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イヤもイヤよも好きのうちな映画

2017.06.30(Fri) | 仲谷暢之

絶対臭いんやろなとわかっていても、嗅いでみたいと思ってしまう脱いだ靴下、他人の履き古した靴、朝起きたばかりの口の中、放置していたゴミ袋、生乾きの洗濯物、はては納豆などの発酵食品。さらには怖いに違いないと思っていてものぞいてみたい因縁めいた場所や高いところ。見てはいけないと思っていてもついつい手を出してしまいたくなる恋人や家族のスマホや携帯・・・そんな陰(いん)の好奇心上にあるのがイヤな気分にさせるんだろうなぁとわかっていても見たくなる映画。ホラーやスプラッターとはまたちがう感覚の、見終わった後にズシーンとメンタルに爪痕を残してしまうようなだけど、またいつか見てしまうような、イヤよイヤよも好きのうちな作品を4本ご紹介。

『葛城事件』 :イヤ度4 希望度1
葛城事件
なんともイヤな予感のするタイトル。だけど三浦友和、田中麗奈、南果歩、新井浩文といった俳優名を見るとれっきとしたスター映画にもなっているので、前情報なく出演者につられて観てしまうととんでもない闇に落とされてしまうこと請け合い。

俳優として、山口百恵の旦那として、洋服のはるやま、福屋工務店の顔として現役バリバリで活躍する三浦友和。実は故・相米慎二監督の『台風クラブ』でそれまでのいわゆる優等生俳優ではない無気力な教師役(当時、演じていた本人はこの役は自分じゃないし、脚本自体がよくわからないまま演じていたそう)で、結果として新境地を開拓。以後、大林宣彦監督『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群』での借金取りや(この作品ですでに南果歩とは夫婦役!)『アウトレイジ』などのヤクザ役などなど良人から汚れ役まで振り幅の広い役を演じているけれど、今作ではいちいち本当にイヤな気持ちにさせてくれる団塊世代のオヤジを演じている。

三浦友和扮する主人、その妻と二人の子供からなる葛城家。父親からの金物店を継ぎ、マイホームを建てるも次男が通り魔殺人を起こしたことがひとつのポイントとなって、一気に崩壊していく家族のさまを、事件が起こる前、起こった後を行き来しながら浮かび上がらせていく・・・。

マイホームを建てたことで人生のマックスを迎え、一国一城の主館で家族を支配しようとする父親の姿とその裏に見え隠れするコンプレックス。それに流されるままついていくしかなかった母親の壊れていくプロセスのジトーっとした湿気感。長男が取らざる得なかった行動と、彼の嫁と姑との対峙。中華料理屋での素晴らしいまでの父親の店員に対するクレーム。スナックで『三年目の浮気』を秀逸なまでのチョイスをし歌う父親の姿。死刑囚となった次男と獄中結婚する女性(田中麗奈がいい!)が振りかざす正義感、その正義感をズタズタにしようとする次男などなどイヤな“名場面”がとにかく続くのが本当にイヤすぎてちょっと笑ってしまうほど。

家族のあり方を考えさせられるというような簡単なまとめ方では決して括れない怖さが、見ながらただただ体を侵食していくのを体感してほしい作品です。
『ディストラクション・ベイビーズ』 :イヤ度4 希望度2
ディストラクション・ベイビーズ
ただただ暴力的なイヤさが続く。それでも齟齬まで見ることができたのは柳楽優弥という俳優、そして菅田将輝、小松菜奈、村上虹郎という旬な若手俳優たちのその瞬間でしかできない演技を映像の中に収めたからだと思う。
愛媛県の小さな港町で暮らす泰良と将太の兄弟。兄の方は日々ケンカに明け暮れる毎日。そしてある日を境にぷっつり消息を絶ってしまう。実は愛媛県の松山市の中心街に場所を変え、強そうな相手を見つけてはケンカ上等暮らしを過ごしていたのだ。ある時、裕也というチャラい高校男子からもっといろんなヤツとケンカしましょうや~と声をかけられ通行人に無差別に暴行を働くように。さらには車を強奪するも、たまたま乗り合わせていたキャバ嬢の那奈も巻き込んで松山市外へと車を走らせるが、犯罪となったことで警察からも追われることに・・・。

柳楽優弥扮する泰良が地元高校生たちとケンカするオープニング。ベチ、ドチッと効果音的ではない鈍い音が響き、思わずウワッと耳と目を塞ぎたくなる。やられてもやられてもただただケンカが楽しいモンスターぶりが一瞬でわかる出のシーンがいい。心配する村上虹郎演じる弟をよそに、さらなるケンカ上等の相手を求めて河岸を繁華街に変える。ケンカ相手を探す柳楽優弥の目がもうダメ。こいつ街で見かけたら絶対関わりたないなと思うイッてる目がえげつないです。さらにこのモンスターに一回しばかれそうになったもののやがて行動を共にするのが菅田将輝演じる裕也。こいつがモンスターを手なずけながらも、結果、虎の威を借る狐的存在でゲス中のゲスぶりがこれまたイヤの不快指数をグングン上げてくれる。
ケンカするごとにどんどんスキルが上がっていく泰良。コーエン兄弟監督の『ノーカントリー』のハビエル・バビエルが演じたおかっぱ頭の殺人モンスター、アントン・シガーを彷彿とさせる寡黙さと不気味さ、アグレッシブさが漂う。反対に泰良に暴行を指示し、その現場を携帯のムービーで撮影しネットにアップしたり、たまたま逃避行することになるキャバ嬢に対する暴力を振るう裕也の、弱いくせに驕傲さを増長していく様には哀れさが漂う。
結果、因果応報な結末を裕也は迎え、キャバ嬢はしたたかに生き残り、モンスター泰良はさらに強大なモンスターでいる。
無茶苦茶な生き方をしている若者を描いただけではとどまらない、あらゆる鬱屈を圧縮したようなイヤさがザラザラと舌に残っているみたい。
『クリーピー 偽りの隣人』 :イヤ度3.5 希望度3
クリーピー
最近はマンションのエレベーターなどに「住民同士の挨拶をしないでください」という張り紙が貼られていたりするという。理由は挨拶しても相手がしてくれないから、それなら挨拶を始めから挨拶しないでおいたのが穏便に暮らせるから。昔から同じ場所に住んでいている自分からすると、なんちゅう世の中になってるんやとその出来事を知ったときに思ったけれど、とはいえ自分も隣近所の人と頻繁に接しているかと思えば挨拶はするけれどそれほど話したりしないな、ましてや近所の出入りも最近は激しくなってきているし、そういや知らない人も増えたなと気づいた。自分ですらそんな感じだからマンションに住んでる人には前記した出来事は当たり前なのかもしれない。

犯罪心理学に精通した刑事・高倉がある事件をきっかけに退職し、大学教授に転職。一軒家にも引っ越して心機一転の生活を送ることに。引っ越ししてきたことを隣人に挨拶。一軒は人付き合いしないというおばちゃん。もう一軒は西野という一日中自宅にいるオヤジ。妻と娘・澪と暮らしていて、澪は高倉の妻とも徐々に仲良くなり、最初は無愛想で偏屈っぽい西野オヤジも高倉家に心を開いていく。そんなある日、高倉は澪から「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」という予期せぬ告白を聞いたことから疑心暗鬼が芽生え、その疑いはとんでもない事件になっていく・・・というのが黒沢清監督の『クリーピー』のストーリー。

隣人の西野役は香川照之。最高にイヤなオーラが登場した時から漂ってる。高倉の妻が引っ越してきましたよ挨拶に行った時の、噛み合わない会話の気持ち悪さ。こいつ絶対何かあるな、近所付き合いしたくないなという死んだ魚の眼をしたタイプ。一言で言えば“不快”。そんな不快オヤジをテレビドラマでのような過剰すぎる顔芸は若干抑え気味にして、声のイヤさで怪演。ところどころ垣間見える小心者な感じもさらに不快度高し。
かたやそんな隣人に侵食されようとする西島秀俊、竹内結子の高倉夫婦の存在にもチラチラとイヤさが感じられる。こちらは一言で言えば“傲慢”。ある事件の被害者女性に話を聞く時の高倉の態度、料理を得意とする妻のなんともいえない自信あふれる態度が、一概にこの夫婦、可哀想と思わせないのが黒沢清監督らしいなぁと思った。
西野の存在が徐々に明らかになっていってからの展開はテンポよく、黒沢ホラーサスペンスの真骨頂が味わえる。そして一応、西野の娘・澪のイヤさが最後の最後に感じられるのがいいです。
『淵に立つ』 :イヤ度5 希望度1
淵に立つ
小さな金属加工工場を営む愛想のない夫・利雄、きれいで優しい妻・章江、そして10歳の娘・蛍の3人家族の前に突然現れた男・八坂。彼はどうやら利雄の昔の友人らしい。しかも突然、工場で働くことになり、さらに家にも住むことに。
何も知らされてなかった章江は戸惑うものの利雄はおかまいなし。しかしあるきっかけで家族と八坂の距離は縮まるが、娘・蛍に衝撃的な出来事が起こり、八坂は姿を消す・・・。
突然、平穏だった家族の前に忍び寄る黒い影的な設定はサスペンスものにこれまでにもあるパターン。これで思い出したのは『ソドムの市』や『王女メディア』といった問題作を発表していたピエロ・パオロ・パゾリーニ監督の『テオレマ』。イタリアの金持ち一家の元に現れた一人の青年がいつのまにか共同生活を送り、やがて家族を崩壊させるストーリーでこちらも負けじとイヤな気持ちにさせてくれるのだけど、八坂が姿を消してから描かれる8年後の利雄一家の展開のイヤさはさらにさらに上をいってる。
利雄は八坂の消息を興信所を使って調べてもらっており、妻の章江は超潔癖症になり神経が少し危うい。娘の蛍はというとさすがにここでは書かないことにします。とはいえ利雄の工場に仕事に真摯に向き合う好青年、山上くんが働くようになり少し光が見えたかもという矢先に、とんでもないイヤさが待ち構えているという・・・。
何でしょうね、これ。よくもまぁこういうストーリーを考えるなぁと感じつつ、もう見たくないなぁとふと頭をよぎるんですが、俳優の力で見せ切ってくれるわけです。謎の男・八坂を演じる浅野忠信という存在。白いシャツをきちっと着こなす清潔な中年男性なんですが実は何かがあると思わせ、そのヤバい何かを、絶妙なタイミングと力量で表現。いい仕事してくれてます。さらにいい仕事といえば古舘寛治と筒井真理子という実力派俳優同士が演じる利雄と章江夫婦。特に筒井真理子。個人的には2時間ドラマによく出ている人の印象が強いけれど、これほどまで妻、母親、そして女の機微を繊細に演じて見せてくれたことに感謝。もちろん利雄役の古舘寛治の不快感溢れる夫の行動も秀逸。この3人のアンサンブルが絶品でもうどうしたらいいのと思える最後まで見ることができたんだと思う(途中でいなくなる浅野だけど、その気配は最後まである)。
それにしてもこの映画を見終わると『葛城事件』のイヤさはまだマシだったかもと思えたほど、完璧なイヤさに魅了されます。

そのほかにも個人的にはサム・ライミ監督のイヤな婆さんがイヤな銀行員に呪いをかけるスペルや、ビヨーク主演で基本、イヤな映画しか撮らないラース・フォン・トリアー監督の絶望的にイヤな気分になる二度と見たくない傑作ミュージカル『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、リリー・フランキーが究極にイヤな白石和彌監督の『凶悪』などもおすすすめ。冷房をつけず汗だくな状態でこれら作品を見るというのも、イヤさ度をアップすると思います。

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

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