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人生で一番大切なことがつまっている!イラン映画が教えてくれること

2018.01.12(Fri) | 斎藤香

イラン映画といえば、名匠アッバス・キアロスタミが有名ですが、ほかにもいい映画を撮る監督がいるのですよ。イラン映画は、すごく知的なユーモアと豊かな人間性を感じさせ、心に刺さる作品が多いのです。では、イラン映画の選り抜き5作品をご紹介しましょう。

キアロスタミの愛弟子がタクシーの乗客の人生を切り取っていく『人生タクシー』
人生タクシー
アッバス・キアロスタミ監督の愛弟子、ジャファル・パナヒ監督・主演作。反体制的な行動により映画監督禁止令を出されたパナヒ監督が、タクシーの運転手になってテヘランの人々の生の声を届けるドキュメンタリー作品です。

テヘランの街を流すタクシー運転手になったパナヒ監督。彼はダッシュボードにカメラを設置して、乗客とその会話を映し出していきます。車のタイヤを盗まれて憤慨する男、レンタルビデオ屋の店員、血だらけの夫を抱えてきた女性、金魚鉢を大切に抱える老女ふたりなど、それぞれが事情を抱えつつ必死に生きています。テヘランの社会問題が会話の端々から感じられ、個人のエピソードの数々がユニークな広がりを見せていくのです。

やはりパナヒは選ばれた映画監督。タクシーに乗車する人々全員、個性が際立っており、彼に映画を撮らせるように神様が届けた人なのではないかと思えるほどです。イランの生活者の真の姿をユーモアたっぷりに映し出していく傑作です。
アカデミー賞外国語映画賞受賞作のミステリアスな人間ドラマ『セールスマン』
セールスマン
『別離』『セールスマン』で2度アカデミー賞外国語映画賞を受賞したアスガー・ファルハディ監督作。ある事件をきっかけに夫婦の気持ちがすれ違っていく様子と事件の真相を追い詰めていくヒューマンミステリー。

「セールスマンの死」を舞台で上演するための稽古に忙しい夫婦エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドゥスティ)。引っ越したばかりの家で、ラナはエマッドが不在の間に暴漢に襲われます。精神が不安定になるラナ。警察に相談したくでもラナに反対されたエマッドは、自力で犯人を捜し出そうとするのですが……。

住んでいた家に亀裂が入って引っ越しを余儀なくされる冒頭シーンから不安が立ち込めます。ちょっとした油断から幸福な生活に亀裂が入っていく……。これは誰にでも起こりうる出来事です。イラン映画の監督の中でも、ファルハディ監督の作品はエンタテインメント性も強く感じさせる作風なのでイラン映画ビギナーにもオススメ。本作もヒューマンミステリーとして見応えある作品になっています。
孤独な少年が人との関わりを知っていく姿を描いた傑作『ボーダレス ぼくの船の国境線』
ボーダレス
イランとイラクの国境の廃船で暮らすイラン人少年とイラクの少年兵との交流を軸に、国境を超えた人間関係を濃密に描いたアミルホセイン・アスガリ監督のデビュー作。

廃船で生活をする少年(アリレザ・バレディ)は、海で魚を釣っては町で売ってお金を稼ぎ、ひとりで生活をしています。その船に銃をかまえた少年兵(ゼイナブ・ナセルポァ)が侵入し、言葉の通じない二人は敵対心を抱きます。しかし、ある日、外で大きな爆撃があり、少年兵は赤ん坊を抱えて再び廃船へ。そのときから二人の間に友情が芽生えるのです。

冒頭から少年の廃船での生活が映し出されます。工夫を凝らして生活している少年の生きる知恵とたくましさには驚くばかり。そんな彼がイラク側の少年兵との出会いから喜怒哀楽と人間味あふれる姿を見せていくのです。ひとりでも生きる術は手に入るかもしれませんが、やはり心が揺り動かされるのは人と人の交流。アスガリ監督のデビュー作とは思えない力強い演出が素晴らしいです。
妹のために頑張る兄のけなげさが可愛くて涙!『運動靴と赤い金魚』
NoImage
妹に新しい運動靴を!とマラソン大会で奮闘するお兄ちゃんを描いたユーモア可愛さと感動がたっぷりつまった作品です。

修理したばかりの妹の運動靴をなくしてしまった兄のアリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)。親に知られたら怒られると自分の運動靴を妹と交互に使用していましたが、ある日、マラソン大会の3等の賞品が運動靴を知り、アリは参戦することにするのです。

親に負担をかけまいと必死のお兄ちゃんが可愛い。妹のために賞品の運動靴を手に入れようと出場したマラソン大会シーンはドキドキしっぱなし! まさに「清らかな世界を見た」「癒された」と思える映画であり「親に怒られるから言えなかったことあったなあ」とノスタルジーに浸りつつ「物を大切にしなくちゃいけない」と物に溢れた世界で麻痺していた心を反省する気持ちになったりして。心の浄化作用があるイラン映画です。
少年二人の友情に胸がくすぐられる短編映画『キミのモノ』
キミのモノ
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2015 グランプリ&インターナショナル部門優秀賞を受賞した18分の短編です。

少年ふたりが手に入らない物を「僕のだ」と言い争いますが、ひとりの少年が家で遭遇したある出来事を知ったもうひとりの少年は、思いがけない言葉を彼にかけるのです。

手に入らないものを所有することで「自分の方がエライ」と、強さを誇示できると思っている少年が、友達の事情を知って見せるやさしさに心がほっこりします。彼は手に入らない物よりも、もっと大切な何かを「僕のもの」にしたのです。きっと女子同士だったらラストは違ったものになっただろうなとか、大人の男性同士、女性同士だと、もしかして戦争になったかもとか、いろいろ想像が広がっていく作品。一見可愛いけど、実は深い映画なのかもしれません。

イラン映画はハリウッド映画のようなお金を懸けた映像もスター競演もありませんが、凄く心に刺さる作品が多いのです。それは人間がしっかり描かれているから。いずれもじっくり見てほしい力作です。

Writer | 斎藤香

映画ライター 映画誌の編集者を経てフリーに。映画レビュー、監督&俳優へのインタビュー、書籍ライティングなどで活動中。映画のほかには教育関連の取材執筆もいたします。好きな監督はウディ・アレン、トーマス・アルフレッドソン、アルフレッド・ヒッチコックなど多数。

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