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『サスペリア』をさらに楽しめる予習・復習映画

2019.01.17(Thu) | 仲谷暢之

昨年公開され話題を呼んだ「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督が、次作として選んだのはホラー。
しかも自身が子どもの頃多大なる影響を受けた「サスペリア(1977)」を大胆にリメイク。
ということで、今回は2019年版「サスペリア」を見るにあたっての予習復習映画を取り上げます。

オリジナル版『サスペリア(1977)』
サスペリア1977
「サスペリアPART2」「インフェルノ」「フェノミナ」など数々のサスペンスやホラーを発表し続けているイタリアの鬼才ダリオ・アルジェント監督の、日本で最初に公開されたのが「サスペリア」。
当時、小学校低学年だった僕にとって「悪魔のいけにえ」「オーメン」と並ぶ三大トラウマホラーのトップに君臨する作品でした。バラエティ番組の映画コーナーで今は亡き映画評論家の水野晴郎さんが紹介していたのがこの映画で、予告編を見た時のその衝撃たるや。
怖いのはわかっているけれど、どうしても見たくて親にお願いしましたが、当然却下。仕方がないのでポスターを模写したり、「スクリーン」という映画雑誌を購入して記事をあれこれ読んでは想像や妄想したり、学校で同じく今作に魅了された友だちと勝手に「サスペリア」ごっこをしたり(図工道具の絵の具の赤を、血糊がわりにして口から吐いたりして殺される場面を再現するという、今では大問題になってたかもという遊び)。さらに僕らを煽ったのが「決してひとりでは見ないでください」というリメイク版でも使われているコピー(ちなみにこのコピーを作った人は未だ不明だそう)。ザ・ドリフターズの番組でも志村けんがこのコピーを言いながらギャグをしていたり・・・それぐらいこの映画に対する世間の認知度は凄かったはず。でもって、実際に自分がこの映画を見たのは数年後、テレビでオンエアの時。

ニューヨークからドイツの名門バレエ寄宿学校に入学しにきたスージー・バニオン。
大雨降る夜、学校に到着するといきなり扉が開き、中から女性が何やら叫び、飛び出し逃げ去っていくのを目撃。
不審に思いつつも学校に入れてもらおうとするもなぜか拒否られ、諦めてホテルへ。
翌日出直すと、学校では昨夜逃げ去った生徒が殺されたことを知り驚くスージー。気を取り直してさっそくレッスンを受けたものの、急に気分が悪くなり倒れてしまう。そこから彼女の周りで不審なことが次々と起こるように・・・。

長年我慢してきたゆえの期待感で満ち溢れながらテレビのオンエアを見たけれど、ストーリーうんぬんよりも魅了されたのが全編に散りばめられている原色の美術や照明。

スージーが到着した空港の雰囲気、そしてタクシーで乗りつけたバレエ学校の外壁、最初の犠牲者が訪れる友人のアパート、そして学校のロビーのアール・デコな内装、寮の廊下、レッスンルーム、副校長の部屋、重要な場所で登場する孔雀のオブジェなどなど、いちいち美術や照明のエッジが効いていました。

さらにそんな原色の渦の中で展開される女性の殺され方!窓をのぞいていると、突然毛むくじゃらの手が飛び出し、女性の顔をガラスに押し付ける、心臓が見えるくらいめった刺しをする(当時はCGはなく特殊メーキャップの知識などなかったので、テレビで見た時、どうやって撮ってるんだろうって心底驚き、怖がりました)、天井のステンドガラスから首吊られて落ちてくる、なんだかわからない針金に巻きつかれてしまうなどあまりにも突飛すぎ、ダリオ・アルジェント監督って凄いなぁと以後、他の映画も貪るように見るようになりました。

スージー・バニオンを演じたのはジェシカ・ハーパー。グァダニーノ監督版の「サスペリア」にも重要な役で特別出演していますが、他にも後に、知って驚いたのがキャロル・リード監督でオーソン・ウェルズ主演の「第三の男」やルキノ・ヴィスコンティ監督の「夏の嵐」や昨年初DVD化されたかくも長き不在ベルナルド・ベルトルッチ監督の「暗殺のオペラ」と映画史的にも重要な作品で名作揃いの作品に主演しているアリダ・ヴァリが主任教師、ミス・タナーとしてそれまでとは全く違う、強烈なインパクトの怪演をし、他にも「若草物語」や「メトロポリス」などのフリッツ・ラング監督の作品に多く出ていたジョーン・ベネット、カルト映画の常連ウド・キアと映画好きにはたまらない方が出ているのも魅力。
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
Pina
今回の「サスペリア」で大きく変わったといえば、オリジナル版でバレエだったのがコンテンポラリーをメインとしたダンスになったこと。フランス系ベルギー人のダンサー兼振付師、ダミアン・ジャレを迎え、前作とは全く違う世界を生み出しているのだけど、その時にリスペクトしたのが2009年に亡くなったドイツの振付家、ピナ・バウシュ。
「ウッバタール舞踊団」を主宰し、ダンスと演劇を融合したそれまでなかった斬新なスタイルの作品を生み出して、世界中でその名前を轟かせ、日本でも熱狂的な支持を得ていたコンテンポラリーダンスの革命者であり、創造者。そんな彼女と交流のあった「パリ・テキサス」「ベルリン/天使の詩」などの巨匠、ヴィム・ベンダース監督がピナとその舞踊団の作品を映像に捉えたいと思って準備を進めていたものの、結局、彼女が2009年に亡くなったことで頓挫しかけた(撮影する2日前に死去!)のを、舞踊団の面々の声、そして3D技術での再現によって改めて映像に収め、完成したのが今作。

彼女がクリエイトした中で代表作とも言える「春の祭典」「カフェ・ミュラー」「コンタクトホーフ」「フルムーン」の4作を映画用に改めて撮影。しかも劇場の舞台だけでなく、工場や岩場、森、交差点、モノレールなど野外でのパフォーマンスも収録され改めてピナ・バウシュの作り出したコンテポラリーダンスの面白さ、奥深さ、美術、今も全く古さを感じない斬新さを堪能できます(3Dで見ることできないのが残念、でもその迫力は十分に伝わります)。

個人的にはカフェを舞台に、イスが散りばめられ、その中で踊る男女たちの姿を描いた「カフェ・ミュラー」が素晴らしかった。

そんな姿は、公開される「サスペリア」にも通ずるところがあり、テキストとしては最適。しかもティルダ・スウィントン演じるマダム・ブランのルックスなど、ピナ・バウシュとクリソツ!
『HOUSE』
HOUSE
1977年版「サスペリア」の約一ヶ月後に公開されたのが「ねらわれた学園」や「時をかける少女」、青山シアターでも見ることができる「その日のまえに」などの名匠、大林宣彦監督の劇場デビュー作「HOUSE/ハウス」。作品同士の直接的な関係はないながらも、奇しくも「サスペリア」同様に、うら若き女性たちが次々と殺される和製ホラーとして、「サスペリア」とともに当時話題になった作品。
残念ながら「サスペリア」はお願いしても見に行くことは叶わなかったけれど、こちらは父親にお願いするとなぜか連れて行ってもらえた映画(おそらく、同時上映の山口百恵と三浦友和の映画があったからOK出たのかも)。

お嬢様学校に通う仲良し7人グループが、ひょんなことから池上季実子扮する主人公オシャレの叔母の家に合宿することになったものの、その家でおかしなことが次々と起こり、一人、また一人と殺される。その家に隠された秘密とは?叔母様の正体とは?というお話。

見終わった後、父親が「なんやこの映画」と言ってたのを忘れないほど、僕も子ども心に“ヘンな映画”だなぁって思った作品。なんとも言えないチープさと面白さが共存した殺され方が、記憶にこびりついています。
だって、ピアノや布団、照明器具などまさしく家に食べられていくというのをアニメや合成などを駆使して表現しているのだけど、あまりにも斬新すぎてちょっと置いてけぼり。しかも全体的にデタラメでドタバタのコメディタッチだったというのも戸惑わせ、ヘンな映画と思わせた要因だと思います。

今回改めて見直してみると、実に早すぎた作品だったんだなぁと。のちにアイドル映画とホラー、コメディが融合した作品というのは数多く作られたけれど、ある意味、この作品が原点だったんじゃないかなと。

大林監督って作品の中で若い女性を脱がせることが定番になってるんですが(鷲尾いさ子や小林聡美、宮崎あおいまで!)、その原点はこれ。まだデビューしてたての池上季実子や松原愛もしっかり脱いでてちょっとびっくりで、今の時代を思うといろんな意味で新鮮でもあります。

そんな「HOUSE/ハウス」を1977年版「サスペリア」と併せてみると、あえて詳しくは書かないけれど、殺され方や設定が、偶然にも共通する部分があって面白い。ネットの時代ならなんとなく影響されたんじゃないかなと思うんですが、この時期にイタリアと日本でうらすごい殺され方でうら若き女性たちが殺されるホラーが作られ、公開されたのは面白いなぁと思います。
『サスペリア』 2019年1月25日(金)全国ロードショー
サスペリア
前作のオリジナリティあふれる作品をルカ・グァダニーノ監督は、リメイクというよりもリイマジネーションしたと言った方がしっくりくる「サスペリア」を完成させました。

バーダー・マインホフと呼ばれた極左集団であり、テロリスト集団だったドイツ赤軍の、のちに「ドイツの秋」と呼ばれる過激な事件に揺れるベルリンを舞台に、第一幕「1977年」、第2幕「涙の宮殿」、第3幕「借り物、第4幕「取り込み」、第5幕「マザーの部屋で(全てのフロアは暗闇)」、第6幕「嘆き」、エピローグ「薄く切られた梨」の、それぞれ意味深なタイトルがつけられた6幕とエピローグで構成された、ホラー映画としては珍しい153分の長尺。が、グイグイと引き込まれるのはグァダニーノ監督の演出の賜物だと思います。

トップダンサーへの夢を叶えるためにアメリカからやってきたスージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)。ベルリンを拠点に世界中で活動する“マルコス・ダンス・カンパニー”でオーディションを受け、天才的な才能を発揮。舞踊団を率いるコレオグラファー、マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)の目に留まり入団を許されることに。
一方、数日前より主要ダンサーの一人、パトリシアが謎の失踪を遂げており、さらに失踪の直前に以前より受診していた心理療法士のヨーゼフ・クレンペラー博士に助けを求めていた。彼女が言うには、舞踊団は実は悪の巣窟であると。しかし博士は妄想だと分析しますが・・・。

マダム・ブランはスージーの才能を見抜き、これまで以上に彼女に熱心に稽古をつけ、関係はより親密に。次回公演の舞踊団の代表作である「民族」のリード・ダンサーに抜擢しますが、その座を奪われたオルガはマダム・ブランに罵声を浴びせかけるとスタジオから飛び出し、またも失踪してしまいます。
それでも公演はやってきます。当日、スタジオには多くの観客が集まり、クレンペラー博士の姿も。公演時間が迫るもスージーと仲良くしていたサラの姿が見当たらず、とうとう彼女抜きで始まることに。官能的なメイクと衣装を身につけたダンサーたちは、センセーショナルな演目「民族」のパフォーマンスを繰り広げるのですが、それはある儀式を意味していたのでした・・・。

第一幕でのクレンペラー博士とパトリシア(扮するは「キック・アス」や「キャリー」のクロエ・グレース・モレッツ!」)とのやりとりのシーンの細かいカット割り、そしてユングやフリーメイソンの暗喩、「母はあらゆる者の代わりになれる存在であるが、何者も母の代わりにはなれない」という額縁刺繍の言葉、窓やガラス、鏡を通したカメラの視線、頻繁に吸われているタバコの時代性、シュールレアリズムを彷彿とさせる悪夢のインサートはただただ見る側にとって不安と潜在的な恐怖、混沌を植え付けることに成功していて、ダリオ・アルジェント監督とはまた違う、アプローチで魅了してくれる。
さらに、前作では受け身的存在だったスージーが、今作ではある意味、攻めの立場として変化しているのも新しい。そこはバレエとは違うコンテンポラリーダンスの持つ特色の影響もあると思います。

ちなみにマダム・ブラン演じるティルダ・スウィントンは今作では他にも2役も(どの役とは書かないですが)演じており、それぞれ本人が言われなければわからないほど。そういや、彼女、サリーポッター監督の「オルランド」では途中で男性から女性に変わる役を演じていたり、「ナルニア国物語」シリーズでは白い魔女、ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブタペスト・ホテル」では老婆、マーベルシリーズの「ドクター・ストレンジ」では荒くたい言い方をすれば“お坊さん”と意外なコスプレキャラを楽しむ女優さん。今作でも貪欲なまでの計3役を演じています。

全編に散りばめられたキーワード、さらに前作の「サスペリア」以上の衝撃的な女性の殺され方も相まって、何度も見たくなるような中毒性のあるホラーとなっている今作。ぜひ1977年版サスペリア」「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」「HOUSE/ハウスと併せてぜひそのめくるめく世界を堪能して欲しいです。

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

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