ホーム > 今という時代になってきたからこそ日常的に見てほしいセクシャルマイノリティ映画 VOL.1

今という時代になってきたからこそ日常的に見てほしいセクシャルマイノリティ映画 VOL.1

2017.07.19(Wed) | 仲谷暢之

毎年6月はゲイを含むLGBTQのプライド月間。アメリカのワシントンD.C.、サンフランシスコやニューヨークなどで、イギリス、カナダ、ヨーロッパもフランス、イタリアやオランダ、ウィーン、ブルガリア、ギリシャ、イスラエルなどなど世界中あちこちで、東京でも5月にパレードが行われ、プライドのシンボルであるレインボーカラーのフラッグなどがパレードを埋め尽くし、ニュースなどでも取り上げられていました。

そもそも、今からさかのぼること48年前の1969年6月28日にニューヨークはクリストファーストリートにあるゲイバー「ストーンウォール・イン」にて起こった同性愛者と警察官たちとの暴動事件がきっかけ。その後、LGBTQの人たちが立ち上がり、自分たちのセクシャリティを含む人権を訴え、徐々に勝ち取ってきたことがのちに6月のプライド月間となっていきました。

ちなみにこの暴動については2015年にローランド・エメリッヒ監督が「ストーンウォール」という映画を作ったのでこちらを初級編としてみていただければ(ただし、かなりのスイートで歪曲された話になっているけれど・・・)。

7月に入ってからもLGBTQ作品を取り上げた映画祭も東京などで開催され、身近に作品を見る機会が増えたことは嬉しい限りであります。これがもっともっと日常的に上映されるようになればいいのにと思う次第。

というわけで青山シアターの作品の中でいつでも見ることができるLGBTQ映画を2回に分けて紹介していきたいと思います。

※LGBTQとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエッショニングまたはクイアの略で性的マイノリティを“一応、わかりやすく”表した言葉。

「シングルマン」
シングルマン
グッチ、イブ・サンローランを経て自身のブランドで活躍するファッション・デザイナー、トム・フォードの初監督映画。
1960年初期、まだまだ同性愛が陰のものであった時代、16年間共に暮らしたパートナーを交通事故で亡くした大学教授、ジョージ。8ヶ月経っても茫洋とした喪失感だけがあるだけ。そんな彼の1日を静謐な空気漂う映像で描き上げた作品。

主人公は『英国王のスピーチ』で吃音のイギリス王ジョージ6世をユーモアたっぷりに演じたコリン・ファース。今作では愛する人を亡くして、はたしてこれから自分の人生に意味はあるのか?という深い探求を、苦渋に満ちた表情と演技で浮かび上がらせています。

監督1作目とは思えないほど完璧に計算されたストーリー、演出、映像、隅々にまでこだわったディテールには、これまでデザイナーとして培ってきたノウハウ、感性が溢れていて本当に素晴らしい。何より、主人公のジョージとパートナーはたまたまゲイだったけれど、これが妻を亡くした男の話として置き換えても見ることができる普遍的なラブストーリーであるのも重ねて素晴らしい。

トム・フォードがリスペクトを受けたウォン・カーウェイ監督やペドロ・アルモドバル監督、ダグラス・サーク監督の匂いも感じ取ると、より深く楽しめるはず。
ちなみにコリン・ファースは80年代ゲイ耽美映画『アナザー・カントリー』で注目された人(ただし、ゲイ役ではないですが)。併せて見てほしい一本。
「バッド・エデュケーション」
バッド・エデュケーション
確か日本で初めてペドロ・アルモドバル監督の作品が本格的に公開されたのは『神経衰弱ぎりぎりの女たち』だったと思います。映画はまさにキッチュでポップでキャンプ!な雰囲気で、オープニングの古きヴォーグのファッションページなど切り抜きをコラージュしたタイトルバックからして、これまでディテールや行間を読み取ってそのセクシャリティを理解するのを教育されてきたゲイにとっては、いきなり楽しませていただけたつかみ。さらにストーリーはもちろん衣装や、インテリア、過剰なキャラクターまでどれもがゲイテイストに溢れ、一気にアルモドバル信者が増え、過去の作品も公開されることに。

そんな彼の作品は90年代からは本格的に“濃厚な女性”を描く作品が増えていった中で、今作では監督自身の半自伝的なストーリーで、若くして成功を収めた映画監督の元にかつての親友で恋人だった男性が、あることを題材にした脚本を持って訪ねてきたことから、幼少時代彼と共に過ごした神学校での暗い過去や思い出を蘇らせるというもの。男同士の初恋、友情、愛情、裏切り、そして秘密をこれまた濃厚な崇高さで描いている。彼の作風である意味素敵なのは日常生活に置いてLGBTQがいて当たり前という立場にいること。なぜゲイなのか?という説明をとっぱらった段階でストーリーがあるところ(だから突拍子もないキャラクターがいても気にならない)。

若手映画監督を演じるフェレ・マルチネスの前に現れるファム・ファタル(男だからオム・ファタルか)的存在の親友を演じるガエル・ガルシア・ベルナルのむせ返るような色気は必見。特にプールでのシーン、リップシンクショウのシーンは思わず口が半開きに。

全編を彩る音楽もあるモドバル監督のセンスが光り、僕自身も公開当時に購入したサントラを今も繰り返し聴いているほど。スペインの元祖歌える女優、サラ・モンティエルの『キサス、キサス、キサス』(ベルナルのリップシンクのシーンで使われている)、『Maniqui Parisien』やイタリア版エルヴィス・プレスリーことリトル・トニーの『狂った心』やスペイン語で少年が歌う『ムーン・リバー』や『帰れソレントへ』は必聴!

ちなみに同じあるモドバル監督の、飛行機内を舞台にした『アイム・ソー・エキサイティッド』は今作の対岸にあるようなドタバタゲイ艶笑コメディもオススメ。
「ぼくを葬る」
ぼくを葬る
フランソワ・オゾンの初期の短編映画『サマー・ドレス』は、彼氏との時間にちょっとうんざりして一人になろうと海辺に日光浴にきた青年がそこで出会った女性と束の間の逢瀬を楽しんだものの、服を盗まれ彼女のサマードレスで帰宅すると彼氏がめっちゃ新鮮!と燃え上がるというサマードレスがカンフル剤になったというなんとも初々しい作品。それから徐々に大人の心の機微を描く作品が増えていく。日本ではカトリーヌ・ドヌーブ、イザペル・ユペール、エマニュエル・べアール、ファニー・アルダン、ダニエル・ダリューらフランスを代表する名女優たちの競演で、しかもサスペンスをミュージカルという技法で描き大ヒットした『8人の女たち』で広く名を知られるように。その後もスイミング・プールや『ふたりの5つの分かれ路』といった作品で女性を描いた作品を発表してからの今作は、監督曰く自身の死を描き出した作品だそう。

医者から余命3ヶ月の末期がんであることを告げられた売れっ子イケメンカメラマン、ロマンが死を迎えるまでの変遷を描いた物語。もちろん、前記したけれど、もちろん監督自身は末期がんではない。あくまでもゲイである監督のメンタルの移行を主人公に託したのだと思う。

刹那的であり、自暴自棄であり、虚勢を張っていても実は弱い、そしておばあちゃんが大好き。ゲイが見ると共感できる主人公の姿。そしてゲイでない人ならそのエゴの強さにびっくりするかもしれません。ロマンが唯一自分の死を告白するのがおばあちゃん。演じるはジャンヌ・モロー。圧巻の存在感で孫を優しく、厳しく包み込む姿。そして別れを告げ出て行く孫を送り出した後の姿は胸が締め付けられるほど。祖母と別れたロマンは死にゆく自分の断捨離を続けるのだけど、ちょっと驚く展開が広がるのだけど、これはこれでゲイの理想なのかなぁとも思えます。

ちなみにメルヴィル・プポーがトランス・ジェンダーに扮するグザヴィエ・ドラン監督の私はロランスも併せてみてほしいです。彼の役者としての素晴らしさが垣間見れます。
「SAINT LAURENT/サンローラン」
SAINT LAURENT サンローラン
2008年に亡くなったファッション・デザイナー、イブ・サン=ローランが、60年代オートクチュールメゾンを誕生させてから、ジェットセットたちにもてはやされ爛熟期を迎えた60年代後半から70年代後半にかけての、彼の壮年時代を描いた作品。イブを演じるのはギャスパー・ウリエル。はたして本人がそうだったかは別として、これがまぁフェロモンたっぷりの、見事なゲイっぷりで、ある意味、ケレン味たっぷりに演じています。

仕事が忙しくなればなるほど、どこかでガス抜きをしないとバランスが取れないとばかり、彼を公私ともに支えたパートナー、ピエール・ベルジェの助言も馬耳東風で、愛人を作ったりゲイクラブやドラッグパーティをしたり、アイデアの枯渇を理由にモロッコへ癒しを求めに行ったり・・・。全体を通して見ると、イブはデザイナーというよりはやはり根幹は芸術家なんだなと実感。破天荒な行動も美への創作の、布石だったのかもしれない。
時にはスキャンダラスに、時には凝った映像でイブ・サンローランの最も波乱に富んだ10年間を描いていて2時間半の長尺ですが、最後まで飽きない!

ちなみにイブの母親にはベルナルド・ベルトリッチ監督の『暗殺の森』『1900年』に出ていたドミニク・サンダが、そして後半に登場する晩年のイブを、ルキノ・ビスコンティ監督に愛されたヘルムート・バーガーが演じているのも(しかもかつて本人が出演し、ビスコンティが監督した『地獄に堕ちた勇者ども』を自室で見ているというすごい残酷なシーンもある!)、この作品の、ゲイの行間を読み取るには十分なキャスティングだと。
これを見終わった後、併せてドキュメンタリーイブ・サンローランを見るとさらに感慨深いです。
「怒り」
怒り
原作は吉田修一。彼の小説には常にゲイの香りが漂っているし、実際さまざまな作品にゲイが自然に登場し、ゲイが読んでもそれほど違和感がなく、むしろ共鳴できたりするキャラクターが多いです。今作でもゲイが重要なキャラクターとして物語を紡ぎ、強烈な印象を残してます。

ある夏の日に起こった夫婦殺人事件。現場には“怒”の血文字が残されていたものの犯人の行方、手がかりがないまま一年が過ぎていく。そんな時、千葉、東京、沖縄に住む人の前に現れた素性の知れない3人の男。それぞれが関係を育んでいく中であるきっかけから3人の男に疑惑が生まれる・・・。

東京パートで描かれるのが妻夫木聡と綾野剛演じるゲイのカップル。ハッテン場(男同士が知り合う場所)で出会い、そのまま関係を築いていくふたり。妻夫木演じる優馬は、大手通信会社に働いてて若いけどそこそこの給料をもらってて、夜はクラブで友だちと遊んで、その場で出会った男とエッチしてっていうキャラクターは、実際リアルにたくさんいるので、そんなゲイ友の顔がちらほらと頭に浮かんでは消えながら見てしまいました。しかも映画の中で登場するプールパーティやハッテン場のシーンには知ってる人がエキストラとして登場していてそのまんまやん!とびっくりしたり。

綾野剛が捨てられた子猫のような感じで妻夫木にすがり、身を寄せ、次第に幸せを見つけていくプロセスは胸が熱くなるだけに結末はやるせない。
ちなみに同じ吉田修一原作の映画化横道世之助でも綾野剛がまた違ったタイプのゲイを演じているのでオススメです。
「アルバート氏の人生」
アルバート氏の人生
最近は、ゲイが大好きなミュージカル舞台『サンセット大通り』の再演で、再び主役のノーマ・デズモンドを演じたグレン・クローズが、かつて舞台で演じた『アルバート・ノッブス』を、これは絶対に映像化したいと走り回り、製作・主演、共同脚色、作詞の4役を務めたのが今作。

19世紀のアイルランドで女を隠し男として、ホテルのウェイターとして働いてきたアルバートがある秘密を持つペンキ屋と知り合ったことから、それまでの日陰のようだった人生から、日向に出る人生を過ごそうとするが・・・。

グレン・クローズのおっさんぶりが白眉。ちょっとロビン・ウィリアムズに見えなくないけれどアルバートの心の変化を見事に演じている。そしてアルバートに影響を与えるヒューバートの存在。19世紀になんと最先端な生き方をしてるのか!と驚くばかり。

併せて見てほしいのはグレン・クローズのドラァグクイーンにしか見えない大仰な演技が堪能できる『101匹わんちゃん』を実写化した『101』と『102』。彼女の女優としての貫禄を知ることができます。
「ヘアスプレー」
ヘアスプレー
カルト映画の代名詞『ピンクフラミンゴ』のジョン・ウォーターズ監督の、『ヘアスプレー』がブロードウェイでミュージカル化されると聞いた時はびっくりしました。ディバインという稀代のドラァグクイーンが主演した作品がまさかの舞台化とは!
しかも脚本はハーヴェイ・ファイアスタイン。自身のゲイ人生を描いた『トーチソング・トリロジー』に主演。ほかにも『ラ・カージュ・オ・フォール』『キンキー・ブーツ』と言ったミュージカルなども手がける才人。しかも映画ではディバインが演じた母親をやるという。これはいても立ってもいられなくなりブロードウェイまで見に行きましたよ。
巨漢を揺らしながら歌い踊るハーヴェイ・ファイアスタインのお母さん役は存在感たっぷり。そして何よりミュージカルとして素晴らしかった!その舞台が再び映画化されるとは!しかもお母さん役にはジョン・トラボルタ!
1950年代のボルチモアを舞台に、地元で若者たちに人気のテレビ番組『コーニー・コリンズショー』のレギュラーになったおデブちゃんが様々な差別と知らないうちに戦うというお話。
これ、黒人差別が主な話の軸になっているのだけど、お母さん役に男性が扮しているというのも意味があるんです(本当はゲイが演じることが望ましいんだけど・・・)。シビアな話をキャッチーでちょい毒のある曲で綴っていく展開はジョン・ウォーターズへのリスペクトをしっかり盛り込んでいて最高。
ジョン・トラボルタをはじめとしてクリストファー・ウォーケン、ミシェル・ファイファー、クイーン・ラティファ、ザック・エフロンなどの芸達者ぶりも必見。

同じ、映画がミュージカル舞台化されて、それがまた映画化されたネイサン・レインとマシュー・ブロデリック主演の『プロデューサーズ』を併せて見ると(これも素晴らしいゲイキャラが出てる!)楽しめるはず。
「46億年の恋」
46億年の恋
三池監督は昔から作品に同性愛的要素が散りばめたりすることが多々あり、それを読み取るのがちょっと面白かったりするのだけど、どちらかというとゲイというよりも菊の契り的な日本の衆道の香りが強い。今作はそんな衆道臭が全編むせ返っています。

監獄を舞台に、そこで死んだ香月史郎という問題囚人をめぐるに男たちの人間模様が濃密に描かれています。香月を殺したという少年役は松田龍平。香月役は安藤政信。この二人の関係とやりとりはセックスをしているかどうかを別にして、とてもエロティシズムに感じます。

全体的に、舞台劇アプローチで実験的。ラース・フォン・トリアー監督の『ドッグ・ヴィル』や『マンダレイ』のようなシンプルさとライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ケレル』のような退廃的さに三池監督の持つほこりっぽさ、そこにボーイズ・ラブが絶妙にミックスされて、一度ならず回を重ねて見るとその面白さが伝わるはず。

松田龍平の、その時でしかないきらめく尖った美少年ぶりには惚れ惚れ。そして安藤政信の熟していく前の美青年ぶりには思わずため息。のちに彼はゲイであることをカムアウトしている蔡明亮(ツァイ・ミンリョン)監督の短編映画『無無眠』に出ているので、機会があればぜひ見てほしいです。かなり衝撃を受けるかも。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」
イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
ベネディクト・カンパーバッチが第二次世界大戦時、ドイツ軍による世界最強の暗号と言われた〈エニグマ〉の解読を託されたゲイの数学者アラン・チューニングを演じた今作。

当時、イギリスで同性愛は犯罪であり病気とされており、ゆえに実はコンピューターの発明に多大なる尽力を注いだのにアラン・チューニングの生涯は重大機密とされ、2009年に英国のブラウン首相が政府を代表し、彼の不当な扱いに対する謝罪を公式に発表するまで歴史から黙殺されていたそう。

それにしても50年も封印されていたとは!しかしこれがきっかけとなって彼の罪を免罪(名誉回復)してほしいという動きが起こり、正式に恩赦が発効されたのが2013年のクリスマスイブ!
この時、英国政府はアラン・チューリングと同様にソドミー法(特定の性行為を性犯罪として罰する法、主に同性愛者を罰した法)で有罪となった故人すべてを赦免するという「アラン・チューリング法」を公約し、昨年2016年10月20日に施行されましたが、今さらという感も。
ただ、そういう時代を先人たちが経てくれたからこそ、オネェたちがテレビで活躍したり、LGBTQなんて言葉が徐々に浸透したりする今があるのだということをありがたく感じたいです。

アラン・チューニングの功績がベネディクト・カンパーバッチの熱演により映画として記録されたという意味では大切な作品だなと思いました。

併せて見たいのはLGBTQの団体から上映禁止を求められたという『ズーランダーNO.2』。ベネディクト・カンパーバッチが両性具有のスーパーモデルを演じたのが原因みたいです・・・。

セクシャルマイノリティを取り上げだオススメ映画前編。 差別や偏見のない、あくまでも平等な社会が作られるといいなぁということでチョイスした前編9本。後編に続きます。
後編はこちら

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA