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恐れずに踏み出そう 新しい人生への第一歩となる映画4選

2017.03.22(Wed) | 大和晶

人生のターニングポイントは、往々にして、突然、予想もしなかった形で訪れる。それも、年齢に関係なく。愕然とし、思い悩み、途方に暮れて、分岐点で立ち止まってしまう人々。それでも、人生が続いていく以上、いつかは方向を定めて歩きはじめなければならない。どんなに不安があろうとも、手遅れにならないうちに、なるべく早く、毅然として。

60歳を前にして次々と押し寄せる変化の波を潔くしなやかに受けとめ明日へと向かう『未来よ こんにちは』
未来よこんにちは
 年齢を重ねるほどに輝きを増す、フランス映画界の至宝イザペル・ユペール主演。ミア・ハンセン=ラブ監督が、第66回ベルリン国際映画祭銀熊(監督)賞に輝いた『未来よ こんにちは』は、50代後半のナタリーが主人公。パリの高校で哲学を教えるナタリーは、自分の仕事に誇りを持ち、子供たちが独立した後は、認知症を患う母親に手を焼きながらも、やはり哲学教師の夫と暮らす、穏やかな老後を想定していた。ところが、ある日、真面目一方と思っていた夫が、結婚25年目にして「好きな人ができた」と告白し、家を出て行ってしまう。唖然とし、呆れ返り、無性に怒りが込み上げてくるナタリー。それに追い討ちをかけるように母が死亡。さらに、長年懇意にしていた出版社は、売り上げ第一主義に趣旨変えして、ナタリーとの著作契約を打ち切り、自慢の元教え子ファビアンは、彼女の啓蒙思想を批判し離反していく。
 60歳を前に、怒涛のように襲い来る変化の波。それはナタリーに孤独な日々を押し付ける。けれど、彼女は立ち止まらない。孤独の代償に手に入れた、何ものにも束縛されない自由をしっかり掴み、より実りある自分の人生に向かって歩み出そうとするのだ。映画は、そうしたナタリーの姿を、ユーモアにアイロニカルなスパイスを効かせて、軽やかに綴っていく。夜の映画館で言い寄って来た男を、「顔を見た?」と突っぱねるナタリーの愉快さ。認知症の母親と交わす、エッジの効いた会話のリアルな可笑しみ。猫アレルギーの彼女に母が遺した、飼猫パンドラへの思いがけない愛着。確実にやって来る老いや、孤独という残酷な現実を、女性としての魅力を失うことなく、しなやかに潔く受け入れていくナタリーを、ユペールが自然体かつ機微豊かに体現し、大いに共感を喚起する。とりわけ、母と入れ替わるように誕生した、孫という新しい生命に向ける、ナタリー=ユペールの柔らかな目の輝きが忘れられない。

◆『未来よ こんにちは
配給:クレストインターナショナル
公開:3月25日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
(c)2016 CG Cinema・Arte France Cinema・DetailFilm・Rhone-Alpes Cinema
人生を一新するチャンスを掴むほんの少しの勇気を与えてくれる『新しい人生のはじめかた』
新しい人生のはじめかた
 離婚後、ニューヨークで勝手気ままな独り暮らしを謳歌してきた、CM音楽家の初老の男ハーヴェイ。傷つくことを恐れ、マンネリ化した日常に甘んじる、婚期を逸した40代女性ケイト。『新しい人生のはじめかた』は、そんな2人の偶然の出会いから始まる。舞台は、ハーヴェイが一人娘の結婚式に出席するために降り立ったロンドン。とはいえ、結婚式のスピーチもヴァージンロードの付添いも、元妻の再婚相手に持って行かれ、仕事で急遽引き返そうとしたNY行きの飛行機に乗り遅れたあげく、電話で上司からクビを宣告されたハーヴェイは、空港のバーで自棄酒。そこに、何度目かのお見合いデートに失敗し、一人でワインを傾けるケイトがいた。
 いつしか会話が弾み、ケイトに説得されたハーヴェイは、彼女と一緒に娘の披露宴へ。心行くまでダンスに興じる2人は、公園で尽きることのなく語り合う。これが幸せへのラストチャンス?!朝を迎えた彼らは、同じ公園で正午に再会することを約束するも、意地悪な運命の女神がその邪魔をする。ハーヴェイ役ダスティン・ホフマンと、ケイト役エマ・トンプソンが、若くもなくイケてもいない男女の揺れ動く心情を、説得力のある味わい深い演技で魅せ、しっとりとした情感を呼ぶ。そして教えてくれるのだ。年を取ったからといって、人間は完全にはなれないけれど、その気になれば、人生に「もう遅すぎる」ということはないのだ、と。
寂しさや哀しみを抱えつつも一歩踏み出すことで再び人生の輝きを取り戻す『クロワッサンで朝食を』
クロワッサンで朝食を
 夫と離婚し、子供たちは巣立ち、2年間介護した母も他界。心身共に疲れ切った中年女性アンヌは、心機一転とばかり、エストニアの田舎町から憧れのパリにやって来る。彼女の仕事は、パリ16区の高級アパルトマンに住む、エストニア出身の老婦人フリーダの世話係り。だが、フリーダの気難しさは天下一品。焼きたてクロワッサンを朝食に出さなかったアンヌは、早々に解雇を言い渡されてしまう。
 『クロワッサンで朝食を』は、出身地と内に秘めた寂しさ以外、まるで共通点のないフリーダとアンヌの心の歩み寄りを、微妙なニュアンスを活かして、丁寧に追っていく。自分の老いを受け入れられず、かつての愛に執着して殻に閉じこもるフリーダの哀しみ。演じるジャンヌ・モローのエレガントな貫禄が目を引く。やがて、フリーダはアンヌに心を開き、彼女にパリジェンヌとして生きる歓びを示唆。仲睦まじくパリを闊歩する2人は、共に人生の輝きを取り戻していく。
疲れても投げ出したくなっても立ち止らずにゴールを目指して走り走り続ける『人生はマラソンだ!』
人生はマラソンだ!
 経営不振の自動車修理工場を立て直そうと、中年男4人が発奮。「全員完走できたら借金を肩代わりしてもらう。完走できなかったら工場を譲る」という条件でスポンサーを口説き、ロッテルダム・マラソンに出場することになる。だが、常日頃、昼間から缶ビール片手にカードゲームに興じてきたメタホおやじ4人は、マラソンどころか、数分走っただけで青息吐息。練習を兼ねて参加したアムステルダム・マラソンも、渋滞に巻き込まれ、街に着いた時にはレースは終了。4人は禁じていたビールをしこたま飲んで、大騒ぎする始末だ。そんなこんなしながらも、徐々に走る楽しさに目覚めて、怠惰だった毎日から抜け出していく彼らは、ついにロッテルダム・マラソン当日を迎えるが…。人生はマラソンのようなもの。疲れて足元がふらついても、たとえ投げ出したくなったとしても、一歩一歩、歩を進め、走り続けなければならない。

誰だって未知の世界に踏み出すのは怖いし、ついつい躊躇して、馴染んだ日常に妥協してしまうもの。でも、勇気を振り絞って飛び出してみれば、きっと未来は開け、新しい自分、新しい人生と出会えるに違いない。

Writer | 大和晶

1989年から映画ライターの活動を開始。97年~06年、アジア映画専門誌「Movie Gong」で映画紹介、監督・俳優インタビュー、撮影現場取材を多数手がける。以降、シネマ倶楽部、Kappo、図書新聞、公明新聞、仏語学校HP、プレス、劇場用パンフなどに映画・DVD紹介を執筆。90年より毎年カンヌ国際映画祭にプレスとして参加。

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