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監督によるオリジナル脚本の名作5選【邦画編】

2019.01.09(Wed) | 谷直美

マンガや小説などを原作とするいわゆる原作ものや、「奇跡の実話」の映画化が目立って多い昨今ですが、監督自身が物語を生み出し、自らがメガホンを取った作品には、原作ものにはない魅力があります。オリジナル脚本にこだわる監督作品から優れた名作を集めました。

『永い言い訳』 西川美和監督・脚本
永い言い訳
優れた文筆家でもある西川監督の作品世界は、古い日本の私小説のよう。
モダンでスタイリッシュな映像感覚を持つ一方で、どこか湿気っぽく瑞々しい空気感や仄暗さは懐かしい日本の原風景を想起させます。

作品テーマも私小説的で、ほのめかすような感情表現によって人間のエゴをどこまでも掘り下げていくスタイルが貫かれています。
西川監督のまなざしには、人間のぞっとするような醜く怖い部分から目を逸らさない冷徹さと、同時にちっぽけでみじめな人間の中にある、きらりと小さく光る美しさを見出す骨太な温かさが同居しています。
微妙な心理の動きを丁寧に積み上げた脚本力が西川作品の核になっています。

本木雅弘が演じた本作の主人公は、これまでで最も監督自身を投影して描かれたキャラクターだったそう。まさにエゴにまみれ、のたうち回る人物の物語。浅はかな世の中の価値観に浮き足立ち、未成熟なまま中年に差し掛かってしまった男が人生から復讐をされる。
「自分が本当はどう生きたいのか。大切なものは何か」という本質的な問いをおざなりにしたまま生きてきたことへの深い後悔。そして余計なものを全て取り払って自分の本心に出合ったことが何にも代え難くその人を充たすさまに胸打たれます。
『鍵泥棒のメソッド』 内田けんじ監督・脚本
鍵泥棒のメソッド
内田作品の魅力は、何といっても幾重にも伏線が張り巡らされた、用意周到で質の高いプロット。徹底的に作り込んだギミック的なお話ながら、結果的には子供から大人まで誰もが単純に面白くて笑える王道のエンターテインメント映画に仕上がっています。

監督4作目となる本作も、際立って優れた脚本が高く評価され、多くの映画賞を受賞したほか、舞台化されたり韓国映画にリメイクされたりしています。
緻密で抜かりのない完全犯罪のはずが、「記憶」や「意味不明だがゆずれない独自のこだわり」といった問答無用のバカっぽい要素によってなし崩し的にカオス化していくさまがコメディとして最高に笑えてスリリング。
ラストで底引き網漁のごとく一気に伏線を回収していく切れ味の見事さは爽快そのもの。

二度三度見ると新たな発見や答え合わせができて、毎回違った面白さを味わえるのも内田作品の魅力。
西川監督以上に寡作な内田監督。新作が待ち遠しすぎます!
『モリのいる場所』 沖田修一監督・脚本
モリのいる場所
沖田監督の紡ぐ物語には、人間世界を可愛らしいユーモアをもって描くだけでなく、立派で優れている部分よりは、むしろ恥ずかしく格好悪い部分に人の愛おしさを見出すまなざしがあります。
涙しながらも声を出して笑ってしまう、そんな素敵なシーンを届けてくれる素晴らしい作り手のひとりだと思います。
彼の作品を見終わった後は「なんだかしまらないんだけど、人間ってかわいい。生きるってそんなに悪いものでもないかも」というぽかぽかとした気持ちに包まれます。

本作は晩年を自宅の小さな庭から一歩も出ず、しかし賑やかで幸せな余生を送った伝説の日本画家・熊谷守一とその妻をモデルに、沖田監督が彼らの「ある一日」を描いたオリジナル作品です。山崎努と樹木希林演じる老夫婦のたたずまいは、しみじみとした安らぎと可笑しみを見る者に感じさせます。

端役に至るまで役者が皆カラフルで生き生きして感じられるのも沖田作品の魅力のひとつ。役者たちが自身の魅力や面白さをのびのび表現しているのは、彼の作品には良い意味で隙があるというか、うまさや完成度だけにとらわれず、予想外の面白さを引き出したいという遊び心があるゆえではないでしょうか。

どの作品にも共通するのは、人間に妙な上下をつけない、人間を善人と悪人に分けない、人が人をジャッジしないという姿勢。何よりも、沖田作品の根本にあるそのフラットさが好きです。
『ステキな金縛り』 三谷幸喜監督・脚本
ステキな金縛り
もともと演劇からキャリアをスタートしただけに、密室劇の設定や、対話の駆け引き、すれ違いが笑いやドラマを生む会話劇の要素、起伏のあるストーリー展開を持つ練られた脚本が見事な三谷監督の作品。

三谷作品の魅力は多々あれど、何をおいても老若男女誰もが難しいこと抜きに笑って楽しめるコメディを届けてくれること、そのものだと思います。
主役級の役者が名を連ねるオールスターキャストの競演も紅白歌合戦みたいで楽しい。
それも登場人物全てを緻密に設定し、それぞれに見せ場を作る舞台作家ならではのスタンスが脚本に生かされているからでしょう。

本作が公開された2011年は東日本大震災があった年で、日本中がつらく苦しい時期でした。そんな時にこの作品を見て、劇場は何度も爆笑に包まれ、ひととき笑ってほろりとして、感謝の気持ちで劇場を後にしたことを思い出します。

三谷作品の笑いは、ビリー・ワイルダーやウディ・アレンといった欧米のコメディやシットコムに強い影響を受けているだけに、いわゆる日本のパワーゲーム的なお笑いとは性質を異にします。知的なギミックと人物の天然ぶりの滑稽さから生まれる、誰も嫌な気持ちにならない可愛らしい愉快な笑いが持ち味。
これからも王道のエンターテインメントを心待ちにしています。
『誰も知らない』 是枝裕和監督・脚本・編集・製作
誰も知らない
2018年のカンヌ映画祭で「万引き家族」がパルムドール(最高賞)を受賞し、今や日本映画界を代表する存在となった是枝監督。
近年は多作で幅広い作品を手がけていますが、元々テレビドキュメンタリーのディレクター出身。社会の片隅に生きる人々のパーソナルな営みを社会性のある視点を通して描く作風が是枝作品の本領といえるでしょう。

本作は1988年に東京・巣鴨で起こった児童置き去り事件をモチーフに作られたフィクション作品。ドキュメンタリータッチの生活感溢れる生々しい映像と、演技を感じさせない子どもたちの自然なたたずまいがあまりにリアルで胸が苦しくなるほど。是枝監督による幼い子供たちへの演出は目を見張るものがあります。

是枝作品に共通するのは、何か問題が起こった時にとかく「誰が悪い」「こうに違いない」といったステレオタイプでものごとが語られがちだけれど、単純化した多数意見を安易に採用しないという姿勢。
立ち止まって自分の目で見て、感じて、考えて判断するというじっくりとしたプロセスを観客と共有したいという意図が作品から感じられます。

真実はひとつではなく、世界は手に余るほどやるせなく複雑で、時にはどうしても割り切れないものをグレーのまま抱きしめて進んでいくしかないのが人生だ。
是枝監督の作品は、決まってそんな苦い後味を見る者に残します。
安易で単純なカタルシスを拒む「大人」の態度を示す、貴重な作り手のひとりだと思います。

監督がトータルクリエイティブコントロールするからこそ、一貫した世界観を堪能できる。そんな監督オリジナル脚本映画の醍醐味をぜひ感じてみて。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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