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自分探しの旅と切っても切れない家族の絆を描く映画3選

2017.04.02(Sun) | 大和晶

自分は、本当にこの両親の子供だろうか。もしかしたら、生後まもなく、どこからか貰われたか、拾われてきたのではないか?子供の頃、真剣にそう考えたことが一度ならずあった。もちろん、何の根拠もない、単なる子供の妄想だが、今思うと、それが、私なりの「自分探し」「居場所探し」の始まりだったような気がする。

かすかな記憶を辿りGoogle Earthを駆使して故郷を探し当てた奇跡の実話『LION/ライオン ~25年目のただいま~』
LIONライオン
 5歳の頃、インド西部の小さな駅で、うっかり夜の回送列車に乗り込み眠ってしまい、そのまま東部の大都市コルタカまで運ばれてしまう主人公サルー。孤児院に収容された彼は、オーストラリアのタスマニアに住む夫婦に引き取られることに。25年後。養父母の愛情を一身に受けて何不自由なく育ったサルーは、ある日、インドの揚げ菓子ジャレビを目にした瞬間、脳裡に兄の姿が蘇えり愕然とする。自分には、インドに生き別れた家族がいる?!きっと今も自分を探し続けているにちがいない、実の母と兄が…。その日から、唯一覚えている、あの駅から見えた給水塔とGoogle Earthを頼りに、サルーの途方もない“自分のルーツ捜索の旅”が始まる。
 映画は、徐々に蘇える記憶の断片と、モニターに映し出されたインドの地図を照らし合わせながら、いつ果てるともしれない故郷探索を、憑かれたようにやり続けるサルーの姿を、揺るぎないテンションで追っていく。しかも、その心中は複雑だ。自分でさえ把握できない数奇な人生に巻き込むことを恐れて、心配する恋人ルーシーを遠ざける辛さ。自分を大切に育ててくれた養父母に申し訳なくて、仕事まで辞めた理由を説明できないもどかしさと後ろめたさ。その結果、彼が置かれた絶対的孤独。そうしたサルーの揺れ動く心情の綾を、自らこの役を熱望したというデヴ・パテルが、繊細かつ機微豊かに演じ、リアルな手応えと共に、熱い塊が胸の奥深くに突き刺さる。加えて、たった5歳の男の子サルーが見せた、見知らぬ街で生き抜くための、驚くべき聡明さと生命力に、幼気なくも真っ直ぐでイノセントな瞳の輝き。だからこそ、観客は、サルーがようやく辿り着いた故郷での実母との再会を、我が事のように喜び、祝福し、ホッと胸をなで下ろしてしまうのだろう。それに、サルーが必死で手繰り寄せた、実の家族との絆は、25年間育んできた養父母との絆と家族愛を、強めることはあっても、決して損ないはしないのだから。
ハーブティーが誘う奇想天外でハートウォーミングな自分探しファンタジー『ぼくを探しに』
ぼくを探しに
 幼いの頃に両親と死別し、そのショックで言葉を話せなくなった上、幼少期の記憶を封印したまま33歳の誕生日を迎えたポール。彼は、育ての親である、ダンス教室を営む少々風変わりな伯母姉妹と暮らしていた。ある時、ポールは同じアパルトマンに住むマダム・プルーストと知り合い、マダム特製のハーブティーを勧められる。それを一口飲むと、アラ不思議。頭の中に、赤ん坊の頃の幸せな記憶が、夢のように浮かんできたのだ。
 伯母たちに内緒でマダム・プルーストを訪ねては、ハーブティーを飲んで記憶を遡り、固く閉ざされた心の扉を、少しずつ開け放していくポール。その記憶の旅を綴る、ミュージカルやダンス、カエル楽団の演奏などを盛り込んだ、カラフルでイマジネーションあふれる映像と語り口が楽しい。ただし、紐解かれていくのが、必ずしも良い思い出ばかりとは限らない。幼いポールが無意識に封印した負の記憶もまた、一緒に解き明かされていくのである。それでも、勇気を出して真実と立ち向かわなければ、本当の自分を探し出すことはできない。台詞のない難役ポールを、ギョーム・グイが、豊富なボディランゲージで巧みに体現。フランスの文豪マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」のエッセンスを織り交ぜ、フランス映画らしいエスプリを利かせた、ユニークな1本だ。
亡き父の宿願を叶えるアメリカ縦断の旅を通して自分自身を見出していく『きっと ここが帰る場所』
きっとここが帰る場所
 かつて絶大なる人気を誇った、ロック界のスーパースター、シャイアン。だが今は、ダブリンにある邸宅で、消防士の妻と2人,人目を避けるようにひっそりと日々を過ごしている。現役時代を偲ばせる厚化粧とヘアースタイル、ファッションが、滑稽というか痛々しいというか。演じるは、監督としても世界に名を馳せるオスカー俳優ショーン・ペン。卓越した内面演技は言うに及ばず、役柄によってガラリと印象を変える彼の本領発揮だ。とにかく、その異彩を放つ強烈な存在感に、冒頭から目は釘付けである。
 それはともかく、死んだように無気力な毎日を送っているシャイアンのもとに、30年以上疎遠だった父の危篤の知らせが、故国アメリカから届く。飛行機嫌いのシャイアンが、船でニューヨークに着いた時には、すでに父親は他界。その葬儀の日。彼は、ユダヤ人である父が、アウシュヴィッツ収容所を管理していたSS隊員アロイス・ランゲに復讐すべく、男の消息を追っていたことを知る。父の遺恨を晴らそう。かくして、ランゲ追跡のためのアメリカ縦断の旅がスタートする。
 その過程で明らかになっていく、シャイアンの突然の引退理由。彼は、自分の曲を聴いて自殺した兄弟の悲劇に衝撃を受け、以来、無力感と罪悪感に苛まれていたのだ。けれど、旅をしながら様々な人と出会い、それをきっかけに自分と父の関係を見直して、シャイアンは本来の自分自身を見出し、取り戻していく。同時に、父不在、息子不在だった長い時間も埋めつつ。旅を終えてシャイアンが帰っていく場所は、音楽の世界だろうか。それとも、妻が待つダブリンの自宅だろうか。いずれにせよ、彼が息を吹き返し、再び自分の人生を歩みはじることは確かだろう。

実際に世界各地を放浪して歩いたり、静かに瞑想して自分の心の深淵と真摯に向き合ったり。「自分探しの旅」の形は千差万別。ただ、生きるということは、自分探しの旅の連続なのかもしれない。そして、自分がいつか帰る場所、旅の果てに見つけた自分の居場所とは、自分を見守り待っていてくれる人のいる所にちがいない。

Writer | 大和晶

1989年から映画ライターの活動を開始。97年~06年、アジア映画専門誌「Movie Gong」で映画紹介、監督・俳優インタビュー、撮影現場取材を多数手がける。以降、シネマ倶楽部、Kappo、図書新聞、公明新聞、仏語学校HP、プレス、劇場用パンフなどに映画・DVD紹介を執筆。90年より毎年カンヌ国際映画祭にプレスとして参加。

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