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社会システムの巨悪に果敢に立ち向かった映画5選

2018.10.31(Wed) | 谷直美

私たちの暮らしと密接している政府・大企業・社会制度といった巨大なシステム。「システム」は便利で私たちを守ってくれるものでありながら、時に自らが意思を持って牙をむき、私たちを支配し、殺すものにさえなってしまう・・・。
こうした社会システムの闇の面に焦点を当てて、世の中に警鐘を鳴らすのも現代の映画が担う重要な役割のひとつとなっています。
個人が強大なシステムに果敢に立ち向かった映画をご紹介します。事実は小説よりも奇なり、なのです。

『華氏119』
華氏119
本年度のトロント映画祭で上映されるやいなや大反響を巻き起こしているマイケル・ムーアの新作。トランプ大統領下のアメリカの現状を通じて、拝金主義極まった資本主義社会システムの理不尽と無慈悲、そして現代のファシズムとは何かに迫ります。

膨大でインパクトのある素材、皮肉の利いた、でもどこかゆるくておバカなアメリカ的ユーモア、率直で心を揺さぶる表現。世の中に優れたドキュメンタリーはたくさんあるけれど、マイケル・ムーアほど「面白い」ドキュメンタリーを作る作家はそうはいないのではないでしょうか。

「メディアを中心としたイメージ戦略で人々に人権や自由を手放させ、不利益を納得させるのが21世紀のファシズム。これに対抗するためには、イメージに騙されずに現実を直視することだ」と語るムーア。
とは言え、右を向いても左を向いても強欲な人々の搾取の狭間にあるという痛ましいアメリカの現実には思わず心が折れそうになるほど。

しかし同時に、作品は何人もの賢く明るい不屈の人々が立ち上がる姿も見せてくれます。アメリカにはどこまでもしぶとくへこたれないカウンターカルチャーの力があるのだと。

真実を広く世界に知らしめることに加え、本作のもうひとつの大切な役割は、この作品が理不尽な権力への力強い挑戦状であるということなのです。

『華氏119』 11.2(金)公開
主演:ドナルド・トランプ
監督・脚本:マイケル・ムーア
字幕監修:池上彰
『スポットライト 世紀のスクープ』
スポットライト
ローマ・カトリック教会にとって今世紀最大のスキャンダルである、聖職者による大量の児童への性的虐待問題。このタブーに果敢に挑み、真実をスクープした「ボストン・グローブ紙」の実話を映画化した作品です。

2015年のアカデミー作品賞と脚本賞を受賞しただけあって、映画作品としての秀逸さが際立ちます。
メインはもちろん端役に至るまで抜かりのない見事なキャスティングや、驚くべき真実が次第に明らかになるさまを記者目線で追体験するスリリングさ、無駄のない構成、粋な名言にぐっと来る脚本のセンスの良さ。満足度高いです。

何と言っても記者たちが格好良い!社会の巨悪に向かって、それぞれの持ち場で持ち味を生かしてまっすぐやるべきことに向かう。
ありえない真実に感情が先走って、もう性急に事を暴き立ててしまいたい。それを我慢して我慢して、丁寧な仕事を秘密裏に積み重ねながら本丸に近づいて行く。
編集長から一記者に至るまでのチームワークの美しさに胸がすく思いがします。

世界のメディアを取り巻く環境が不穏で危険な今だからこそ多くの人に見られてほしい、ジャーナリストに勇気を与え、ジャーナリズムの意義を伝える作品です。
『それでもボクはやってない』
それでもボクはやってない
日本の裁判の有罪率は99.9%。この驚異的な数字は、一度起訴されたら最後、無罪を勝ち取る可能性はほぼないという事実を示しています。
本作は、ひとつの痴漢冤罪事件の発生から起訴〜判決に至るまでを通して、周防監督いわく「映画的嘘をひとつも言わずに」リアルに、日本の司法の驚くべき現実を毅然と描いた作品です。

法廷や留置所など殺風景な場所でのシーンが主となるため、一見地味な映画のようにみえて、留置所内の生活や警察や検事の取り調べ、弁護士との関わり、裁判がどのように進むかといった全てが信じがたいことの連続なので、退屈するヒマなし。
また、異なる立場に置かれた登場人物たちそれぞれの思惑や巡り合わせの集積がひとつの裁判を形作って行くさまには、理不尽でやりきれない思いに深くとらわれてしまいます。

平々凡々と平和な日本に生きているようでも、一度「犯罪者」という疑いがかけられたら、人権も何もない世界に急に放り込まれてしまう。警察に押し付けられた現実を断固拒否したなら、どこまでも権力に痛めつけられる。
平凡な日常のすぐ隣りに落とし穴みたいにこういう世界が広がっている。そんな日本の恐ろしい一面を明らかにした作品です。
『汚れたミルク あるセールスマンの告発』
汚れたミルク
「ノー・マンズ・ランド」でアカデミー賞も獲得した監督ダニス・タノヴィッチの作品ながら、どの国も配給しないために事実上のお蔵入りになっていた問題作。その理由は、本作がパキスタンで実際に起こった事件を取り上げており、それが世界有数のグローバル企業の所業を告発する内容になっているためです。
日本はこの作品が普通に見られる数少ない国です。

ボスニア・ヘルツェゴビナ生まれの元戦場ジャーナリストであり、社会的メッセージの強い骨太な作品を作り続けているダニス・タノヴィッチ。
この作品では、「ふたつの悪」のありようをごまかしたりぼやかしたりすることなくリアルに伝えています。

ひとつはシステムの悪。自社製品を売り上げるためには脅迫やスパイや買収も辞さない、さながらマフィアのようなグローバル企業の恐ろしいやり口に戦慄します。
システムに「心」は存在しない。自分たちが儲けることが何よりも優先される。人の命も、平和も全て儲ける事の下に置かれる。
システムに倫理観など求めるべくもないという現実を改めて痛感させられます。

もうひとつの悪は、人間の持つ平凡で当たり前の感情——恐怖、我が身可愛さ、お金や物がほしいという気持ち。それらのために目をつぶり、口をつぐみ、知らなかったことにする。
分かりやすい残虐さや邪悪さだけが悪ではなく、傍観や黙認が赤ん坊をも殺すのだ、ということを映画は伝えています。
『シチズンフォー スノーデンの暴露』
シチズンフォー スノーデンの暴露
エドワード・スノーデンは、おそらく世界でもっとも有名な「内部告発者」でしょう。
元CIA職員のスノーデンによるアメリカ政府が世界中の膨大な個人情報を秘密裏に収集していたという事実は、世界をひっくり返すようなスキャンダルであり、文字通り世界中に衝撃を与えました。

決定的な証拠を手にして香港に潜伏していたスノーデンと本作の監督ローラ・ポイトラスが接触を開始する時点から始まる全ての同時進行的な記録の中で次々に明かされる途方もないスケールの国家的犯罪行為に、ひたすら驚愕し続ける2時間。

作品が噛んで含めるように繰り返し伝えている事は、「国家に個人情報を握られることで、何が失われ、何が引き起こされるのか。まやかしの安全と平和と引き換えに、私たちはシステムに何を差し出しているのか?」ということ。

作品を見る前と見た後では、ちょっと世界の見え方が変わってしまうかもしれません。

2009年にエルサレム賞を受賞した際に小説家の村上春樹がスピーチで語ったのは、まさに「システム(=壁)」と「個人(=卵)」のことでした。
『高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ。
どんなに壁が正しかろうと、どんなに卵が間違っていようと、私の立ち位置は常に卵の側にあります。(中略)どんな理由があるにせよ、もし壁の側に立って書く作家がいたとしたら、その仕事にどんな価値があるというのでしょう。』

今回紹介した作品はいずれも誠実に卵の側に立った映画です。
映画に勇気をもらって多くの人が後に続くことを願い、映画の作り手たちはリスクを負って作品を作り続けているのです。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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