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指の間からこぼれ落ちていく人生をつかめ! 満身創痍の崖っぷち映画5選

2017.09.29(Fri) | 足立美由紀

蒸し暑かった夏もあっという間に過ぎ去り、肌をなでる風も心地良くなってきました。過ごしやすい秋は読書にスポーツにグルメに~と、“自分を豊か”にするにはもってこいの季節。知性と感性を揺さぶる映画を観て、自分を格上げしちゃいましょう。今回ご紹介するのは崖っぷちで頑張る人々を描いたヒューマンドラマ5作品。指の間からこぼれ落ちていく人生をつかもうとあがく、人間の崇高な魂にフォーカス!

寺山修司原作。孤独の淵で彷徨う青年2人の不器用な青春ドラマ『あゝ、荒野』前篇・後篇
あゝ、荒野_ポスタービジュアル
戯曲家、脚本家、俳人、歌人、作詞家、演出家、映画監督に演劇実験室「天井桟敷」の主宰など、さまざまな顔を持つ稀代のマルチクリエイター・寺山修司。彼が遺した唯一の長編小説を基に実写化した、魂にガツンとくる青春ドラマです。メガホンをとるのは『『二重生活』の岸善幸監督。幼い頃に母親に捨てられ、荒んだ生活を送っていた沢村新次を菅田将暉、韓国人の母の亡き後、日本に連れてこられた吃音で赤面対人恐怖症の二木建二を韓国の名優ヤン・イクチェンがW主演で演じています。

2021年の新宿。振り込め詐欺に明け暮れ、3年間少年院にいた新次(菅田)は、仲間の兄貴分を下半身不随にした裕二(山田裕貴)に復讐を誓っています。新次はプロボクサーとしてデビューしたばかりの裕二を見つけ殴りかかりますが、返り討ちに。たまたまその場に居合わせた建二(ヤン)は、新次にそっと手を貸すのですが。そんな2人にさびれたボクシングジムを営む元ボクサー・堀口(ユースケ・サンタマリア)が声をかけてきて……。

前篇では新次と建二の悲惨で孤独な背景と、プロボクサーになるべく日々鍛錬する2人の友情を切なくも温かい人間ドラマとして活写。後篇では一転し、新次と裕二の因縁の対決と、新次と建二の宿命の対決という臨場感たっぷりのボクシング試合をメインにした物語がつむがれます。

岸監督は “コラージュの天才”として時代を切り取ってきた寺山修司の世界観に目配せしつつ、猥雑で不穏で無慈悲な近未来の日本の姿を創出。荒ぶる魂を内包する2人の男の絆を克明にスクリーンに刻みつけました。圧倒的な孤独で共鳴し、確かな友情でつながった新次と建二……彼らの明日はどっちだ!?

♦『あゝ、荒野
前篇:10月7日(土)、後篇:10月21日(土)
新宿ピカデリーほか2部作連続公開
制作・配給:スターサンズ
(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ
貧困地域に暮らすジャンキー教師と生徒がつむぐ淡い友情『ハーフネルソン』
ハーフネルソン
2017年度はアカデミー賞最多6部門受賞作『ラ・ラ・ランド』で主演を務め、この秋には『ブレードランナー 2046』が公開されるなど、近年ノリに乗ってるライアン・ゴズリング出演作です。教師で麻薬常習者のダンをゴズリングが演じ、教え子の女子中学生と淡い友情を育みます。

ニューヨーク・ブルックリン。貧困層が通う中学校で歴史を教え、女子バスケのコーチをするダン・デューン(ゴズリング)は、部員のドレイ(シャリーカ・エップス)にドラッグをキメているところを見られてしまいます。それ以来何かと付きまとうようになったドレイをダンは遠ざけようとするものの、彼女が麻薬の売人と行動を共にしていることを知ると、激しく反対して守ろうとするのですが。

「歴史とは“時代的な変化(=相反するものの対立の歩み)”だ」と一風変わったユニークな教育方法で生徒たちに人気のあるダン。しかしプライベートでは更生できないジャンキーで、心に深い闇を抱えています。一方、麻薬の売人だった兄が逮捕されたドレイもまた深い孤独を抱えていて。

本作は麻薬常用者と教師、白人と黒人、ダンとドレイなど、様々な“相反する関係”の中で、身動きが取れなくなっているダンの焦燥感を主軸に描かれる人間ドラマです。ハーフネルソンとは拘束術の1つで、片腕を羽交い絞めにされること(両腕ならフルネルソン)。過酷な状況に半身つかまれているダンとドレイが、自由なもう片方の手でつかみ取るのはどんな運命なのでしょうか?
韓国・民主化運動に目覚めた弁護士のターニング・ポイントを活写『弁護人』
弁護人
韓国で実際に起きた冤罪事件「釜林(プリム)事件」を元に描かれた手に汗握る社会派ヒューマンドラマ。韓国では今でも人気の高い第16代韓国大統領・盧武鉉(ノ・ムヒョン)の弁護士時代のエピソードです。

1980年代、軍事政権下の韓国。税務分野で成功を収めながらも、高卒の弁護士として仲間からさげすまれていたソン・ウソク(ソン・ガンホ)は、国家保安法違反容疑で逮捕された恩人の息子・ジヌ(イム・シワン)ほか不当逮捕された学生たちの弁護を請け負います。全てが出来レースのように進んでいく裁判で、ソンは国家権力を相手に、拷問での自白強要の事実を訴えるのですが。

主演を務めた韓国の実力派俳優ソン・ガンホは、自死を遂げた実在の大統領を演じることに怖れを感じ、一度は出演オファーを断ったそう。しかし盧武鉉の弁護士時代の情熱を描こうとするヤン・ウソク監督に共感し、出演することにしたのだとか。理不尽極まりない裁判を経て、ソン弁護士が“人権”に目覚める瞬間を見事に体現したソン・ガンホの気迫みなぎる演技は必見です!
稀代の脚本家ダルトン・トランボの苦難と復活をつづる実録ドラマ『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
トランボ
不朽の名作『ローマの休日』『黒い牡牛』など、ハリウッドに嫌われながらも偽名を使ってアカデミー賞を2度受賞した、稀代の脚本家ダルトン・トランボの苦難と復活を描いた実録ドラマです。

第二次世界大戦後のアメリカ・ハリウッド。赤狩りの標的となった脚本家トランボ(ブライアン・クランストン)は、下院非米活動委員会の聴聞会での証言を拒み、ハリウッドから追放されてしまいます。お金に困ったトランボは生活費を稼ぐため、偽名でしたためた脚本を発表するのですが。

<議会侮辱罪>で投獄され、仕事も奪われたトランボはドン底の人生を味わいますが、彼には支えてくれる家族と仲間がいました。本作は当時のニュース映像を交えながら、危険分子とみなされたトランボとその家族の強い絆と、同様にハリウッド・ショービジネス界で有罪判決を受けた10人“ハリウッド・テン”の困難な歩みを50年代の世相とともに浮き彫りに。決して信念を曲げない偏屈な頑固オヤジながらどこかユーモラスでもあるトランボを、TVシリーズ「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストンがチャーミングに演じています。
函館を舞台に、悲壮な世界で身を寄せ合う男女の行く果ては?『そこのみにて光輝く』
そこのみにて光輝く
不遇の作家・佐藤泰志の長編小説を綾野剛主演で映画化。『海炭市叙景』に続く函館三部作の第二作目で、昨年三作目となる『オーバー・フェンス』がオダギリジョー主演で映画化されています。

仕事を辞め、ぶらぶらと過ごしていた佐藤達夫(綾野剛)は、やたら人懐っこい大城拓児(菅田将暉)に誘われて訪れた古ぼけた海辺のバラックで、拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会います。2人はすぐに惹かれあいますが、家族のために犠牲となっている千夏やトラウマを抱える達夫は紆余曲折の果てに……。

認知症を患う色ボケした父親や仕事をしてもすぐに喧嘩をして辞めてしまう弟など、千夏はトラブルを抱える一家を養うために体を売って稼いでいます。そんな彼女を支えるために、自らの辛い過去と対峙しようとする達夫の苦悩を、綾野剛が憂いを帯びた演技で好演。ただひたすら悲壮で息苦しい世界で身を寄せ合う人々の生き様が描かれた、佐藤泰志の血のにじみ出るような世界観は、日本映画好きならぜひ一度体験してほしい!

今回ご紹介した5作品は、切り口はディープ&骨太ながら、観終えた後には希望の光がほのかに見える感動作です。2017年もあと約3ヵ月。秋の夜長に素敵な映画からパワーをたくさんもらって、実りあるシーズンを過ごしましょう。

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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