は第78回アカデミー賞短編アニメ映画賞にノミネートされたシェーン・アッカー監督作『9/nine』。当時UCLAの学生だったアッカー監督が卒業制作として手掛けたこの短編アニメを、「最高の11分だった」と絶賛したティム・バートンが全面的にバックアップして長編映画化した作品です。

舞台は人類滅亡後の荒廃した世界。背中に番号が書かれた、麻を縫い合わせて作った人形「9」(イライジャ・ウッド)は、同じようなデザインの麻人形「2」(マーティン・ランドー)と出会います。自分は仲間だと「2」は「9」に告げますが、そんな折、2人は突如現れた機械獣ビーストに襲われ、「9」をかばった「2」は光る装置に魂を吸われてしまいます。途方に暮れながらも、なんとか背中に1、5、6、8のナンバーを持つ4人の仲間と合流した「9」は、「5」(ジョン・C・ライリー)と共にコミュニティを離れ、「2」の救出に向かうのですが。

お腹に大きなジッパーがあったり、『ビートルジュース』に出てきそうな縦縞の服を着ていたり。ギョロギョロとした目を持つ小さな人形たちが、彼らよりだいぶ大きい人間世界の物を上手に使って生活を便利にしていく様子には、どこかユーモラスでキッチュな可愛らしさが漂います。そんなキモカワな彼らが圧倒的な力を持つ敵と戦い、今後担っていくであろう過酷な運命を長編で描き切った監督の類まれな才能に感心するとともに、バートンのプロデュース力にも拍手。
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 [DVD]
NYブロードウェイの人気ミュージカルをジョニー・デップ主演で映画化した衝撃のスリラー・ミュージカル。ジョニデはこの初となるミュージカル作品で第65回ゴールデングローブ賞(コメディ/ミュージカル)最優秀主演男優賞を受賞しています。

19世紀のイギリス・ロンドン。無実の罪で罰せられていたベンジャミン・パーカー(デップ)は、15年後にスウィーニー・トッドと名前を変え、故郷のフリート街に舞い戻ってきます。不味くて売れないパイ屋の二階に理髪店を開業した彼は、妻子を奪った悪徳判事ターピンへの報復をスタートさせて…。

復讐と狂気の連鎖を描いた本作は、今回紹介した5本の中でも最もダークでスプラッタな作品ですが、とりわけ衝撃的なのはスウィーニー・トッドが理髪店の客を殺害するシーン。バートンいわく「主人公の抑圧されてきた感情の爆発を、血の噴出で表現した」そうで、これまであまり観たことのないバートン作品が味わえます。その思い切った殺戮描写によって、日本では監督作初のR指定。興行的なリスクを被ってもショー本来の精神に忠実に従いたかったというディープな1作です。基本的に色彩はモノトーンで、キャラクターの感情が込められたシークエンスにはポイントカラーを施すなど、監督のアートな感性が生かされています。ジョニデの力強い歌声も必聴ですよ!

ティム・バートン監督の創作活動におけるベースのテーマは「ファンタジー」なのかなと思います。それに「ゴスカルチャー」や「スリラー」「ポップアート」というエッセンスを一滴、二滴~と組み合わせて垂らしていけばティム・バートン流「ダークファンタジー」の出来上がり! 今回取り上げた5作品、それぞれのエッセンスの違いもお楽しみください。

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA