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世界には音楽が必要だ!世代も国境も超える音楽ドキュメンタリーで心の洗濯

2018.07.11(Wed) | 上原礼子

今、世界中が盛り上がっているサッカーと同様、世代も国も超えて人々を1つにするものに「音楽」があります。今回は、18年の年月を経て公開されるキューバ音楽の伝道師たちを追った『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』にちなみ、心が洗われるような音楽ドキュメンタリーに焦点を当ててみました。

魂こめた“さよなら”…『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
ブエナビスタ
1999年に全米公開、日本では2000年に公開されるや大ヒットとなった『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(次項参照)。その続編となる本作は、キューバのカリスマ的指導者フィデル・カストロの死去を告げるニュースから幕を開けます。まさに1つの時代の終焉です。本作で描かれるのも、前作での大ブレイク後、ステージ活動に終止符を打つことにした現メンバーたちの“アディオス”(さよなら)世界ツアーと、前作ではカットされた秘蔵映像、メンバー各人の音楽的なルーツなど、1歩踏み込んだ内容となっています。2015年に、オバマ前・米大統領の目前で演奏したシーンも登場します。

さらに、メンバーの家族や報道機関、政府が保有するメディアからの映像など、膨大な記憶映像から紐解かれるのは、“人として”の音楽家たち。それぞれが貧困や不遇の時代を生きながら、音楽だけは手放さずにいたことが明かされます。そんな彼らの生き様は、キューバ音楽史のみならず、キューバの民族史や文化史とも呼べるもの。“生き字引”というにはあまりに簡単すぎる、壮絶な人生がそこにはあります。

特にメイン・ボーカルのイブライム・フェレール。彼とバンドのディーバ(歌姫)、オマーラとの親交は50年にも及び、若き日の共演シーンやバックコーラスで歌う彼の映像が紹介され、今になって、イブライムがどんな思いであのNYカーネギー・ホールの歓喜の中に立っていたのかを私たちは知ることになります。

また、流れた年月の間に、最高齢だったギタリストのコンパイ・セグンドら何人かの主要メンバーがこの世を去っており、その意味でも“アディオス”な本作。ただ、今なお健在のオマーラが「最期の最期まで歌い続けたい」と語るように、遅咲きだけれども確かに花開いた彼らは、その去り際までも音楽に全身全霊を捧げます。音楽を通じてつながり合った彼らの“アディオス”には、アツい涙が流れること必至です。

◆『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
アカデミー賞ノミネート!伝説の始まり『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ Film Telecine Version [DVD]
アメリカの名ギタリスト、ライ・クーダーがキューバを訪れたことから始まったビッグバンド「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。1997年に彼がプロデュースし、発売した同名アルバムはワールドミュージックとしては異例の900万枚を売り上げる世界的ヒットとなり、グラミー賞も獲得。そして、『パリ、テキサス』で組んだ名匠ヴィム・ヴェンダースが、音楽家たちの姿やオランダ・アムステルダムでのステージ、ちょうど20年前になるカーネギー・ホールでの記念すべきステージなどをカメラに収めたのが本作です。

映画はアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、日本でも大ヒットに。本作を通じて、初めてキューバ音楽やキューバ文化に触れた、関心を持ったという方も多いかもしれません。“キューバのナット・キング・コール”と紹介されるイブライムをはじめ、一時は“忘れ去られた”音楽家たちが一堂に会する本作があったからこそ、キューバと世界との距離がグッと縮まったのです。

自然に体がリズムを取り始めるキューバ音楽と、それを歌い奏でる、気高さと親しみやすさが同居した音楽家たち。本作から見ても、上記の『アディオス』から見ても、その魅力は十分に堪能できるはずです。
世界最高齢“ヒップホップダンス”チーム降臨『はじまりはヒップホップ』
はじまりはヒップホップ
ギネス認定されている世界最高齢のヒップホップダンスグループ、その名も「ヒップ・オペレーション」(腰の手術)が、ラスベガスで開催される世界最大のヒップホップ選手権への参加を目指す痛快ドキュメンタリー。

当時の平均年齢は83歳、最高齢メンバーは94歳という「ヒップ・オペレーション」の“新人ダンサー”たち。認知症の夫を抱えていたり、視力をほぼ失っていたりと、それぞれに事情や不調を抱えています。ニュージーランドの美しい小さな島・ワイヘキ島から世界へ挑戦する彼らの姿は、同じくヒップホップダンスで世界を目指す孫・ひ孫世代の若者たちの心をも動かしていき、少しずつ道が開けてくるのですが…。

そんな彼らを支えるのは、2011年、東日本大震災の直前に起きたニュージーランド地震で九死に一生を得た女性ビリー。島に移り住んだ彼女が、何か役に立つことをしたいと公民館で高齢者にダンスを教えるようになったのが、すべての始まりとなりました。キレッキレで踊りまくる少年少女を尻目に、ついに立ったラスベガスのステージ。思わず「すごい!」と感嘆の声を上げずにはいられない、すてきな彼らをぜひ観てほしいです。
少しばかりの敬意と尊厳がほしい!『パンク・シンドローム』
パンクシンドローム
こちらの舞台はフィンランド。知的障がいを抱えた人たちのワークショップとして始まったパンクロックバンドの活動が話題を呼び、路上ライブやライブ会場から、ついにはCDデビュー、海外でのツアーが実現していきます。

そのバンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」のリーダーは、洋服の縫い目がとにかく気になって仕方がないギターのペルッティ。自身が感じた不条理や怒りなどは日記に書きとめ、作詞・作曲も担当します。そして、茶目っ気がありガールフレンドもいるヴォーカルのカリ、美人議員を応援するベースのサミ、まだ実家を出たくないドラムのトニ。映像では、4人の個性がぶつかり合う練習風景や圧巻のライブ、友情とケンカの日常が描かれます。

そもそも、パンクとは権威や社会への怒りが“爆発”したもの。「少しばかりの敬意と尊厳が欲しい!」「グループホームなんか大嫌い!」と叫び、パワフルな演奏を見せる彼らは、まさに根っからのパンク人間! しかも、彼らはバンドを“仕事”と考えており、どんなにケンカをしても、好きな子に振られても、練習はしっかりとやり遂げます。ステージ上はもちろんのこと、ステージを降りてもパンクな彼らは最高です。
誰もが目を疑う、音楽がもたらす奇跡『パーソナル・ソング』
パーソナルソング
介護の現場で注目されている「音楽療法」を題材にした本作は、2014年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門で観客賞を受賞し、世界各国で大きな関心を集めました。アメリカのソーシャルワーカー、ダン・コーエンが、認知症患者に“自分にとって思い入れのある曲=パーソナル・ソング”を聞かせたら、音楽の記憶とともに何かを思い出すのではないか、と始めた試みを追っています。

とある施設を訪れたダンは、今や娘のこともわからなくなってしまった94歳の黒人男性ヘンリーに、彼が昔好きだったキャブ・キャロウェイを聞かせます。すると突然、ヘンリーは陽気に歌い始め、音楽を止めても「世界には音楽が必要だ!」と熱弁をふるい、家族のことなどを次々に語り出すのです。まさに原題の『Alive Inside』のとおり、ヘンリーの中で何かが目覚めた瞬間でした。

ほかにも多くの劇的な反応を目の当たりにできますが、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でも歌われた「Candela」を聞いたデニースが、2年間使っていた歩行器を自ら押しのけ、ダンの手を取って踊り始めるシーンも印象的。『レナードの朝』の原作者オリバー・サックスや「Don't Worry, Be Happy」で知られるボビー・マクファーリンといった脳や音楽の専門家たちが劇中で語るように、音楽には奇跡をもたらす力があることは確か、なのだと思います。

かつて歌ったり、踊ったりした曲や奏でた調べは、いつまでもその人の中に残り続けるのですね。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のメンバーたちも、その体現者です。思えば、本年度アカデミー賞で長編アニメ賞と主題歌賞をW受賞し、日本でも大ヒットした“王道”ディズニー/ピクサーの『リメンバー・ミー』にもラテン音楽が息づいていますし、『パーソナル・ソング』とも重なるテーマがあります。見えない“壁”を1つ1つ壊していくのは、こうした音楽の普遍性なのかもしれません。

Writer | 上原礼子

情報誌・女性誌等の編集・ライターをへて、現在はWEBを中心にフリーに。1児の母。子ども、ネコ、英国俳優などが弱点。看護師専門誌で映画&DVDコーナーを14年担当し、医療や死生観などにも関心アリ。試写(映画館)忘備録を随時更新中。映画を通じて悲嘆を癒やす【映画でグリーフワーク】を試みています。

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