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挑戦的なのにナイーブ。フランスの鬼才フランソワ・オゾン監督作5選

2017.10.18(Wed) | 足立美由紀

密室殺人の真相をめぐり、8人の女性たちの裏の顔が明らかになるミュージカル『8人の女たち』で、日本に広く知られることとなったフランスの鬼才フランソワ・オゾン監督。オゾン作品では、しばしば心の奥底に潜むネガティブな思念を暴き出す挑戦的なテーマが扱われますが、人間の本質を肯定するナイーブな視座と美しい映像が作品にエレガントな高潔さを与えています。時にスリリングに、時にユーモアまじえて人間の心の機微を皮肉たっぷりに描く、フランソワ・オゾンの世界へようこそ!

モノクロ×カラーの映像美にうっとりする極上ミステリー『婚約者の友人』
婚約者の友人_poster
フランスとの戦争で婚約者を失ったドイツ人女性と、突然現れたフランス人青年の謎と嘘を追うミステリー。原案はモーリス・ロスタンの戯曲を基にしたエルンスト・ルビッチ監督によるシリアスドラマ『私の殺した男』。戯曲、ルビッチ版ではフランス人青年を主役に据え“罪”をテーマに描いたのに対し、オゾン監督はドイツ人女性の視点から“嘘”にフォーカスをあてたミステリアスなアプローチで古典劇を現代に甦らせています。

1919年ドイツ。戦争で婚約者フランツを失くしたアンナ(パウラ・ベーア)は、ある朝フランツの墓前で涙ぐむフランス人青年(ピエール・ニネ)を見かけます。フランツのパリ留学時代の友人かも~と思ったアンナは、彼を探し出しフランツの両親と暮らす家へと招待。アドリアンと名乗るその青年は、フランツと過ごしたパリでの思い出を語ってきかせるのですが。

フランツとアドリアンを結ぶアイテムとして使われたマネの知られざる名画は、生々しくも刺激的な味わい。また様々な経験で一回り成長したアンナをその絵に対峙させるなど、本作でもオゾン監督のシニカルぶりが光ります。深い悲しみで結ばれたアンナとアドリアンは惹かれあいますが、熱のこもったアンナの眼差しと、それに気づかないふりをするアドリアンの微妙な大人の駆け引きはこれぞフランス映画の醍醐味! モノクロ映像でつづられながらも、回想シーンやウキウキ感など、登場人物の気持ちが大きく動くシークエンスでは画面をカラフルにする演出も心憎いばかりです。オゾン映画のもう一つの贅沢とも言える、ノーブルでクラシカルな衣装&装飾品や緑豊かな自然の映像美も楽しんで!

♦『婚約者の友人
10月21日(土)シネスイッチ銀座 ほか全国順次公開
(C) 2015 MANDARIN PRODUCTION – X FILME – MARS FILMS – FRANCE 2 CINE-MA - FOZ-JEAN-CLAUDE MOIREAU
あるがままの自分を受け入れる自己解放の物語『彼は秘密の女ともだち』
彼は秘密の女ともだち
親友の死をきっかけに、本来の自分を取り戻していく”女たち“の物語。フランス映画界の若手注目株アナイス・ドゥムースティエが平凡な主婦から艶やかに変身を遂げる主人公・クレールを演じ、タイピスト!の実力派俳優ロマン・デュリスが妻の死を期にクロスドレッサー(異性装者)となるダヴィッド&ヴィルジニアに扮しています。

亡くなった親友ローラの夫・ダヴィッドとその赤ちゃんを守ると誓ったクレールは、「女性の服が着たい」というダヴィッドの告白を聞き、驚きます。戸惑いながらも秘密の“女ともだち”になった2人は、ショッピングや映画に出かけ、小さな喜びを重ねていくのですが。

女装姿のダヴィッドを「ヴィルジニア」と名付けたクレール。化粧をして綺麗になっていくヴィルジニアに触発され、自身も女性としての意識に目覚めていく行為は、親友を失った深い悲しみから脱するリハビリでもありました。イギリスの女流作家ルース・ヘンデルの短編「女ともだち」からヒントを得て約20年越しで完成した本作は、偏見や違いにとらわれずに、あるがままの自分を受け入れる素晴らしさを称えた個性派ラブストーリーです。ヒールを履きこなすヴィルジニアの美しさにも注目!
のぞき見という背徳に堕ちていくエモーショナル・サスペンス『危険なプロット』
危険なプロット
文才に恵まれた男子高校生と、教師が織り成す危険な人間ドラマ。ウッディ・アレン監督の大ファンだというオゾン監督は、教師ジェルマン役に扮したフランスの名優ファブリス・ルキーニと、その妻役のクリスティン・スコット・トーマスに、かつてのアレンとダイアン・キートンのインテリコンビを彷彿とさせるやり取りをさせオマージュ。また、ジェルマンを翻弄する高校生クロードを、オゾンに「美しすぎて、今後が心配」と言わしめた新星エルンスト・ウンハウワーが演じ、妖しい魅力を放っています。

かつて作家を目指していた国語教師ジェルマンは、教え子のクロードが書いた秀逸な文章に非凡の才を感じ、小説執筆の個人レッスンを申し出ます。クロードの書く友人ラファの家庭生活を赤裸々に描くシニカルな文章に激しく惹きつけられたジェルマンは、続きをせがみ……。

本作はのぞき見という背徳の喜びにハマった1人の男を活写したエモーショナル・サスペンス。個人レッスンがいつしか息もつかせぬ濃密な心理戦へと変わっていくヒリヒリ感を存分にご堪能ください。
『まぼろし』に続く“死についての三部作”の第二章『ぼくを葬る』
ぼくを葬る
ガンにおかされた31歳の青年の最期の時を映し出す、切ない人間ドラマ。本作は『まぼろし』に続く“死についての三部作”の第二章に位置づけられている作品です。主人公は監督自身が投影されたかのようなゲイのフォトグラファー・ロマン。オゾン監督は本作で“自分自身の死”を描き出しています。

余命3ヶ月と宣告されたロマン(メルヴィル・プポー)は家族の元を訪れますが、心にもない言葉で不仲な姉を傷付け喧嘩となります。大切なことを何も告げられず実家を後にしたロマンは、孤独な一人暮らしをする祖母にだけ事実を伝えるのですが。

プポーは寄る辺ないゲイの孤独と葛藤を、胸を締め付ける切ない演技で体現。自分の境遇と似ているという理由でロマンからガンについて知らされる祖母を演じたのは、この7月末に亡くなったジャンヌ・モローです。死にゆく孫へ発した万感こもった一言の破壊力は、さすがの名女優! ご冥福をお祈りいたします。
オゾンの新・旧ミューズが競演するミステリー『スイミング・プール』
スイミング・プール [DVD]
創作活動中の人気女流作家のひと夏を、スリリングに描くミステリー。本作はアメリカの映画サイトIndieWireが6月に発表した「21世紀の最もセクシーな映画ベスト25」で12位にランクインした作品です。

南仏プロヴァンス。ミステリー作家のサラ(シャーロット・ランプリング)は、出版社社長の別荘で新作の執筆をしています。そこへ自由奔放な社長の娘ジュリー(リュディビーヌ・サニエ)が現れ、毎夜違う男性と……。サラは苛立ちながらも、ジュリーの魅力に気づく。

本作ではランプリング扮するサラと子役出身のサニエ扮するジュリーによる、女たちの心理戦がスリリングに描き出されます。この新旧 “オゾン・ミューズ”の演技合戦も見ごたえあり!

ゲイであることを公表し、ジェンダーの揺らぎを作品の中に織り込むオゾン監督。その一方でカトリーヌ・ドヌーヴ、シャーロット・ランプリングなど、ひと癖ある女優たちを起用し、女性心理を鋭く描く“女性賛歌”も。性別にかかわらず “人間”というものを浮き彫りにする深い洞察力と、息詰まる展開がオゾン作品の魅力なんですよね。

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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