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青山シアターだけで見られる映画『Starting Over』、特別上映イベントレポート

2017.06.21(Wed) | 松村知恵美

1983年生まれの若い西原孝至監督が手がけた映画『Starting Over』。19歳の奈々が女同士の恋人である同級生の真凛との関係や、心を病んだ母親との関係に悩みながら愛の意味を探っていく物語です。主人公の奈々を演じるのは秋月三佳。奈々の恋人である真凛を遠藤新菜が演じています。さらに、奈々の母親役に渡辺真起子、母の恋人役に渋川清彦という実力派俳優も参加し、物語を支えています。
本作はテレビのドキュメンタリー番組のディレクターをしている西原孝至監督ほか、メインスタッフは3名という少人数で制作された自主制作作品。2014年の東京国際映画祭<日本映画スプラッシュ部門>で上映されたり、国内外10箇所以上の映画祭に正式招待されるなど、高い評価を得ました。

この作品は現在、青山シアターで配信中。劇場公開の予定は今のところなく、青山シアターのみで見ることができます。

先日、東京・永田町のSPACE 0にてこの『Starting Over』の上映会が行われました。上映後にはティーチインも実施され、西原孝至監督、秋月三佳、遠藤新菜の三人が作品について語ってくれました。この作品をスクリーンで鑑賞できる貴重な機会ということで、当日は多くのファンも参加しており、中には台湾からこの上映会に参加するために来日したというコアなファンも…。観客からの質問なども寄せられ、作品の裏話などを聞くことができました。

ドキュメンタリー畑出身の監督が少人数のスタッフで制作した自主制作映画
StartingOver
西原監督「普段はテレビのドキュメンタリー番組のディレクターをしています。その場合、ディレクターとカメラマンだけとか、多くても3名くらいのスタッフで撮影するんですね。そういうスタイルでフィクションの映画を作れないかなと考えて、2013年にこの作品の脚本を書きました。それで、最低限のスタッフで自主制作で撮影したんです。みんなの都合のつく日を合わせて作ったので、撮影期間は6ヶ月あったんですけど、2ヶ月くらい間が空くこともありましたね」

秋月三佳「今回、この上映会をきっかけに久しぶりにこの作品を観たんですけど、本当にアップが多い映画だな、と思いました。しかも…私の顔、すっごくまぶたが重いなって(笑)。でも、この作品は『可愛く見せよう』とかそういう意識をまったく持たず、ただ“奈々”になりきって、奈々の気持ちを正直に演じたんです。それで一つひとつの芝居を細かく監督に追いかけてもらいました。贅沢というか、すごい撮影方法でしたね」

遠藤新菜「私も久しぶりに観たんですけど、すごく長回しも多いんだけど、私も三佳ちゃんも役になりきっていて、奈々と真凛としてそこにいるから、絵がしっかりと持っているなあと感じました。この役を演じた時は19歳だったんです。自分の芝居を見ると若いなあというか、今あんな演技はもうできないだろうと思います。心の底からなりきって演じているという感じ。ぐちゃぐちゃになりながらケンカして号泣しているシーンとか、大好きなシーンなんですけど、『なんでこんなに言い合わなきゃいけないの?』なんて思って演じていながら本当に辛かった」

秋月三佳「私もあのシーン好き! でも本当に、あのシーンは何度やり直しても泣けたよね。あえて泣こうと思って泣くのじゃなくて、心から辛くて泣けるっていうか…。今であれば演技として頭で考えて演じてしまうけど、あの頃は役の感情をまともにくらって、奈々の感情を自分の心で体験しながら演じていました」
19歳の秋月三佳、遠藤新菜、万端の準備をして臨んだ渾身の演技
startingover_イベント
西原監督「僕がフィクションの映画作りの経験があまりないということもあって、演技指導はほとんどしていないんですよね。二人の顔を撮っていれば映画が出来上がると思っていたようなところがあるというか…。僕は秋月さんと遠藤さんが奈々と真凛になりきるための場を作ることしかできなかったんです」

遠藤新菜「監督に『どう演じたらいいですか?』と聞いても『どうなんでしょうね』と逆に聞かれたりして。でも、演じる方としてはそれがうれしかったんですよね、『あ、一緒に考えてもいいんだ』みたいな」

西原監督「どうしたらいいかって聞かれても、僕は真凛じゃないからわからないんですよね。だから二人から出てくるものを撮影するのが正解なんだろうと、彼女たちをカメラを通して見つめていました。監督らしくないと渡辺真起子さんには怒られましたが(笑)」

遠藤新菜「だから、撮影前に二人でカフェに集合して、『あのシーンどう思う?』なんて言いながら、語り合いましたね」

秋月三佳「脚本を読んですぐにこの作品を大好きになったから、自分でもスイッチが入っちゃって。本当に熱く語りあったよね。楽しかったー。そうやって二人でしっかりと事前準備をして撮影に挑んだから、セリフがない時の動きなんかも自信があります(笑)」

西原監督「今回、奈々と真凛を秋月さんと遠藤さんにお願いして本当に良かったなと思っています。この二人だったからこそできた映画ですね」
次回作は『もうろうを生きる』。弱者の立場に立った作品を作り続ける西原監督
西原監督
西原監督「僕は映画を作っていくうえで、弱い人を描きたいという思いがあり、『Starting Over』では奈々と真凛の物語を描きました。世間では、星の数ほど事件が起こっているけれど、自分の実生活と懸け離れたものではなく、自分の経験とリンクする題材を描いていきたいと思うんですね。弱い人の立場に立って作っていくというのは常に思っていることで、それはフィクションであってもドキュメンタリーであっても自分にとって譲れない一点ですね。
今後の活動としては、『もうろうを生きる』というドキュメンタリー映画を8月26日からポレポレ東中野で上映します。目と耳の両方に障害のある盲ろう者の方の日常生活や思いなどを描いたドキュメンタリーで、去年の8月から半年くらい撮影を行いました。今、その映画のバリアフリー版を作っているところで、耳が聴こえない人のための字幕作りや、音声ガイドなどを作るためのクラウドファンディングなどを行っているところです。ぜひご支援をお願いします」

ドキュメンタリー番組をメインとして活動しているという西原孝至監督。「弱い人に寄り添いながら、彼らの立場で映画を作りたい」という言葉が印象的でした。8月26日から公開される次回作『もうろうを生きる』では、バリアフリー版を作るなど積極的な活動を行っています。ドキュメンタリー作品を撮り終えた今は、フィクションで他者の内面を描きたいという意欲が高まっているそう。西原監督ならではの手法で物語を描いた新作映画、楽しみです。

Writer | 松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

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