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危うくて瑞々しい。 映画が映す心震える人間ドラマ5選

2019.05.22(Wed) | 足立美由紀

人間ドラマを観た後に、登場人物たちのセリフや印象的だったエピソードが繰り返し心の中に甦ってくることはありませんか? 彼らの人生のワンシーンを何度も反すうして、共感したり、批判したり、自分だったらどうするだろうかと考える。とても贅沢で素敵な映画の楽しみ方ですよね。そこで今回は危なげな成り行きにハラハラしつつも、最後には人生の瑞々しさに心震える人間ドラマを5本紹介します。

終わりの予感をはらんだ、ひと夏の幸福な日々『きみの鳥はうたえる』
きみの鳥はうたえる
若手実力派俳優の柄本佑、染谷将太、石橋静河が出演し、ひと夏のキラメキを切り取った青春ドラマ。自死により早逝した作家・佐藤泰志の初期の最高傑作を、舞台を東京から現代の函館に移して映画化した作品です。

函館郊外。書店で働く<僕>(柄本)は、同僚の佐知子(石橋)とふとしたきっかけで体を重ねます。それからというもの2人は、僕と一緒に暮らす失業中の静雄(染谷将太)と共に、飲んだりビリヤードをしたりクラブに顔を出したりと夜遊び三昧。ずっと続くかと思われた楽しい日々も、夏が過ぎゆくと共に終わりが近づいてきて。

仲良しの静雄が佐知子に好意を寄せていることを知ると、何かと静雄と佐知子の2人で行動することを勧める僕。もともとカジュアルな関係を望んでいた佐知子ですが、そんな僕の態度に混乱してしまう気持ちは痛いほど分かります。僕はそんな風に仕事も恋も誠実じゃないのですが、でも友情は大切にする~それが今時の若者文化なのかも、と思ったりもします。

深夜のコンビニへの買い物や、飲んで遊んだ後の薄明かりの中での朝帰りなど、次の日のことなど一切考えることなく遊びに興じていた若き日々。いつかは卒業しなければならない、くだらなくも尊い時間を克明にスクリーンに刻んだ青春映画の傑作をどうぞ。
鬼才・若松孝二の激動の時代を女性助監督の視点で描く『止められるか、俺たちを』
止められるか、俺たちを
2012年に交通事故で逝去した鬼才・若松孝二監督。監督の若き激動の時代を、1人の女性の視点から描いたヒューマンドラマです。本作のメガホンをとったのは若松監督に師事していた『孤狼の血』の白石和彌。若松監督役を若松組の常連俳優・井浦新が演じ、若手実力派俳優・門脇麦がヒロインに扮しています。

1969年、若者たちを熱狂させる映画を世に送り出していた若松プロダクションに、助監督志望の女性・吉積めぐみ(門脇)がやってきます。個性的で才能あふれるスタッフに囲まれ刺激的な生活を送る彼女でしたが、若松監督(井浦)が日本赤軍に合流したことで若松プロは政治色を帯び始め…。

当時まだ女性の助監督が珍しかった時代に、ピンク映画も多数手がける若松監督の下で叱られながらも必死に喰らいついていくめぐみ。その一方で「映画監督になりけれど、何を撮りたいか分からないの」とつぶやく彼女は、変化していく周囲と比べて自分だけが取り残されている錯覚に苦しんでいたのでしょう。現代にも通じるこの普遍的な“青春の苦悩”が、誰しもの胸を打つ青春映画として本作を強烈に魅力的にしています。
佐藤泰志による函館三部作の最終章『オーバー・フェンス』
オーバーフェンス
前述の『きみの鳥はうたえる』の原作者である孤高の作家・佐藤泰志による函館三部作の最終章。三部作のどの作品もしみじみと味わいがある作品ですが、寂れた町に暮らす人々の姿が最後にはうねりのように胸に迫る熊切和嘉監督作『海炭市叙景』、ヒリヒリとした痛みにやるせなくなる呉美保監督作『そこのみにて光輝く』とは異なり、山下敦弘監督は本作を明日への希望が色濃く感じられる爽やかな青春ストーリーに仕上げています。

妻子と別れ東京から故郷の函館に舞い戻ってきた白岩(オダギリジョー)は、職業訓練校に通いながら無気力な日々を送っています。ある時、訓練校の仲間に連れられキャバクラに行った白岩は、鳥のマネをする風変りなホステス・聡(蒼井優)と出会い…。

男性を思わせる「聡(さとし)」という名を持つ彼女は、心に闇を抱えています。感情の起伏も激しくて白岩を翻弄するのですが、彼女の中に自分と同じ孤独を感じ取った白岩はどんどんと惹かれていきます。そんな危うくてエキセントリックな聡を、蒼井優がギリギリのさじ加減でリアリティ豊かに体現。彼らを取り巻く、雑多でそこはかとない可笑しみをまとった職業訓練校の面々も作品に明るい奥行を与えています。
同じ顔をした2人の男性の間で揺れる女心『寝ても覚めても』
寝ても覚めても
突然姿を消した恋人と同じ顔をした男性を愛してしまった女性の揺れる8年間を追ったラブストーリー。原作は芥川賞作家・柴崎友香の同名小説です。監督は上映時間なんと5時間17分という長編『ハッピーアワー』で世界に名を知らしめた新鋭・濱口竜介。本作で商業デビューを果たしました。

大阪から東京に転勤してきたばかりの丸子亮平(東出昌大)は、会議室にコーヒーのポットを回収しに来たコーヒーショップの店員・朝子(唐田えりか)の態度に違和感を抱きます。何かと自分を避ける朝子に亮平は興味を覚え、2人は徐々に距離を縮めていくのですが。

5年後、2人は一緒に暮らしていますが、朝子はある秘密を抱えています。実は亮平は、かつて靴を買いに行くと出ていったきり戻ってこなかった恋人・麦(東出)とウリ二つ! 運命の恋から逃れられない朝子が、表情に出さずにとる突発的な行動が最高にスリリングで思わず引き込まれてしまいます。

また意外にも一人ニ役は初めてという東出昌大による「とらえどころのない妖しい魅力を放つ麦」と「誠実で包容力のある亮平」は絶品! 同じ顔なのに全くの別人を見事に演じ分けた彼の実力をご堪能ください。
少女の心の揺れ動きを丁寧に描く『悲しみに、こんにちは』
悲しみにこんにちは
スペインの女性監督カルラ・シモンの幼少期の経験を元につむぐ自伝的物語。初めて生と死に触れた少女の心の揺れ動きを、カタルーニャの美しい風景とともに丁寧に描く。映画批評サイト「ロッテン・トマト」で100%FRESHを獲得した珠玉の人間ドラマです。

都会育ちのフリダ(ライア・アルティガス)は母親が亡くなり、田舎で自給自足をしている叔父夫婦の元に引き取られます。産まれたての卵をケースに詰めたり、幼いイトコのアナや近隣の子供たちと仲良く遊んだりと、フリダの新しい生活は順調かに見えたのですが…。

普段は無邪気で明るくても、母親について語る周囲の大人たちの微妙な空気や、ふとした疎外感にモヤモヤしてしまうフリダ。後をついてくるアナを疎ましく思い、母親代わりの叔母・マルガの言葉も上手く受け止められずにしばしば感情を爆発させてしまいます。そんな彼女の危うさにハラハラさせられますが、それでも温かく見守り続けてくれた叔父夫婦の深い愛情が最後に胸をじんわりと温かくしてくれます。

シモン監督は自身のノスタルジーが詰まった本作で、ゆっくりと一歩ずつ悲しみを受け入れる準備を整えていった幼い自分を振り返り、必死に頑張った日々を愛おしく抱きしめているのです。

リーアム・ニーソンはかつてインタビューで「映画とは?」と聞かれ、「娯楽でありながら、人間を映す鏡でもあるよね」と語っていました。娯楽大作ももちろん大好きですけれど、たまには人間ドラマで“人間”について考えてみるはいかがでしょう? そこには空を飛ぶ超人も、キレっキレのアクションを披露するヒーローもいないけれど。

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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