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日本映画界の新たな才能・中川龍太郎監督作品、その静謐な佇まいと作家性が光る刮目すべきフィルモグラフィ

2018.05.02(Wed) | 松村知恵美

中川龍太郎。この名前、まだそれほど世間に知られてはいませんが、映画ファンであれば、これからたびたび名前を聞くことになるであろう、才能あふれる若き映画監督です。

1990年、平成2年生まれの中川龍太郎は、大学入学後に自主映画の製作を始めます。その後、国内の数々のインディペンデント映画祭で受賞を果たし、2012年の初監督作品『Calling』がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞、『雨粒の小さな歴史』(2012)がニューヨーク市国際映画祭に入選。さらに、2014年の『愛の小さな歴史』に続き、2015年の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』が2年連続で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品されるなど、国内外の映画関係者から高い評価を得ています。

この中川龍太郎監督の最新作『四月の永い夢』が5月12日から新宿武蔵野館ほかにて順次公開されます。この公開を前に、この中川監督が手がけた瑞々しい作品群を、最新公開作とともにご紹介します。青山シアターでは『四月の永い夢』を除く全作品を鑑賞可能。ぜひこの機会に、ご鑑賞ください。

恋人を亡くし、自分の世界でまどろんでいた女性の、ゆるやかな目覚めを描く『四月の永い夢』
四月の永い夢
中川監督の最新作、『四月の永い夢』。この作品は朝倉あきを主演に迎え、3年前に恋人を亡くした女性が、ゆっくりと喪失感から立ち直っていく姿をおだやかに描いています。恋人を亡くした悲しみ、やりきれなさ、無力感…。笑顔の下に複雑な感情を抱えた主人公と、彼女をやさしく見守る人々、そして彼女に恋をする手ぬぐい職人がゆっくりと物語を紡いでいきます。出てくる人々がみんなやさしく、彼女の暮らす国立市の街並みも美しく、世界は捨てたものではないと感じさせてくれるような作品です。銭湯、ラジオなど、どこかなつかしく昭和感漂うモチーフも多く登場しています。実はこの作品、すでに多くの国際映画祭に出品されており、第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品され、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞するなど、その詩的な映像とメッセージが高い評価を得ています。

◆『四月の永い夢』 2018年5月12日(土)公開
(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
親友はなぜ自殺した? 監督自身の体験をもとにした、亡き親友へのレクイエム『走れ、絶望に追いつかれない速さで』
走れ、絶望に~
2015年に太賀主演で製作された映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は、中川監督の自伝的作品とも言える一作。親友が自殺するという監督自身の実体験を踏まえ、大学を卒業し社会人になるという時に自殺した親友の足跡を追う青年の姿を描いています。彼がなぜ自殺したのか答えも何もわからず、新たな一歩を踏み出すこともできない青年の言葉にできない苦しみを、静かに、でも熱く表現しています。親友とのなんでもない会話、一緒に入る銭湯、怠惰で幸せな生活…。まぶしく美しい過去と、過去と同じく光にあふれている親友のいない世界。自己の体験を悲劇に落とし込むのではなく、きちんと芸術性の高いロードムービーに昇華させた監督の手腕に、才能のきらめきを感じることができる一作です。第28回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門にて入選上映されています。
あなたと暮らしたい、でも争わずにいられない。哀しくも美しい家族が紡ぐ物語『愛の小さな歴史』
愛の小さな歴史
2015年に製作された映画『愛の小さな歴史』は、都会の片隅にある古い団地で家族たちが紡ぐ、小さな愛の物語です。かつて自分と母親を捨てて出て行った父親と暮らし始めた女性・夏希。若い頃に家出をして以来、借金の取り立てをして生きてきた男性・夏生と、薬漬けで風俗で働きながら生きてきた妹・明日香。父親と夏希、夏生と明日香、久しぶりに一緒に暮らすこととなり、言い争いが絶えないながらも離れられないでいる二つの家族。かつては暴力を振るっていた父親を演じる光石研、気持ちを表現できない不器用な娘を演じる中村映里子、そしてその二人をつなぐ青年を池松壮亮が演じています。悲しみと喜び、不幸と幸せがそれぞれ織り合わされながら紡がれていく、名もなき人々の小さな歴史が、美しく悲しく、そして激しく、詩的な映像で描かれた一作。2014年の第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門にて入選上映されました。
愛にすれ違い、何かを強く求め続ける3人の若い女性たち『Plastic Love Story』
Plastic
2013年に製作された映画『Plastic Love Story』は、愛を探す3人の女性の物語です。父親のわからない子どもを妊娠し、かつて好きだった中学時代の同級生との間の子どもだと喜ぶ恵理。稼ぎの悪い夫に不満だらけの母親に育てられ、恋人からも満足な愛情を得られないでいる理奈は、清掃員からの愛の告白を受けても、彼の愛を試すような言動ばかりをしてしまいます。幼い頃に弟を亡くした傷を抱えた奏恵は、心を病んだ青年と出会い彼と心を交わすようになり、やがて彼の子どもを身ごもってしまい…。彼女たちはそれぞれ、一番求めているものを得られず、求めていないものばかりが過剰に与えられるようになります。彼女たちをめぐる愛はすべてすれ違い、強いようでもろく、あることをきっかけに砕け散ってしまう…。若い女性たちの抱える生きづらさや不器用さを、美しい映像でやわらかく描き出した一作です。
社会人になる前のひと時、数々の出会いと別れを経験する美千留の若さをめぐる物語『雨粒の小さな歴史』
雨粒の小さな歴史
腹違いの妹との出会い、突然の愛の告白、親友の死。2012年に製作された『雨粒の小さな歴史』は、大学卒業後にテレビ局への就職を控える美千留が経験する、若さをめぐる物語です。体を売っている妹や自分達を捨てて身勝手に生きぬいた父親への複雑な思い、救えなかった親友を思う後悔など、音楽のように溢れ出す美千留の感情を丁寧に描いています。監督第二作目でありながら、強い作家性とエンターテインメント性を両立した瑞々しい物語に仕上がっており、中川監督の将来性を感じさせる一作です。2014年にボストン国際映画祭やニューヨーク市国際映画祭で入選を果たしたほか、国内でロードショーされた映画館の動員記録を塗り替えるほどの反響を得ています。
心を病んだ妻と彼女を支える夫、二人の間に流れる深い沈黙の物語『Calling』
calling
最後にご紹介するのは、中川龍太郎監督の初監督作である2012年の映画『Calling』。この作品は、心を病んで言葉と笑顔を失った妻と二人で暮らす、清掃員の男性を描いています。画家になるという夢を捨て、生活のために清掃員をしながら、ただ生きる毎日。妻と別れれば未来が拓けるのか、都会の片隅に幸せはあるのか…。心を病んだ妻と彼女を支える夫、二人だけに通じる愛の世界を、極端にセリフを抑えた演出で描いています。灼熱の新宿、人気のない住宅街、静謐な山中など、ボストン映画祭で最優秀撮影賞を受賞した映像も美しい、詩的な一作です。

高校在学中に詩集を出版した詩人でもある中川龍太郎監督が手掛けた映画作品は、どれも映画でありながら詩集のような独特な味わいがあります。その静謐な佇まいは、初監督作である『Calling』からすでに感じられ、彼の作品群の特徴ともなっています。少しエンターテインメント性を意識したと思われる『雨粒の小さな歴史』、作家性を強く打ち出した『Plastic Love Story』、映像作家としての自身の特徴を強く打ち出した『愛の小さな歴史』、自身の体験と思いを作品に焼き付けたような『走れ、絶望に追いつかれない速さで』、その哀しい体験をゆるし、癒しに昇華させたような『四月の永い夢』と、製作順に作品を観ていくと、彼の進化と成長が理解できるはずです。
これからの日本映画界の一翼を担うことになるであろう中川龍太郎監督の作品群、今のうちにぜひ青山シアターでご堪能ください。

Writer | 松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

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