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その進化から目が離せない! 綾野剛、変幻自在なフィルモグラフィー

2017.05.26(Fri) | 足立美由紀

クールで知的な大人の香り漂う俳優・綾野剛。今年『日本で一番悪い奴ら』(2016年/白石和彌監督)で日本アカデミー賞・主演男優賞(優秀賞)を受賞した実力派の彼は、これまで多彩なジャンルで幅広い役柄を演じてきました。今回は作品の世界観に応じて変幻自在に姿を変える、カメレオン俳優・綾野剛の最新&注目映画を5本紹介します。

剣の道に生きる男たちの人生が交差する…。『武曲 MUKOKU』
武曲 MUKOKU
鎌倉を舞台につむがれる芥川賞作家・藤沢周の同名小説を、夏の終り(2013年)から3年ぶりのタッグとなる監督・熊切和嘉×主演・綾野剛で映画化。剣の道に生きた父親への葛藤を抱える男と、剣道の天賦の才を見出された少年の人生が交差する武骨な人間ドラマです。

綾野剛は、剣道5段の達人ながら父親(小林薫)とのある事件を境に剣を捨て、酒浸りの毎日を送る矢田部研吾を演じています。剣道の師匠・光邑(みつむら/柄本明)は、そんな研吾を案じ、非凡な剣道の才を秘めた今ドキの高校生・羽田融(はだとおる/村上虹郎)を差し向けるのですが…。

“人生に迷う男”役としては、孤高の作家・佐藤泰志原作そこのみにて光輝く(2014年)で先に進めない主人公・達夫を演じ高く評価された綾野剛ですが、本作の研吾はより深い死のイメージに囚われ、時として人の道を外れてしまうぐらいの醜態をさらします。一方、光邑師範の導きで剣道の魅力に目覚めた融もまた、死に対するトラウマを抱えていて。物語は急激に剣士として成長していく“剣に出会った男・融”と、切ない過去が明らかになっていく“剣を捨てた男・研吾”を丁寧な描写で交互に映し出しつつも、「死」と「剣」という共通項を持つ2人の間で静かにオリのようにたまっていく、宿命ともいえる闘いの予感にゾクゾクさせられます。

そんな最高潮までたまった緊張感が一気に開放されるのが、映画的ダイナミズムをもって描かれる台風の夜の決闘シーン。息苦しいほどの激しい豪雨が降りしきる、漆黒の闇に包まれた研吾の生家の庭で、現代の侍たちは雨と泥にまみれて壮絶な闘いを繰り広げます。光と影をくっきりと映し出す印象的なライティングによって浮かび上がる、綾野剛の鬼気迫る佇まいと村上虹郎の精悍な眼差しが素晴らしい! 熊切演出が冴えわたる本作で、鍛え上げられた肉体美も披露した綾野剛の新境地をどうぞご堪能ください。

◆『武曲 MUKOKU
6月3日(土)より全国公開
(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
過熱するマスコミ報道、ネット拡散、炎上…。現代社会の闇を描く『白ゆき姫殺人事件』
白ゆき姫殺人事件
湊かなえの傑作小説を、殿、利息でござる!(2016年)の中村義洋監督が映画化。化粧品会社に勤める美人OL殺害事件の真相をめぐり、過熱していくマスコミ報道や世論に警鐘を鳴らす社会派ミステリーです。

本作で綾野剛が務めたテレビ局の契約ディレクター・赤星は、仕事もせずにツイッターでラーメン情報ばかり呟いているダメ社員。特ダネが欲しかった彼は、殺された美人OL典子(菜々緒)と同じ会社だったという知り合いの容疑者タレ込み情報を鵜呑みにしてしまいます。確証のないまま典子の同僚・城野美姫(井上真央)が容疑者としてテレビやネットに拡散。周辺人物の証言や憶測は悪意を持って切り取られ、過去の出来事が都合の良いように捻じ曲げられる悪夢にゾゾゾッ。冤罪の可能性を直視せず、薄っぺらな正義感を振りかざし騒動を先導する赤星を、綾野剛が軽薄かつ功名心に取りつかれた男として見事に体現。テレビ局の後輩・長谷川(染谷将太)の忠告も意に介さない “視野の狭い人物”として演じ切っています。

本作で中村監督は、悪意の連鎖によってデマがあたかも真実のように伝搬していく様を、現代社会の闇として煽情的に描写。人間は物事を自分に都合良く解釈する生き物であるということを痛感させられる挑発的な作品です。
瀬戸内寂聴の自伝的小説を映画化した大人のラブストーリー『夏の終り』
夏の終り
尼僧にして作家・瀬戸内寂聴が自身の体験を基につづったベストセラー小説を、熊切和嘉監督が満島ひかり主演で映画化。2人の男性の間で揺れ動く、愛に生きた女性の苦悩を濃密に描く大人のラブストーリーです。

主人公の知子(満島)は、妻子もちの年上の作家・小杉慎吾(小林薫)と同棲しています。小杉は知子の家と妻子が暮らす家を1週間きっちり半分ずつ分けて行き来するような、几帳面(=ナイーブ)な男。お互い自立した関係と割り切っていたはずの知子の元に、かつて夫と娘を捨てて一緒に駆け落ちした年下男・木下涼太(綾野)が訪ねてきて…。

綾野剛演じる木下は、知子への刹那的な愛に身を焦がす好青年。木下に愛され激しく求められることで、知子は満たされない小杉との生活に疲れて切っていたことを悟る~という重要な役どころです。綾野剛が嫉妬と孤独で悶える男を演じると、こんなにも生々しくて魅力的に!
愛した人は殺人犯なのか? 信頼する心に揺さぶりをかける『怒り』
怒り
日本中を席巻した原作:吉田修一×監督・脚本:李相日の悪人(2016年)コンビが贈る、愛と疑心暗鬼の狭間で揺れる人々を活写したセンセーショナルな感動作。

東京・八王子で起きた夫婦惨殺事件。現場の壁に「怒」という血文字を残して逃走した犯人の公開捜査が開始され、テレビでは整形手術で顔を変えたという犯人のモンタージュ写真が報道されています。そんな折、千葉・東京・沖縄の3カ所それぞれに素性の知れぬ男たちが現れるのですが、綾野剛は東京パートの不審人物として登場。ゲイのエリート会社員・藤田優馬(妻夫木聡)に拾われる、謎多き大西直人を妖しい魅力で演じています。

この他の犯人候補として、千葉の漁港にふらっと現れた田代に松山ケンイチ、沖縄の離島で暮らすフリーター・田中に森山未來が配役。また渡辺謙、宮崎あおい、広瀬すずほか豪華俳優陣が脇を固めるなど、メインキャストみな主役級という贅沢な布陣で織り成す苦悩に満ちた人間ドラマが、心に重い楔(くさび)を打ち込みます。
岩井俊二のファンタジック世界が全開『リップヴァンウィンクルの花嫁』
リップヴァンウィンクルの花嫁
監督・原作・脚本を務めるのは、この夏に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993年)が劇場アニメ化される岩井俊二。離婚後、「なんでも屋」で働くことになった女性が、奇妙なお屋敷で住み込みのメイドとなるファンタジック・ドラマです。

綾野剛は、七海に月給100万円(!)という高額のバイトを斡旋する「なんでも屋」の安室役。ネットの出会い系サイトで結婚相手を探し、披露宴に出席する参列者をバイトで雇う~どこかフワフワと生きている皆川七海(黒木華)を言葉巧みにスタッフに引き入れるなど、狡猾さと無邪気さを併せ持つ本心の見えないミステリアスな男を軽妙に演じています。

主人公・七海を演じた黒木華は本作で日本アカデミー賞・主演女優賞(優秀賞)を受賞。岩井ワールド全開のフェティッシュな世界で、孤独と不安とともに生きる現代女性を好演しています。

常日頃から“役者としてジャンルや規模に関わらず様々な役柄に挑戦していきたい”という意欲を見せている綾野剛。2017年下半期には不死身のテロリストに扮した『亜人』(9月30日公開)、嵐の二宮和也と共演する『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』(11月3日)が公開予定。新作~待機作と、今度はどんな顔を見せてくれるのか楽しみです!

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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