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美しき俊英グザヴィエ・ドラン、その進化をたどる5作品

2017.10.06(Fri) | 上原礼子

その麗しいルックスや類いまれなる才能から、“アンファン・テリブル(恐るべき子ども)”“美しき天才”などと呼ばれてきた、カナダ出身のグザヴィエ・ドラン。19歳のときの監督デビュー作『マイ・マザー』(2009)がカンヌの「監督週間」に選ばれ、5作目『Mommy/マミー』(2014)では巨匠ジャン=リュック・ゴダールとカンヌの審査員賞を分け合い、フランスのスター俳優を揃えた『たかが世界の終わり』でついにグランプリを獲得。今、最も次回作を観たい監督であり、俳優であり、その中で最も若い1人であろうドランの初期3作と最新作から、その進化をたどってみました。

『たかが世界の終わり』(2016年)
たかが世界の終わり
ヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ、そしてナタリー・バイというフランスを代表する俳優たちを迎えて撮った監督6作目。舞台劇「まさに世界の終わり」をもとに、監督・脚本・編集を手がけた本作は、死期の迫った人気作家が12年ぶりに故郷の家族を訪ねる半日あまりの物語。

家族とは、最も近いが、最も遠い存在でもあることを示した本作。下記の作品のように彼のテーマであった、母と息子の関係はもちろん、描く対象が家族へと広がりました。主人公ルイが突然帰ってきたことで、日常が非日常となった家族。もともと人物のクローズアップやバックショットを多用したり、彼らの心情を反映するような音楽を効果的に流したり(冒頭に流れる「Home is where it hurts」しかり)、独特のドラン手法というものがありますが、本作ではいっそうこなれてきて、ドランは確実に成熟へと向かっているなと思わされます。母と息子が不器用に愛し合い、傷つけ合う様を描いた前作『Mommy/マミー』が第1章の集大成だったとすれば、今回は彼の第2章のはじまりではないかと。

初めてキャストをビッグネームで揃えたことも大きいでしょう。“兄”ヴァンサン・カッセルが故郷から出られない男としての怒りを爆発させ、レア・セドゥは“末妹”のか弱さを体現し、ナタリー・バイはあえて無邪気な“母”であり続けました。また、“兄嫁”という義理の関係だからこそのマリオン・コティヤールの引いた優しさと戸惑いが、ギャスパー・ウリエル演じる主人公ルイの異質さを際立たせます。彼らの壮絶な演技合戦は必見です。
『マイ・マザー』(2009年)
マイ・マザー
初めてのドラン作品『わたしはロランス』(下記)を嵐の日に観て、まさに雷に打たれたような衝撃を受けてから早4年。そのビジュアルにひと目ぼれし、年齢を聞いて驚き(当時24歳)、その上、このデビュー作を撮ったのが19歳と聞いて、さらに驚いたことを思い出します。

カナダ・ケベック州の小さな町で暮らす17歳のユベール。かわりばえのしない毎日を過ごす彼は、何かと口うるさく、自分をコントロールしようとする母親に常に苛立っています。ものの食べ方から、洋服のセンスから何から、その一挙手一投足にとにかくイライラ。ひとえに、彼女が母親であるからです。原題は『I Killed My Mother』ですからね。

主演・製作・監督・脚本をつとめたこのデビュー作は、カンヌ映画祭でいきなり三冠を獲得。母親との関係に悩みながら成長する少年の愛憎の物語は、半自伝的作品ともいわれています。ドランの父親は俳優でミュージシャンのマニュエル・タドロスで、本作にも出演。ドラン自身も子役から活躍しており、父親とは親和性が高い一方、母親との関係には確執があったのかも……。どこかいびつなシンメトリーと独特の色彩美の中に、不器用な母と子が浮かび上がります。
『胸騒ぎの恋人』(2010年)
胸騒ぎの恋人
鮮烈のデビューからわずか1年、続く2作目もカンヌ「ある視点部門」でプレミア上映されました。20歳で2度目のカンヌ! 一躍スターダムにのし上がったドランは、同じ男性を好きになってしまった男女の三角関係を描くラブストーリーを生み出します。

ゲイのフランシスが好きになった相手は、親友マリーも思いを寄せる美青年ニコラ。2人ともニコラの思わせぶりな態度にドギマギして、牽制し合い。この複雑な三角関係はあるとき、取っ組み合いのけんかにまでなり…。

ニコラ役ニールス・シュナイダーの彫刻のような美しさと、それを自覚している罪深きナルシズムは、ドラン演じるフランソワやマリーが恋に落ちても仕方がないほど。とはいえ、その人物像にドラン自身を重ねてしまうのは深読みし過ぎでしょうか。ウブな恋の駆け引きで、誰もが経験する片想いの傷を容赦なく疼かせる本作では、ドランは主演・監督ほか、製作・脚本・編集・衣装、アートディレクションまでも手がけています。
『わたしはロランス』(2012年)
わたしはロランス
3作目となる本作もカンヌ「ある視点部門」に選ばれ、主人公の恋人役を務めたスザンヌ・クレマンが優秀女優賞を受賞。ガス・ヴァン・サントが本作とドランをいたく気に入り、全米公開を後押ししたといいます。ビジュアルにも起用されている、色とりどりの洋服が天から振ってくる場面は印象的です。

30歳の誕生日に、自分に正直になるべく“女性として生きる”ことを決めた国語教師ロランス(メルヴィル・プポー)と、その恋人フレッド(クレマン)の10年間を描いた、人間の尊厳や偏見にも言及するラブ・ストーリー。ロランスもまた、ドランの一部分を投影させたキャラクターといえるでしょう。

本作での、作為的な構図や色彩と音楽の洪水は、思春期(1作目)、青年期(2作目)を経て、1歩“大人になった”感があります。また、女優スザンヌ・クレマンといえば、『マイ・マザー』では自身の母親役、『胸騒ぎの恋人』では好きな人の母親役、『Mommy/マミー』では“もう1人の母”といえる隣人を演じており、ドランのミューズの1人。さらにロランスの母親役でナタリー・バイも出演しています。
『神のゆらぎ』(2014年)
神のゆらぎ
最後に、俳優としての最新作となるこちら。<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016>にて上映され、全70作品中動員1位を獲得する人気を得ました。俳優として自身の監督作以外への出演はそれほど多くなく、「今までに演じたことのない役」であったのが出演の理由だそう。

演じたのは、「エホバの証人」を信仰する白血病に侵された青年。信仰のため輸血を拒否しており、病状は末期。その青年と同じく信者で看護師のフィアンセ、さらに情熱的な不倫を続けるバーテンの男とクロークの女、アル中の妻とギャンブル狂の夫。そしてドラッグの運び屋となった1人の男。彼らの物語が、ある飛行機の墜落事故によって結びついていくヒューマンドラマです。

運命を決めるのは、神なのか、それとも自分自身かーー。何を食べても、何に金を使っても、誰を愛そうとも、どう生きても、死は必ず訪れる。それだけがはっきりとわかっていることです。何が起こってもおかしくない現在、備えておきたい精神の構えの1つといえそうです。

いかがでしたか? 映画監督であり俳優、脚本家にして、プロデューサー、衣装デザイナー、アートディレクターでもあるグザヴィエ・ドラン。これらのほか、2013年ベネチア国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞した監督4作目&主演作トム・アット・ザ・ファームは、サスペンススリラーの要素が強く、ハラハラさせられっぱなしです。そして、次回作となる長編第6作目は、初の英語作品『The Death and Life of John F. Donovan』(2018年全米公開)。ジェシカ・チャステイン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドンらそうそうたる女優陣たちが、キット・ハリントン演じるタイトルロールを取り囲みます。いったい彼の進化は、どこまで続くのでしょうか?

Writer | 上原礼子

情報誌・女性誌等の編集・ライターをへて、現在はWEBを中心にフリーに。1児の母。子ども、ネコ、英国俳優などが弱点。看護師専門誌で映画&DVDコーナーを14年担当したこともあり、医療や死生観などにも関心アリ。試写(映画館)忘備録と、映画を通じて悲嘆を癒やす試み【映画でグリーフワーク】をFacebookにて随時更新中。

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