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食うことは祭りや!

2017.05.03(Wed) | 仲谷暢之

以前、ある芸人さんと食事中、「食べるということは毎回祭りやと思わなアカンで!祭りはハレの場、食事もそういう場と考えたら毎回食べることに興味がわくし、テンションも上がる。それはどんな食事の時もそう!」と話してくれはったことがずっと心に残ってます。それ以降、食事するごとにふと思い出され、たとえひとりメシの時も、時間のない時のテキトーメシの時でも食うことは祭りや!と意識しながら食べてます。ということで今回は食べることはやはり祭りである!ということを描いた作品を紹介したいと思います。

『二郎は鮨の夢を見る』
二郎は鮨の夢を見る
 銀座にある『すきやばし次郎』というお寿司屋さん。10席ほどの小さなお店で寿司を握る店主、小野二郎さんはある日を境に一躍世界中から注目されることとなる。それはミシュランガイドが2007年、日本で初めて出版された時、三つ星を獲得したから。以後、世界中のVIPも訪れるようになり、寿司職人の小野二郎さんは神格化され、さらに様々な噂やエピソードが尾ひれはひれのように生まれ、グルメと自称、または呼ばれる方々の中では伝説の店と化している。
 実は三つ星を獲得された翌年、ある方から「すきやばし次郎さん、予約取れたから一緒にどない?」とお誘いを受けたことがある。しかもご馳走してくれはると。天にも昇る気持ちで狂喜乱舞したものの、家庭の事情で日が合わず泣く泣くお断りした。のちに誘っていただいた方から話をお聞きするとやはり絶品だったそうで、それを聞いてからはいつか食べに生きたいと思いつつずっと次郎妄想が膨らみ続けている。そんな中での今回のドキュメンタリー映画。
 『二郎は鮨の夢を見る』ってタイトルが一瞬、フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』みたいだなぁと思って、まさか寿司とSFが融合するのかとバカなことを考えたりもしたのだけど、いたって真面目に寿司と対峙する小野二郎さんと、二人の息子さん、そして店で働くお弟子さんたちの姿を捉え、インタビューしたもの。
 まず、監督が次郎の寿司を食べて心から感激したんだろうなぁというのが画面から溢れ出ている。でもただただ心酔しているのではなく、小野二郎さんがもし握れなくなったらどうするかという部分もきっちりと描いているのが素晴らしい。仕事、そして味を、次に“継承”していくことを繊細に紡いでいることにも好感が持てました。
 何より寿司!客前に出されるそのフォルムの美しさは当然ながら、ネタへのこだわりと下拵えの丁寧さにはだから三つ星として評価されるのだろうなぁと、ただ圧倒されます。あぁ、すきやばし二郎へ行きたい!
 ちなみに印象的でこのドキュメンタリーに合っている音楽を担当したのがスティーブン・ダルトリー監督の『めぐりあう時間たち』のフィリップ・グラスだったのには驚きました。
『料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命』
料理人ガストン・アクリオ
 名前は知っていましたが、こんな人だとは思いませんでした。というのがこのドキュメンタリー映画を見終わった個人的な感想。
 ガストン・アクリオは、ペルーの国民的人気シェフであり、世界的にも有名なトップシェフ。彼のこだわりは地産地消。フランスでも活躍していた彼が、故郷に目を向けると食に対してペルーはあらゆることで遅れている、これをなんとかせねばと帰国し、レストランを開店し、母国の食材を使うことにこだわり、かつそれまで培った経験と天才的なひらめき、味覚を駆使してペルービアン(新しいペルー料理)を発信していくことに。
 さらに食育を広めるために子どもたちのために畑を作り農業を教えようとしたり、貧しい子どもたちのために料理学校を作ったり、生産者の元を訪れて、暮らし向きを向上させようとしたりと、母国のために奔走する彼の姿には、自分ができるのは食で変えることという信念が溢れかえってます。
 登場する料理はセビーチェ(ライムジュースなどでマリネしたお刺身)など郷土料理をモダンに変えたもの。彼が「料理人は料理のリズムを聞く耳が必要です」と言ってるのだけど、まさに彼の料理からはリズムを感じ取れる見た目にもウキウキしそうなものばかり。
 正直、ペルー料理と聞いて頭に浮かぶものは?と聞かれるとジャガイモやトウモロコシを使ったものや最近ではキヌアぐらいしか名前が出てこない。でもこの映画を見ると実はいろんな料理があって、食の宝庫であるというのがわかります。調べてみると結構日本中、ペルー料理屋さんがあるみたい。この作品をきっかけにして、彼の母国での奮闘ぶりに想いを馳せて、ペルー料理を食べにいくってのもありです。
『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』
エル・ブリの秘密
 世界最高のシェフの一人と位置付けられているフェラン・アドリアが料理長を務めたスペインにある三つ星レストラン『エル・ブリ(エル・ブジとも言う)』の裏側を追ったドキュメンタリー。
 アドリアは分子ガストロミーと呼ばれる化学と料理の関係を追求し有名になった人。ここ数年、“エスプーマ”と呼ばれる亜酸化窒素を使って、あらゆる食材をムースみたいな柔らかく細かい泡状にすることができる画期的な調理法を使った料理を提供するお店が増えてますが、それを開発。
 自分も数年前、ある高級居酒屋で濃厚ふわふわクリーム豆腐なるものをいただいた時に、何も入っていないお皿へ、うやうやしく持ち出されたディスペンサーから、ニュルニュルニュルっと泡状の豆腐が出てきたので、これってもしかしてあのエスプーマ?と尋ねると、店のスタッフさんに思いっきりドヤ顔された思い出が。
 とはいえ豆腐をエスプーマ状態で食べたことがなかったので、口に入れた時に視覚と味覚のバランスがうまく取れなくて一瞬戸惑ってしまったほど。でもこれがアドリアにとっては食べることへのサプライズ、まさに食うことは祭り!を提供するための調理法やったんやろなぁ、しかもスペインのお店でしか食べられなかったのが、今やこうやって居酒屋でも食べられるまでに普及するなんて!と思いを馳せました。
 映画では、静謐すぎる緊張感漂う厨房での新メニュー開発の試行錯誤が描かれています。食べ物を扱っているのに、化学実験教室のような趣。でも徐々に完成されていく新メニューは本当に美しく芸術作品そのもの。「もう、食べるのもったいない~」と、ダメグルメリポーターが言いそうなコメントしかできないほど。
 残念ながら2011年にお店は閉店してしまい今は食べられない幻の料理、でもここから生まれた調理法は確実に世界に広まっているのは事実。アドリア自身は今も料理研究機関で調理法の研究に勤しんではるそうで、次はどんな驚きの調理法を発表してくれるのか楽しみです。
『シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』
シェフ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~
 というわけで、先に紹介したドキュメンタリー3作品を見てからこの映画を見ていただくと、きっと笑えること間違いなし。仕事を選ばない男(『ニキータ』からドラえもんまで)、ジャン・レノは、超高級レストランのベテランシェフ役。三つ星を長年守り抜いてきたものの、スランプ状態。オーナーからは星を一つでも落としたらクビ!と言われ絶体絶命。そんな時、我を通し、生意気すぎて数多のレストランでトラブルを起こしクビになってきた、天才的な舌を持つ若手シェフ(フランスのコメディアン、ミカエル・ユーン)を発見。彼をスカウトして一緒にレストランの星を守ろうとするのですが、はたしてベテランシェフと若手シェフはうまくいくのだろうか・・・って話。
 その昔、ジャクリーン・ビセットとジョン・シーガル主演の『料理長殿、ご用心!』という次々と人気シェフが殺されていくというサスペンスコメディ映画があったのだけど、当時のグルメを巡るエピソードがふんだんにちりばめられていて面白かったのだけど、今作は殺人は絡まないものの、前記した映画と同様、ミシュランガイドの星をめぐるエピソードや、エル・ブリの分子ガストロミーへの皮肉、日本人グルマンへのヘンテコなディスり方、料理番組でのバカバカしいやりとりなどなど今のグルメをめぐる風刺がたっぷり。しかも若手シェフやベテランシェフを助けるのが、老人ホームで働く人種も年齢も違う素人シェフたちという多様性もきっちり。何より、どんな年齢でも食べることが本当に好きという描写にはニンマリ。

食を描いた映画は他にもたくさんあるけれど、今回はここまで。ぜひこの映画を見て食べることへの興味を掻き立て、毎食、祭りを開いてください。

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

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