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女性の心理を時にヒリヒリ、時にキラキラと描きだす恋愛映画のマエストロ・廣木隆一監督作、注目の5作品

2017.07.12(Wed) | 松村知恵美

福島県郡山市出身の映画監督、廣木隆一。1982年にピンク映画『性虐!女を暴く』で監督デビューを飾って以来、多くの映画を生み出しています。1995年の『ゲレンデがとけるほど恋したい。』、2004年の『機関車先生』、2013年の『100回泣くこと』など、その作品のジャンルやテーマは様々です。この廣木隆一監督の特徴は、何と言っても女性の心情がリアルに描き出されていること。揺れ動く女性の心と身体を、時に丁寧に、時に激しく、写し出しています。今回は、この廣木隆一監督が手がけた多彩な作品群を、最新公開作とともにご紹介します。

平日は福島で市役所職員をしながら、週末には東京でデリヘル嬢に変身する女性の葛藤『彼女の人生は間違いじゃない』
彼女の人生は間違いじゃない
廣木隆一監督の最新作となるのは、7月15日からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開される映画『彼女の人生は間違いじゃない』。この作品は東日本大震災後に、福島出身の廣木隆一監督が発表した同名処女小説を原作としています。

この映画の主人公のみゆきは、福島の仮設住宅で父親と二人暮らしをしながら、平日は役所で働き、週末は高速バスで東京に出て渋谷でデリヘル嬢をしている女性。母親を震災で亡くし、家も何も無くなったという状況で、デリヘル嬢をすることで自分自身を保っています。福島では、働かずに補償金でパチンコばかりやっている父親や、無神経な元カレに苛立ちながら日々を送る彼女。東京では、デリヘルで客からの無理な要望や暴言に傷つきつつも、送迎や用心棒をしてくれる三浦とのなんでもない会話に少し癒され、自己の存在を確かめています。身を削ることで自分が今生きていることの赦しを乞うているような女性の姿を、廣木監督は突き放しながらも遠くでそっと見守るように描いています。

みゆきを演じるのは、『日本で一番悪い奴ら』などで知られる瀧内公美。撮影中はかなり監督に鍛えられたようで、何キロも痩せてしまったそう。一人の女優として、厳しい監督の演出に負けず難しい役に正面から挑んだ彼女の演技も見所です。

◆『彼女の人生は間違いじゃない
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
誰かと触れ合いたい。誰かとつながりたい。孤独な男女が道連れとして旅に出る『ヴァイブレータ』
ヴァイブレータ スペシャル・エディション [DVD]
廣木監督の代表作の一つとも言えるのが、2003年の映画『ヴァイブレータ』です。この映画の主人公は、31歳のルポライター、早川玲。食べては吐きを繰り返す摂食障害や不眠、母親との関係など、多くの悩みを抱えた彼女は、コンビニエンスストアで出会ったトラック運転手・岡部に誘われ、彼と体を重ねます。そして「私を道連れにして」と、彼のトラックに同乗し、新潟へと向かうのです…。

自分の中から聞こえる声に悩まされ、「誰かに触りたい」と望んでいた玲は、この旅で自分を解放できるようになります。トラック運転手の岡部も、最初は適当に玲の相手をしているものの、道中で玲と対話を重ねる内に、心を開いていきます。トラックの荷台で体を重ねる内に、二人は解放されていくのですが…。

玲を演じているのは、当時31歳だった寺島しのぶ。31歳という年齢で生き方に迷う女性のもろさとしぶとさを、リアリティたっぷりに演じています。岡部を演じる大森南朋とともに、大胆なセックスシーンも披露。女性の性愛を生々しくも美しく描いた本作、ピンク映画出身の廣木監督だからこそ描けた物語と言えるでしょう。
地位も名誉もあるおじさまに一途に恋される、妙齢女性のファンタジー『娚(おとこ)の一生』
娚の一生
続いてご紹介したいのは、2015年2月14日に公開された映画『娚(おとこ)の一生』です。西炯子のコミックスを映画化した本作は、榮倉奈々演じる都会の生活に疲れて田舎にやってきた元キャリアウーマンが、祖母とかつて何か関係があったらしき50代の大学教授と恋に落ちるという物語。プロットだけ読むとちょっと突拍子もないように思えますが、50代の大学教授を演じるのが豊川悦司と聞けば、その設定にも納得がいくのではないでしょうか。

自分に自信をなくしかけている時に、理性と知性と分別、さらに地位も名誉もある男性が「年甲斐もなくあなたに恋をしてしまった」なんて言って迫ってくるなんて、ある意味、妙齢の女性にとってはかなりうれしい物語。さらに、素敵なロマンスグレーのおじさまが自分だけには子どもっぽく甘えた表情を見せてくれたりするなんて、可愛く感じずにはいられないはず(ただしイケメンに限る)。この作品、言ってみれば「今の私を認めて欲しい、幼い頃のように無条件に愛して欲しい」というアラサー・アラフォー女性にとってのファンタジーを描いた物語なのです。

廣木監督は、この妙齢女性のファンタジーを絶妙なさじ加減で描いています。直接的なエロス描写はないものの、豊川悦司が榮倉奈々の足を舐めるシーンなんて、普通のセックス描写よりなんだかエロい…。美しいファンタジーの中に生々しいエロスを一瞬だけ入れ込み、大人の恋愛物語に仕上げてくるなんて。廣木監督、さすがの手練れです。
憧れの同級生とドキドキの制服デート。高校生の恋を丁寧に描く、キラキラのラブストーリー 『ストロボ・エッジ』
ストロボ・エッジ
次にご紹介するのが、咲坂伊緒原作の少女向けコミックスを映画化した2015年3月14日に公開された映画『ストロボ・エッジ』。福士蒼汰と有村架純という若手俳優が、初々しい恋模様を演じています。先ほどご紹介した『娚(おとこ)の一生』が妙齢女性のファンタジーなら、この『ストロボ・エッジ』は女子高生のファンタジー。「こんな恋がしたい」、「こんな制服デートがしたい」なんて女子高生のピュアな恋愛を、キラキラした映像で描いています。

好きな人と一緒の電車で帰る放課後、好きな人と一緒に行く鎌倉遠足、好きな人と一緒に準備する学園祭、好きな人と一緒に行く買い出し。なんだかもう、すべてがキラキラしていて、まぶしいのです。それでいて、彼女たちが心を通わせていく様子を、細かいディテールも含めてしっかりと描いているので、大人の観客が見ても十分楽しめる恋愛物語に仕上がっています。

2015年2月に『娚(おとこ)の一生』公開、2015年3月に『ストロボ・エッジ』公開と、こんなに短いスパンでまったく違うテイストのラブストーリーを作り上げた廣木隆一監督の職人ぶりには、思わず唸ってしまいます。
桜の下で描かれる、身分違いの二人のピュアな恋模様『雷桜』
雷桜
最後にご紹介するのは、これまでの作品とは少し毛色の違う時代劇『雷桜』です。この『雷桜』、時代劇ではありますが、描かれているのは身分の違う二人の間に芽生えた恋心。時代劇の形式で描かれたラブストーリーなのです。

この物語の主人公は、幼い頃に誘拐され山奥で育てられた雷(らい)という少女。対するは、将軍の息子に生まれ、傍若無人に育ってきたワガママ若様、徳川斉道。蒼井優が演じる雷と、岡田将生演じる徳川斉道という二人が身分違いの恋に落ちていく様子を描いています。

時代は違っても、人の心の動きは同じ。山の中で他者と接することなく野生児のように育った少女と、将軍の息子として人を人とも思わず生きてきた男が、お互いに出会って初めて人を愛することを知ります。実際の江戸時代に、果たしてこんな恋愛が可能だったのか? 史実的な正確性はともかく、現代の視点を持って江戸時代の純愛を描いたこの映画、ちょっと毛色の恋愛映画として楽しむことができる一作です。

相手の肉体を求めてむさぼるような性愛から、女子高生のピュアな初恋まで、さまざまな恋愛模様と女性心理を鮮やかに描き出す廣木隆一監督。まさに女性の心理を知り尽くした、女性映画のマエストロと言った趣です。「監督:廣木隆一」というクレジットが入った恋愛映画であれば、そのクオリティは保証いたします。

Writer | 松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

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