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「湯を沸かすほどの熱い愛」ほか中野量太監督作品3選

2017.05.01(Mon) | 小林未亜

邦画の良作ぞろいだった2016年の劇場公開作の中にあって、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞&最優秀助演女優賞をはじめ数々の映画賞を受賞、そして何より「2016年のナンバーワン」に推す熱い声の多い「湯を沸かすほどの熱い愛」が青山シアターで配信スタート。
宮沢りえ、杉咲花、オダギリジョー、松坂桃李と、キャストは超大作級だけれど、メガホンをとったのは自身のオリジナル脚本にして今作が商業デビューとなる中野量太監督。

今後の日本映画界を確実に担うであろう中野量太監督の才能を、「湯を沸かすほどの熱い愛」を含む配信中の3作で確認を!

豪華俳優たちが脚本に惚れた商業デビュー作 『湯を沸かすほどの熱い愛』
湯を沸かすほどの愛_縦
「湯気のごとく、店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません。」と書かれた貼り紙もだいぶくたびれている、休業中の銭湯・幸の湯。夫が出て行って1年、明るく強く、一人で娘を育てていた双葉“お母ちゃん”だったが、ある日突然末期ガンで余命2か月と宣告されてしまう。その日から彼女は、残された家族のため「どうしてもやらなきゃいけないこと」を実行。それは、家出した夫を連れ帰って銭湯を再開させること、娘を独り立ちさせること、そして娘をある人に会わせること…。

自身の余命に打ちひしがれる時間は、お腹を空かせた娘からの電話をもって終了し、一気に奮い立つお母ちゃん。1年ぶりに会うだんなにはお玉で喝!、いじめに苦しむ娘には逃げずに立ち向かえと叱咤、さらには進む道がぼやけた初対面のヒッチハイカーには耳に痛い言葉を容赦なくぶつける。お母ちゃんの行動は厳しいけれど、触れる人すべてを包み込む愛と優しさ、強さにあふれ、それは彼女が夫探しを依頼した探偵ですらも魅了されるほど。

いわゆる余命モノとは一線を画すアグレッシブな展開、するすると回収される伏線、観た人たちでざわつける“衝撃のラスト”など、感動と共に爽快感すら感じさせる脚本・演出が見事。そして、お母ちゃんを演じた宮沢りえ、たくましく成長する安澄役の杉咲花、新たに家族になる鮎子役の伊東蒼、憎めないお父ちゃん・オダギリジョー、影のある爽やか青年・拓海役の松坂桃李、憂いと優しさがにじむ探偵役の駿河太郎…。見たらこの人以外考えられないと思える完璧なキャストの熱演に、感情をグッと持っていかれる!
国内外の映画祭で絶賛! 『チチを撮りに』
チチを撮りに
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭ほか各国の映画祭に招待され、国内外で14の賞に輝いた作品。

フリーターの姉・葉月と女子高生の妹・呼春がお母ちゃんに頼まれたお使い…それはもうすぐ死んでしまうというお父さんに会いに行き、その顔を写真に撮ってくること。14年前に女の人と出て行ったお父さんについて、2人の中に残る記憶はほとんどない。戸惑いながら2人は会いに行くも、着く前にお父さんは亡き人に。そして異母兄弟の少年や優しい叔父に迎えられ、2人は葬式に参列する。

父の死に「悲しんだ方がいいの?」「写真撮った方がいいのかな?」と気持ちの落としどころがわからない2人。しかし棺の中の父の顔を見て、異母兄弟の少年に話を聞いて、自分たちと父とのひそかな繋がりを感じ、何だかにやついてしまう。そんななか、家族の死がもたらす、悲しみとは別の現実を2人は突きつけられる。

姉は昼キャバで働き、妹は学校をさぼりがちと、どこか危なっかしく見えた姉妹が、母を守るために奮闘するさまに愛おしさがこみ上げる。そんな2人を誇らしく見守る母の凛とした佇まいも素敵。そして、衝撃は「湯を沸かすほどの熱い愛」以上!?とも言えるラストに、鑑賞後はしばし呆然…!
実は人気俳優が出演している短編作品 『琥珀色のキラキラ』
琥珀色のキラキラ
最後は、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業ndjc:若手映画作家育成プロジェクトの参加作品として、35mmフィルムで製作された約30分の短編映画。

物語は、“琥珀色”の検尿を回収する学校の教室のシーンから始まる。クラスで1人提出を忘れた中学一年生の涼子は、二年前に母を病気で亡くし父と2人暮らし。3か月前から父の恋人・道子さんが週に2回会いにやって来るという、ちょっぴり微妙な家庭状況。そして前日に続き、涼子が再び検尿を忘れそうになったことから物語が動き出す。

内気でピュア、家族を失う悲しみを知る涼子を演じる松原菜野花は、「湯を沸かすほどの熱い愛」ではいじめっ子、「チチを撮りに」では妹・呼春を演じた中野作品の常連さん。また、道子役に尾野真千子、父親役に小市慢太郎、本屋の店員役に滝藤賢一と、長編で見させてください!と言いたくなるほど贅沢なキャストが集結。短い時間の中で、尿というユニークなモチーフをもって家族の絆を描き出した、監督の才能をとことん感じる一作。

中野量太監督が一貫して描いているのが家族。さらには、家族を亡くし、残された者がどう生きるか。“衝撃のラスト”などとあおってしまうように、作中の家族の行動は、そこだけ切り取ると少し突飛だけれど、人物やそれぞれの関係性がとにかく丁寧に描かれるので、そこに至る感情に共感できつつの、「そう来たか!」「やられた!」といううれしい衝撃なのです。中野作品の中の愛すべき“家族”をぜひご覧ください。

Writer | 小林未亜

編集プロダクションに勤務し、情報誌やWEBの編集・取材・原稿執筆をしています。かつて勤めていた映画館が2つともクローズしてしまったのが悲しく、休日はなるべく映画館へ。この仕事をしていても「衝撃の結末!」などのあおりに弱い

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