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違うことって素晴らしい!人種の違うふたりの思いがけない”呉越同舟”映画5選

2019.02.20(Wed) | 谷直美

人種間のギャップや軋轢をドラマやコメディに仕立てて楽しく見せてくれる作品は、「分断の時代」の今だからこそより大きな価値を持つのではないでしょうか。
笑って泣いてびっくりしながら、人間について深く知ることのできる映画をご紹介します。

『グリーンブック』
グリーンブック
2019年のアカデミー賞に5部門(作品賞・主演男優賞・助演男優賞・脚本賞・編集賞)がノミネートされている話題作。

グリーン・ブックとは、1930年代から1960年代にかけて出版されていた黒人専用の旅行ガイドブックのこと。
黒人隔離政策下のアメリカ南部各州では、黒人が長距離移動する際には危険や不自由がともなったため、彼らが安心して利用できる施設の情報が不可欠だったのです。

人種差別の激しさを知りながらあえてアメリカ南部の演奏ツアーを敢行したのはインテリの天才黒人ピアニスト。彼にドライバーとして雇われたのは黒人嫌いの白人で、粗野なイタリア系用心棒。
人種も住む世界も全く異なる二人が同じ車に乗り合わせて旅する日々は、互いに驚きと発見の連続。

主演二人が魅力的なこと。マハーシャラ・アリの浮世離れしたエレガントぶり、デンマーク系のヴィゴ・モーテンセンはイタリア系のチンピラに見事に化けています。
過激でおバカなコメディが持ち味のピーター・ファレリー監督だけに、二人のかみ合わなさを吹き出すほど面白く描く一方、人種差別という重いテーマに真正面から向き合っています。

はじめは互いにレッテルを通して相手を見ていたのが、共に日常を過ごす中で、次第に人種を超えた「その人なりに色々ある人生を生きてきた、ただひとりの人」になっていく。
人間を人種や国籍でひとかたまりにカテゴライズする視点から離れて「ただのその人」として関わった時、人はどうしても人に優しくなってしまう生き物なんだということを、温かいユーモアに乗せて感じさせてくれる作品です。

映画『グリーンブック』
2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
ビッグシック
シカゴを舞台に、コメディアンを目指して武者修行を続ける、厳格なパキスタン人家庭に育った青年と、白人アメリカ人女性の「異文化結婚」の実話を基にした恋愛コメディ。
主演を演じるクメイル・ナンジアニは実話の本人。脚本家の妻と共に脚本も担当しています。

現代における人種間の問題がてんこ盛りなんだけれど「何といっても実話」の説得力で、気負わず軽やかな語り口の作品に仕上がっています。

両親は移民、しかし人生の大半をアメリカで過ごしてきた主人公クメイルにとっては、家族が押し付けてくる様々な民族の慣習は違和感でしかない。
問題にきちんと向き合わず、のらりくらりとごまかしながらやってきたツケを払うように、白人の恋人エミリーと破局。さらに彼女が原因不明の難病で昏睡状態に陥り、煮え切らないクメイルも強固な壁にいよいよ本気で立ち向かわざるを得なくなる。

映画が伝えているのは、声高な正義や倫理観や過剰な配慮は必要なくて、ただあなたの身の回りにいる好きな人たちを普通に大事に思いやればいいんだよ、ということ。

「ビッグ・シック」とはエミリーの病気のことだけでなく、人種による偏見や民族のアイデンティティーに縛られている全ての人たちのことなのだということに気付かされます。
『最強のふたり』
最強のふたり
今ではスター俳優のオマール・シーですが、当時はまだあまり知られておらず、障害者介護の話でフランス映画。メジャー要素が少なかったにも関わらず、フランスのみならず日本でも公開当時大ヒットを記録した作品です。

事故で首から下が麻痺した富豪フィリップと、彼が住み込みの介護人として雇ったアフリカ系移民ドリスとの友情を描いた実話ベースの物語。
「かわいそうな」障害者であるところのフィリップを、ドリスが変な気遣いや同情一切抜きにして、容赦なくからかいまくるさまは、不愉快どころか胸がすくような爽快さ。そこには差別の心がないから。
そして誰よりもフィリップ自身がそのように扱われることを求めていたのだから。

彼らが持つもの、持たざるものは面白いように食い違っていて、金も地位も教養もあるフィリップは、貧しい黒人のドリスの持つ若さと自由と健康はどれだけお金を払っても手に入れる事はできない。
太陽みたいに明るいドリスの存在は、人生に絶望していたフィリップにとって希望を見出す導き手になるのと同時に、彼が決して得られぬものを残酷なまでに突きつける存在でもある。その陰影も丁寧に描き、きれいごとでない清々しい作品になっています。
『最高の花婿』
最高の花婿
移民の時代を生きるヨーロッパにあって、異人種との共存は身近で切実な問題。そんなお国事情を抱えるフランスにおいて、「違いを超えてみんな仲良く生きるには?」というシリアスな命題を国際結婚というモチーフに託して、コメディ仕立てで描いた作品です。

ロワール地方に暮らす裕福な夫妻の4人娘のうち3人が異なる移民系(アラブ人・ユダヤ人・中国人)と結婚。婿たちの文化や慣習がそれぞれあまりに違うので、衝突が絶えず一家は常にぎくしゃく。気を遣いすぎてみんなヘトヘト。
そこにきて、夫妻にとって最後の希望だった四女の結婚相手はなんとコートジボアール人だった!

極端なシチュエーションを含めていささかリアリティーに欠けるところは否めなくも、重く捉えがちな移民・人種差別の問題をここまで明るくあっけらかんと描いた姿勢に拍手。
一家のどたばたを通じて、「人種に対してのステレオタイプな決めつけ」や、「余計な気遣いのために本音で向き合わないこと」が家族のいさかいを生んでいることを浮き彫りにしています。

奥歯にものが挟まったような嘘っぽい物言いをかなぐり捨てて、正直な気持ちでぶつかり合いたい!そんな人々の気持ちを代弁したことで、多くの共感を得てヒットした作品です。
『栄光のランナー /1936ベルリン』
栄光のランナー
1936年のベルリンオリンピックで史上初の4つの金メダル獲得という偉業を達成したアメリカの黒人陸上競技選手、ジェシー・オーエンスの伝記映画。
貧しくも天才的な走りの才能を持つ黒人青年ジェシーが、様々な思惑を持つ人々の狭間で揺れ、幾重にも引き裂かれ、重圧を背負いながらいかにして偉業を成し遂げたのかが描かれています。

当時はアメリカ国内においては黒人差別が公然と行われ、ナチスドイツによる人種差別政策・ユダヤ人排斥も激しさを増していた頃。ベルリンオリンピックは「アーリア人(白色人種)の優秀性とナチスの権力を世界中に見せつけるため」のあからさまなプロパガンダの大会でした。

映像や音楽の力が効果的に駆使され、オリンピック当時のドイツの狂った時代の空気感が恐ろしさをもって再現されています。こんな異様な雰囲気の中で彼は戦ったのか、ということに見る者は圧倒されることでしょう。

当時のアメリカの激しい人種差別の環境の中で、白人コーチスナイダーとジェシーとの信頼関係が次第に育まれていく過程も重要なドラマの一要素ながら、本作のハイライトはナチスの威信を背負ったドイツ人陸上選手カール・“ルッツ”ロングとジェシーとのスポーツマンシップ溢れる友情。

「レースの間だけは、人種や国籍といった全ての足かせから自由になる。早いか遅いかしかない」。
ジェシーのこの言葉は、彼の苦悩の深さとそれゆえの走ることへの喜びが凝縮されています。

取り上げた5作品中4作品が実話ベースの作品になっています。人種差別の問題はあまりに理不尽で信じがたいことが多いだけに、正面から受け止めるには「これは実際にあったことだ」という強い説得力が必要とされるからかもしれません。 また、あえてユーモアたっぷりに描かれている作品が多いのも特徴。シリアスで難しいテーマだからこそ、笑いが大きな力を発揮する。エンターテインメントの素晴らしさを改めて感じさせます。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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