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映画は世界を知る窓。遠い異国を描いた映画5選

2018.11.21(Wed) | 谷直美

どんな教科書よりも、1本の映画ほど舞台となった国の歴史や文化的背景などをまるごと体感的に知ることができるものはないと思います。
旅するように楽しみながら、同時に多くを学べる遠い異国の映画たちをご紹介します。

古い因習を拒絶する美しい5姉妹『裸足の季節』〈トルコ〉
裸足の季節
若者の現代的な価値観と年輩者の男尊女卑的・封建的な価値観のギャップによるひずみを抱えたトルコの「今」を描いた作品です。

背徳的なまでに美しい5人姉妹。すらりと伸びた細い足と風に大きくたなびく長い髪が瑞々しい。
しかし、彼女らの美しさそのものが罪かのように、しつけと称したヒステリックな抑圧を周囲の大人たちは繰り返します。

トルコ式の儀式によって、ひとりまたひとりとほんの数分の見合いによって顔も知らぬ相手に全く自由意志なく嫁がされていくさまは驚くばかりで、伝統の名のもとに古い因習の奴隷になれと迫るトルコ社会の理不尽さに怒りを通り越して恐ろしさを感じてしまいます。

北トルコの平和な田園風景と、監獄のような家に閉じ込められた少女たちの運命が対照的。 因習に従って自由を諦めた姉と絶望して自ら命を絶った姉を見て、敢然と立ち上がった末娘に心からのエールを送りたくなります。
近代化の狭間でいかに生きるか『馬を放つ』〈キルギス〉
馬を放つ
キルギスは、中央アジアに位置する標高5000mの草原の国。
キルギス人の顔立ちはアジア的で日本人とも似ており、どことなく親しみを感じます。
元々は遊牧民だった人々が、近代化するに従って定住するようになり、人々の生き方や心にも大きな変化をもたらしていることがこの作品の背景にあります。

近代化の狭間に苦しみ、人生を失っていくひとりの誠実で不器用な男の物語。シンプルなストーリーの中に、複雑なキルギスの歴史や文化の現実がさりげなく散りばめられており、資本主義が生む貧富の差や、政治的に翻弄されるがゆえの異宗教や異文化の流入がキルギス人の暮らしをじりじりと浸食していくさまを肌身に感じます。

近代化によって得たものと失われたもの。目には見えない、民族の誇りや美徳。
キルギスだけの問題ではなく、急激に変わりゆく価値観の中でいかに自分を見失わずに生きるかという、誰にとっても難しい問いを突きつけている作品です。
音楽が未来を紡ぐ『ストリート・オーケストラ』〈ブラジル〉
ストリート・オーケストラ
ブラジル・サンパウロのファベーラ(スラム街)に実在する少年少女のための楽団「エリオポリス交響楽団」の実話を映画化した作品。

生徒役はファベーラで暮らす子どもたちをオーディションで選び、撮影もファベーラで行い、地域の住民もエキストラで協力しているので、とてもリアルなブラジルの日常が感じられます。

サムエル少年が警官に射殺されたことをきっかけに起こる住民の暴動シーンも実際の事件がもとになっており、実際にこの事件を体験した人々がエキストラとして演じているため、鬼気迫るシーンになっています。

ありがちな「生徒と先生の成長と絆の物語」だけではありません。
負の連鎖の中にある人々にとって音楽を真剣に学び、楽器を奏でることがどれほど大きな喜びと救いになるのか、音楽そのものの力が大事に描かれています。

クラシックもブラジルのポップミュージックも垣根なく、体ごと大らかに音楽を受け止めるさまがブラジル人気質を感じさせ、ブラジルならではの音楽映画としても魅力ある作品になっています。
圧倒的な自然と共に生きるということ『ひつじ村の兄弟』〈アイスランド〉
ひつじ村の兄弟
イギリスとグリーンランドの中間にぽっかりと浮かぶ島、アイスランドの物語。その名の通り氷の国で、厳しく美しい自然の中で生きる人々の暮らしを描いた作品です。

アイスランドのさいはての村で牧羊を営んで生きる人々は、家族のように羊を愛し、素朴で控えめ、そしていささか頑固な人たち。
主人公は40年もいがみ合っている羊飼いの老兄弟。羊の毛で編んだ伝統柄のセーターを着込み、ふわふわでもふもふの髪やひげを生やしていて、彼らもどこか羊っぽい。

アイスランドは世界有数の福祉国家ではあるけれど、圧倒的に厳しい自然が人々の生き方の大部分をいやおうなく決めてしまう。
人間は自然の前にはなすすべないちっぽけな存在で、だからこそ人々は一神教の神を心の拠りどころに慎ましく生きています。

人間レベルの解決や理解を拒むエンディングは、自然をあなどってあらゆることを世俗レベルで解釈する都会の人間にとっては唐突に思えるかもしれないけれど、底知れぬ大きなものと共に生きているアイスランドの物語においてはむしろ自然なことのように感じられます。
世界のどこかにいる人々を思う『鉄くず拾いの物語』〈ボスニア・ヘルツェゴビナ〉
鉄くず拾いの物語
ボスニア・ヘルツェゴビナの貧しい村を舞台に、極貧のロマ(ジプシー)の一家に実際に起こった痛ましい出来事を、ダニス・タノヴィッチが静かな怒りをもって映画化した作品です。

なんとこの作品に出演している人はみな実際の当事者でロケ地も実際の場所。本人役でないのは医者を演じた2人だけ。「金がないなら死にそうでも助けてやらない」と言った無慈悲な医者は、さすがに本人役での出演はできないでしょう。

たった9日間の撮影で、手持ちカメラで脚本もなく、主人公ナジフへの聞き取りをもとに編まれた本作。
彼らがどのように時間を過ごしているのか、何をどのように食べ、どのように歩くのか。雪の中で、薄着で手をかじかませながら薪を割る。映画は日常の何気ない仕草をじっくりと見せます。
遠い世界のどこかで、このようにして日々を這うように生きている人が確かにいるのだと思うと何ともいえない気持ちになります。

先の見えない貧困の日々は、ひたすらに重苦しく、もの悲しいけれど、不屈の怒りと弱者への愛のこもった監督のまなざしが貫かれています。

映画は世界を知る窓。遠い異国の物語に身をゆだね、新たな視座を発見する。そんな知的で刺激的な体験ができるのも、映画の楽しみのひとつです。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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