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映画で世界を知る:衝撃のドキュメンタリー6選

2017.11.15(Wed) | 春錵かつら

「知る」ということ。
情報化社会に伴い情報武装する人が増えました。ですが、知りたいことについての情報を多く集めるだけが「知る」ということではありません。集めた情報と情報を繋いで点を線に、線を面にする。そしてそれについてどう考えるのか思うのか、自分の観点を持つ。それが本当の「知る」ということ。
インターネットの普及をはじめ、どんどん便利になる私たちの世界。溢れる情報の海に漂流する私たちは、何をせずとも世界に詳しくなったような気になってしまいがちです。自分が知りたいものや情報は検索してどんどん集めることができる一方で、「知りたい」と思うきっかけになる情報すら持っていなければ、検索することもしないわけで……未知のものに辿りつくことが困難な世界でもあります。
勉強するには難しいことも2時間前後に凝縮されているドキュメンタリー映画は、そんな未知のものへの扉をひらく格好の手段のひとつ。
そこで、ぜひ一度は観て欲しい「世界を知るためのドキュメンタリー6本」を手前味噌ながら選んでみました。

世界に、地球に、耳と目を傾ける『不都合な真実2:放置された地球』
不都合な真実2
 最近とみに耳にするようになった「異常気象」と「地球温暖化」。ゲリラ豪雨に竜巻、洪水……日本に住む私たちの日常生活でも幾度となく会話に登場するキーワードです。
 2006年、ドキュメンタリー映画史上に残る大ヒットを記録、その年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞も受賞した『不都合な真実』。元アメリカ合衆国副大統領であるアル・ゴア氏がナビゲーターとして主演を務め、地球の温暖化問題を投げかけた環境ドキュメンタリーの続編が11年ぶりに公開。前作から10年の時を経た「地球」の姿を綴る本作は、先日行われた東京国際映画祭のクロージング作品に選出されました。
 トランプ政権となった6月、トランプ大統領は「パリ協定を離脱」。そして先日のトランプ来日と時を同じくして、主演のアル・ゴア氏も来日、ニュースを賑わせました。「パリ協定」は2015年に行われた気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定。地球の温暖化を止めるべく、各国がCO2排出量の削減などに合意する中、頑として首を縦に振らないインドを口説き落とすためアル・ゴア氏が裏で尽力した姿が映し出されます。
 本編は氷河が融け落ちる水面から始まります。作中で目にする衝撃的な映像の数々。10年の間に地球環境はさらに深刻な危機を迎えています。極端な異常気象は悪化の一途、温暖化が進んでいるのを誰もが知っているのに、今ひとつ切迫した実感として捉えられない私たちに、本作は常に疑問を投げかけ、手を差し伸べます。「地球の未来を賭けて戦おう」と。
 説得力と希望に溢れる、「今、観るべき」一作です。

◆『不都合な真実2:放置された地球』
2017年11月17日(金)公開
(C)2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
世界中が沈黙を通した、その罪の重さ 『アクト・オブ・キリング』/ 『ルック・オブ・サイレンス』
アクト・オブ・キリング
 1965年9月30日、インドネシアのスカルノ大統領がスハルトのクーデターにより失脚したのを皮切りに、右派勢力による「共産党員狩り」と称され100万人以上が犠牲となった大虐殺を追った作品。スカルノ大統領といえば、ピンとくる人もいるかもしれませんが、今や日本のバラエティで活躍するデヴィ夫人の夫。余談はさておき、この二作品は姉妹作となるドキュメンタリーで、同じ事件を追っています。
 『アクト・オブ・キリング』は、当時虐殺に関わった権力者たちに、どのように虐殺をおこなったかをカメラの前で演じ再現させるという手法をとった異色のドキュメンタリーです。人を残虐に殺した人間が、自身の孫に鳥の命の大切さを教えたり、得意げに殺し方を説明してみたり……。
ルック・オブ・サイレンス
 一方『ルック・オブ・サイレンス』は、先の大虐殺の被害者の視点から描かれるドキュメンタリー。被害者家族である眼鏡技師が加害者たちにインタビューを試みます。目の前にいる男が、かつて殺した男の弟だと知った加害者たちの動揺は明らか。「罪悪感」がもたらす恩恵と弊害が本作では浮き彫りになります。
 製作に関わった多くの現地スタッフは“ANONYMOUS"(匿名)としてクレジットされ、危険を回避すべくある者は隠れ、ある者は移住しています。二作のメガホンを取ったアメリカ人監督のジョシュア・オッペンハイマーも、本作が理由でインドネシアに入国禁止に。
 アメリカを始め、もちろん日本も含めた世界が黙認した「大虐殺」という真実。「正義」という名の混沌がそこにはあります。
他国のプロジェクトに自国の未来と責任を憂う『100,000年後の安全』
100,000年後の安全 [DVD]
 フィンランドのオルキルオトに世界で初めて建設されることになった、高レベル放射性廃棄物の永久地層処分場にカメラを向けた2009年に作られたドキュメンタリー。10万年もの耐久性がある世界初の放射性廃棄物の最終処分場を造るオンカロ・プロジェクト。
 2011年に起きた東日本大震災以来、目や耳にする機会が圧倒的に増え、身近な話題となった原子力発電。あれから6年、原子力発電所の放射性廃棄物問題の決着が今なおついておらず、奇しくも先日「凍土壁」がほぼ完成というニュースが流れた日本に住む人にこそ見て欲しい一作です。
 史上初の原子力発電は、1951年、第二次世界大戦終結後のアメリカ。専門家の意見も日本と同様に賛否両論、まだ60年そこそこの歴史しか持たない存在が及ぼす “100, 000年後の安全”など、今はまだ人知の及ばぬところに等しいものなのかも知れません。
 このドキュメンタリーの評価すべき点は、原発否定に終始しないこと。フィンランドがすごいのは、原発の操業開始と同時に最終処分場の議論を始めたこと。そこは日本とは大違いで、原発の力を享受する者にとっての覚悟、そして未来への責任に切り込みます。
 観る者たちは自分で考え、是か非かを選択せざるをえません。他国の現状を通して、自分の国の自分たちが抱える問題に向き合うきっかけとなるドキュメンタリーです。
文化と歴史のその先に、理解と発展はあるのか『ザ・コーヴ』
ザ・コーヴ [DVD]
 2009年、サンダンス映画祭で観客賞、第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞など数々の賞を受賞、ルイ・シホヨス監督による日本のイルカの追い込み漁を追ったアメリカのドキュメンタリー。PG-12指定を受けただけでなく、日本の公開は度重なる抗議デモやモザイク処理などで、公開中止、公開延期などを何度も余儀なくされた問題作です。
 イルカの追い込み漁を行う和歌山県太地町の猟師たちを“悪者”とする恣意的な演出もゼロとはいいませんし賛否が分かれる作品であることは確かですが、討論の場にすら上がらないのはあまりにも勿体ない一作。
 本作を通して、日本で行われるイルカ漁がどんなものか、そして他の国ではそれがどんな反応を得ているのかを知ります。それぞれの土地にはそれぞれの文化と歴史があり、それで生計を立てている人がいる。そしてそれが他の国からしたら“悪いことだ”と非難される可能性があるということ。両者の言い分を冷静に聞いたら自分はどう思うのか、知的欲求への入口となることはもちろんですが、何より、「観て判断すべき」という言論表現の自由を考えさせられる、良くも悪くも刺激的な作品であることには間違いありません。
9.11のそのとき、大統領は?『華氏911』
華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]
 泣く子も黙るマイケル・ムーア監督によるブッシュ政権批判のドキュメンタリー。監督本人は「ブッシュ批判」は否定、「9・11後に起きた、より大きな問題を考えるのが目的」としていますが、意図はどうであれ、ブッシュを痛烈に批判しまくる結果となりました。
 本作は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件をめぐり、ブッシュ大統領に体当たりで切り込んだ鋭い一作。2004年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞、ドキュメンタリー映画としてのパルムドールは『沈黙の世界』以来48年ぶりとなる快挙でした。
 上映直後にはスタンディング・オベーションが25分間続いたというエピソードもあるように、マイケル・ムーア作品の凄さは、それがエンターテインメントとしても十二分に成り立つ面白さだということ。
 あの悲惨な9.11のそのとき、小学校で「ヤギさんの物語」を聞いていたブッシュ大統領はホワイトハウスに戻る選択を捨てた。ブッシュとビンラディン家、イラク戦争を主導したラムズフェルド国防長官とイラクの独裁者サダム・フセインの密接な関係、イラクを攻撃した本当の理由、嘘か本当か衝撃の事実がどんどん出てくるのには、息継ぎを忘れるほど。
 なお今作の評価として、その年のラジー賞でジョージ・ブッシュ元大統領は最低男優賞を、ドナルド・ラムズフェルド国防長官は最低助演男優賞を受賞というおまけつき。こういうところがアメリカのいいところでもあります。

世界は知れば知るほど果てしなく、知れば知るほど、知りたい“知らないこと”が増えてゆきます。
常に未知のものへの興味と好奇心を持ち続けること。「ドキュメンタリー」というジャンルには、私たちが知り得ない好奇心への扉が隠されています。その興味や好奇心はやがて誰かを救ったり、世の中を変える力になるかも知れない。あらゆる可能性を信じて、今日も知らない世界への扉を叩き続けましょう。
ノック、ノック。

Writer | 春錵かつら

映画を主軸にムックや月刊誌、WEBで活動中のフリーライター。 CMのデータ会社にて年間15,000本を超えるCMの編集業務に携わる傍ら、映画のTVCMのコラムを某有名メールマガジンにて連載。 フリーに転身後、大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務める。料理本、漫画/映画解説本、ペット関連、ビジネス本など、 幅広いジャンルで執筆中。著書に「絶対に見逃すな! 犬の症状これだけは!」など。

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