ホーム > 見逃し厳禁!今やメジャー級!? インディーズ映画監督が群雄割拠する時代

見逃し厳禁!今やメジャー級!? インディーズ映画監督が群雄割拠する時代

2018.10.17(Wed) | 上原礼子

『カメラを止めるな!』が、国内での社会現象的大ヒットに加え、アメリカ、イギリス、カナダ、スペインなど各国の名だたるジャンル系映画祭でも話題となっています。監督・脚本・編集を手がけた上田慎一郎氏は一躍“時の人”となっておりますが、本作はもともと、映画専門学校・ENBUゼミナールによる劇場用映画製作のワークショップ「CINEMA PROJECT」から誕生したもの。この「CINEMA PROJECT」発の作品をはじめ、インディーズ映画出身者の中には、今や人気俳優を起用した話題作を手がける注目監督がずらり。彼らの過去作に迫ります。

『カメ止め』で時の人に!上田慎一郎監督『恋する小説家』
恋する小説家
都内2館のミニシアターから異例ともいえる全国“感染”拡大公開、そして興収26億円という大ヒットとなっている『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)。本作で劇場長編デビューを果たした上田監督は、個性豊かなキャスト陣とともにバラエティ番組から報道番組まで引っ張りだこ状態です。2010年、映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成した上田監督は、これまでいくつもの短編映画の秀作を世に送り出しており、“短編のマエストロ”と異名をとるほどの存在。その中から2011年の『恋する小説家』をご紹介します。

一向に芽が出ないミステリー作家志望の岩佐辰夫。OLをしている彼女にコケにされ、新作の原稿もゴミ箱へ。ところがある日、岩佐の前に見知らぬ女子高生が現れます。「あんたの小説を救いにきたの」という彼女は、岩佐がゴミ箱に捨てた新作小説の主人公である女子高生探偵・南川奈緒だったのです!

この奈緒のみならず、事件の被害者など小説の登場人物が次々に現れては「キャラの作り込みが甘い」「設定が浅い」とツッコミを入れまくり。最近ではアメコミヒーローの『デッドプール』などのように、主体性を持った登場人物が物語を動かすメタ的な構造により、シュールな笑いを生み、ラストには『カメ止め』さながらのオチまで。

上田監督は「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに掲げておりますが、従来の手法を独自の味つけで料理し、オリジナルの1品料理を生み出す点は監督の魅力の1つといえるでしょう。新作は、“女子高生版『カメ止め』”と評されている『たまえのスーパーはらわた』。10月21日(土)〜全国順次公開されます。

◆上田慎一郎監督作品 絶賛配信中!!
【3作品セレクトパック】『恋する小説家』『彼女の告白ランキング』『ナポリタン』
『テイク8』は無料配信中!
東京国際映画祭の“立役者”、今泉力哉監督『サッドティー』
サッドティー
東京国際映画祭(TIFF)「日本映画スプラッシュ」部門の常連といえる今泉力哉監督。市井の人のリアルなこじらせ恋愛群像を得意としてキャリアを築いてきた監督は、“恋愛映画の旗手”とも称されます。例年新作を発表していますが、ついに今年の第31回TIFFではコンペティション部門に、ヒロインに岸井ゆきの、共演に成田凌や若葉竜也らを迎えた『愛がなんだ』が出品されることに。

そこで今回紹介するのは、2013年、ENBUゼミナールCINEMA PROJECT第2弾の1本として製作された『サッドティー』(『カメ止め』は第7弾作品)。二股を続けながら、何とかしたいと思い始めている映画監督とそれぞれの彼女。彼の行きつけの喫茶店のアルバイトの女の子とマスター。彼女へのプレゼントを買いに行った古着屋の店員に、ひと目惚れする男。結婚間近の元地下アイドルと、彼女を10年間想い続けるファンなど、男女12人の視点から「ちゃんと好き」ってどういうこと? を観る者に問いかけます。

同作も第26回TIFF「日本映画スプラッシュ」部門に正式出品され、大絶賛を受けました。「好き」という感情、というより、生き物全般の“本能”ともいえる部分について問い続ける今泉監督の世界観は、昨今、乱立気味の少女コミック原作映画とはまた違った示唆に富みます。

元・乃木坂46の深川麻衣と三代目 J Soul Brothersの山下健二郎という人気者を迎えた『パンとバスと2度目のハツコイ』は本年度の国内映画賞に絡んできそうな予感がしますし、2019年に『愛がなんだ』に続いて劇場公開を控える三浦春馬主演アイネクライネナハトムジークは、原作者・伊坂幸太郎からラブコールを受けたそうで、こちらも期待が高まるところです。
こじらせ女たちを描き続ける!大九明子監督『意外と死なない』
意外と死なない
TIFFといえば、昨年の第30回で観客賞を受賞するなど話題をさらったのが、大九明子監督の勝手にふるえてろ。大九監督は、3度目のタッグとなった松岡茉優の魅力を最大限に引き出し、綿矢りさの原作を見事に具現化しました。新垣結衣の初主演映画『恋するマドリ』(07)で長編デビューして以降、商業映画での活躍が著しいですが、実は意外な経歴の持ち主。人気お笑い芸人を有する「人力舎」の養成学校スクールJCA第1期生となり、芸人として活動した後、1997年に開校した「映画美学校」の第1期生となりました。

そのフィクション・コース高等科にて制作された初監督作『意外と死なない』(99)は、自身で主演女優も務めています(億田明子名義)。自他の“痛み”に対して過剰なまでの反応を見せる小学校教師の月子。彼女にとっては、体育のドッチボールや集団予防接種がまるで地獄!? また、ストーカーのごとくつきまとう元カレにも悩まされ、同僚が“授かり婚”することも気になります。そんな彼女が自身の過去と向き合っていくのですが…。

『勝手にふるえてろ』のヨシカにも連なる、時に素直すぎて残酷すぎる暴走&妄想系ヒロインの原形がここにあるかのよう。ちなみに次回作は、黒川芽以に臼田あさ美、田中圭、中村倫也ら出演の『美人が婚活してみたら』で、また新しいこじらせヒロインを目撃できそうです。
『ミスミソウ』の原点がここに!内藤瑛亮監督『牛乳王子』
牛乳王子
現在、第一線で活躍する映画人たちを多数輩出している「映画美学校」。その1人が、鬼才漫画家・古屋兎丸のロングセラーコミックを原作にした『ライチ☆光クラブ』(16)に続き、今年は押切蓮介の代表作を手がけた『ミスミソウ』が絶賛されている内藤瑛亮監督です。特別支援学校の教員をしながら自主映画を制作し、2012年、フィクション・コース第11期高等科修了制作の特別枠であった初長編『先生を流産させる会』は全国公開されるや、大きな話題と論争を呼びました。

初等科修了作品の『牛乳王子』は15分の短編ですが、国内・海外を問わず、数多くの映画祭で上映された監督の原点的作品。同級生にひと目ぼれした加藤真は、ある日、その思いが高じて誰もいない教室であらぬ行為に及びます。それを同級生の女子たちに目撃された加藤は、飛び降り自殺。やがて彼の怨念は殺人鬼「牛乳王子」となって蘇り、女子たちに残虐な復讐を開始するのです…。

壮絶ないじめの果てに両親を亡くし、復讐を決意する『ミスミソウ』でも、真っ白な雪原に飛び散る血や主人公(山田杏奈)の赤いコートのコントラストが印象的でしたが、同作でも殺りくの中に牛乳と鮮血が混じり合います!

次回作は、『乱心』を監督し、『ライチ☆光クラブ』の共同脚本を担当した冨永圭祐ら同期の11期生が中心スタッフとなった『許された子どもたち』。実際に起きたいじめ死亡事件に着想を得た長編自主映画で、『先生を流産させる会』に続く“最凶の教育映画”2時間目と呼ばれ、内藤監督は日本社会が沈黙・放置してきた問題にインディーズとして挑みます。
“イタい”恋愛はお手のもの!? 市井昌秀監督『あの女はやめとけ』
あの女はやめとけ
再びENBUゼミナールに戻りますが、同校で専任講師もされているのが、「CINEMA PROJECT」第1弾『あの女はやめとけ』を手がけた市井昌秀監督。劇団東京乾電池を経てENBUゼミナールへ。初長編作品『隼』(06)、長編2作目『無防備』(09)ともにPFFで高く評価され、特に、妻で女優の今野早苗による実際の出産映像を盛り込んだ『無防備』は第13回釜山映画祭でグランプリに。2013年には“俳優・星野源”を世に知らしめた箱入り息子の恋で商業映画デビューを飾っています。

『あの女はやめとけ』の主人公は、企業のクレーム対応係として毎日顧客にひたすら頭を下げる土居ハジメ。そんな土居の唯一の希望だった婚約者の夕子が、結婚式を1か月後に控えたある日、結婚資金を持ち逃げ! その事実を知った小学校からの悪友・田村と手島は、土居を励ますべく温泉旅行へと誘うのですが、そこには……。

容赦のない女の仕打ちと情けない男たちのイタさがヒシヒシと感じられる同作。『箱入り息子の恋』『僕らのごはんは明日で待ってる』などでも、単なる恋愛映画とはひと味違うイタさが描かれています。現在は新作を鋭意製作中。
『寝ても覚めても』が話題沸騰中! 濱口竜介監督『親密さ』
親密さ
パルム・ドール受賞作『万引き家族』とカンヌ映画祭コンペ部門にそろって出品された『寝ても覚めても』は、濱口竜介監督にとって初の商業映画。今年の釜山映画祭コンペ部門にも出品されています。主演の東田昌大は1人2役に初挑戦しており、事前のワークショップではキャラクターを深掘りする“濱口メソッド”の洗礼を受けたといいます。

東京藝術大学大学院映像研究科で学び、卒業制作の『PASSION』から評価を得ていた濱口監督。30代後半を迎えた4人の女性の心の機微を描き、世界で注目を集めた前作『ハッピーアワー』は317分という大作でしたが、ENBUゼミナールの演技コース修了作品である『親密さ』(12)も255分、4時間超えの長編映画。

「親密さ」という名の演劇を作り上げていく過程を、同棲中の演出家カップルを通して描く前半と、実際の演劇の上演を記録した後半の二部構成で、青山シアターでは後半の劇中演劇によるショートバージョンが配信されています。

古今東西のあらゆる監督が、誰かを大切に思って生きることをそれぞれの視点で、それぞれの手法で追究してきた中、無名の俳優たちが演劇として見せる恋愛群像は、詩の朗読パートもあり、深遠でリアルに満ちた“刺さる”言葉のオンパレード。「親密さ」とは? 「愛する」とは? に思いを巡らせる鑑賞後は、自然と『寝ても覚めても』のラストシーンも浮かんできます。

インディーズで国内外に認められ、メジャー作品に進出すれば、それまで以上に撮りたいものを表現できるようになる場合が多々ありますが、その逆もまた、なきにしもあらず。例えば今回の『カメ止め』は、映画監督で俳優の斎藤工が「邦画の現状・実状をやいのやいのと嘆く前にこの映画を観るべし」と自身のブログで語ったように、双方に一石を投じる何らかの起爆罪となるかもしれません。企画からじっくりと取り組め、ワークショップなどを通じて構築され、創造されるものが付加価値となるインディーズ映画。これを機に、改めて注視してみてはいかがでしょう?

Writer | 上原礼子

情報誌・女性誌等の編集・ライターをへて、現在はWEBを中心にフリーに。1児の母。子ども、ネコ、英国俳優などが弱点。看護師専門誌で映画&DVDコーナーを14年担当し、医療や死生観などにも関心アリ。試写(映画館)忘備録を随時更新中。映画を通じて悲嘆を癒やす【映画でグリーフワーク】を試みています。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA