ホーム > 青山シアター物産展/東北編

青山シアター物産展/東北編

2019.08.28(Wed) | 仲谷暢之

昔から世界各国にご当地映画というのがあります。
観光映画とも呼ばれ、映画の舞台やロケ地となった場所は公開されて知名度が上がるにつれ、そこを訪れてみようという人たちが大挙押しかけ一躍観光名所として認知されています。有名すぎる映画では『ローマの休日』なんてまさにご当地・観光映画の金字塔作品。
日本でも当然昔からそのジャンルはありますが(『男はつらいよ』シリーズは日本の金字塔!)、ここ数年は県おこし、町おこし、村おこしとして現地でフィルムコミッションなどが設立され、映画の舞台として、ロケ地として使って欲しいと誘致合戦が繰り広げられ、テーマに合った作品や企画が映画として数多く作られ公開されています。
そこで今回から、青山シアターで配信されているご当地映画をエリアごとにチョイス、ご紹介したいと思います。
第一弾は9月13日(金)より撮影場所となった宮城県で先行公開、9月20日(金)から全国公開される三浦春馬・多部未華子主演の『アイネクライネナハトムジーク』を含む東北を舞台にした作品をご紹介します。

『アイネクライネナハトムジーク』 撮影地/宮城県
アイネクライネナハトムジーク
『アヒルと鴨のコインロッカー』や『ゴールデンスランバー』など映画化も多い小説家・伊坂幸太郎が、ミュージシャン・斉藤和義からの歌詞依頼をきっかけに書き下ろした連作短編小説集を、原作者自身の推薦によって『愛がなんだ』を大ヒットさせた今泉力哉監督が映画化したのが今作。

宮城県、仙台を舞台に“出会い”をテーマに主人公とひょんなことから出会った彼女をめぐる人たちの10年に渡る物語。

仙台には何度か行ったことがあるけれど、行くたびにいい印象しかなかった。大阪在住の僕にとっていい感じの都市の大きさ、緑の多さ、そこを吹く風の感じ、食べた料理などなどすべてが心地よかった。それだけに今作が単なる観光映画ではなく、そこに暮らす人たちの日常を仙台を舞台に作ったことにまず、ニンマリしてしまいます。

三浦春馬演じるサラリーマンの佐藤が仙台駅前の歩道橋で街頭アンケートをしている場面から大型ビジョンに映し出されるボクシングのヘビー級タイトルマッチを眺める人たち、ストリートミュージシャンの歌に聴き入る多部未華子演じるフリーターの紗季の、映画導入部分は“現在”の仙台をさりげなく切り取っているのがいいし、佐藤と紗季の出会いとこれから繰り広げられる群像ドラマの伏線として重要なので劇場で見られる方は見逃さないで欲しいところ。

そして群像ドラマならではの様々なキャラクターも魅力のひとつで、いつも学生役、腰巾着的キャライメージが強かった矢本悠馬が、珍しく妻帯者(しかも・・・!)役で同級生である佐藤に出会いのレクチャーを行ったり、その妻役で森絵梨佳の聖母のようなオーラ。佐藤の上司役の原田泰造が優しさと寂しさ、清濁併せ持った存在として抜群の存在感を放っていたり、この映画のある意味重要な役であるボクサーのウィンストン小野役の成田瑛基の朴訥さと熱量と、主役二人はもちろんですが、脇を支えるキャラ一人一人にちゃんと見せ場と説得力を与えているのも群像劇の名手と呼ばれる今泉監督の手腕が冴えています。ちなみに宮城県出身のサンドイッチマンの登場シーンも嬉しくなるモーメント。

様々な出会いから生まれ、10年を経て集結していくる物語にあって、一番の出会いは仙台の街ということが最後にきっと思えるはず。

◆『アイネクライネナハトムジーク
9.20(金)全国ロードショー
『泳ぎすぎた夜』 撮影地/青森県
泳ぎすぎた夜
青森県の映画と言えば、今から40年以上前に公開され「天は我々を見放した」というセリフが当時大流行した八甲田雪中行軍遭難事件を描いた『八甲田山』が有名かもしれません。
この映画を見たことがある人なら、青森の冬はそれはそれは恐ろしいくらいの豪雪地帯で凍傷上等という印象が頭に刷り込まれているやもしれません。そんな青森で作られた本作は、凍れる寒さの中に温かさを見出せる内容です。

弘前の卸売市場に夜中に出勤するお父さん。その出かける物音に気づき目を覚ました6歳の鳳羅くんは、眠ることもできず、おもちゃで遊んだり、絵を描いたり・・・。
やがて朝を迎え、眠気を感じながらもその絵をランドセルに入れ登校しますが、途中でふとお父さんに絵を届けようと電車に乗って、父の働く市場へと小さな冒険を始めるというストーリー。

完全防寒のコロコロの男の子、鳳羅くんが雪に覆われた無人駅から電車に乗り、市街地へ向かう姿は「はじめてのおつかい」の様でもあり、アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』を彷彿とさせてくれます。

雪をキュッキュと踏みしめる音、いかにも東北の凍れる風の音、雪の降る音、積もった雪が落ちる音、そして鳳羅くんの息遣いと、ほぼセリフのない中に聞こえる“音”が青森の日常を感じさせてくれます。

子どもの頃に感じた一日の時間の長さと、その中で繰り広げられる冒険。お父さんを訪ねる途中で手袋を片方なくしたり、大きなランドセルを持て余したり、犬と出会ったり、フードコートでたたずんだり水を飲んだり、大人なら些細なことでも子どもにとっては新鮮で重要だったりしたことが改めて思い出され、ちょっと絵本を読んでいるかの気にさせてくれます。
冒険を繰り広げる鳳羅くんは地元に住む演技初挑戦子どもだったそうで、彼のアドリブをどんどん取り入れているからこそ生まれたドキュメンタリーの要素も今作が不思議な魅力に溢れているひとつ。
『奇跡のリンゴ』 撮影地/青森県
奇跡のリンゴ
数年前に出版されロハスピープルの中でベストセラーとなった「奇跡のリンゴ」。苦労の果てに無農薬リンゴの栽培についに成功した青森のリンゴ農家、木村秋則さん苦労の実話が記された本を基に映画化したのが今作。

1970年代の青森県中津軽郡岩木町(現在は弘前市)。
昔から機械いじりが好きな秋則は、東京に出てサラリーマンとして働いていたものの実家に呼び戻され、やがてリンゴ農家、木村家の一人娘で同級生だった美栄子と結婚。婿養子としてリンゴ農家を継ぐことに。ある日、美栄子の体に異変が起こり調べてみるとどうやら年に何度もリンゴの樹に散布する農薬に蝕まれていたことが判明。秋則は一念発起し、無農薬のリンゴ栽培を決意、実行するも当時としては絶対に不可能だと言われた栽培方法ゆえ、何度も失敗を重ね、借金も増え、周囲からも孤立し、家族にも次第に迷惑がかかるようになる。やがて栽培を模索して10年目、二進も三進もいかなくなった秋則は死に場所を求めて森の中に入ったとき、ある“樹”を見つけ希望を見出すが、はたして・・・。

阿部サダヲが主人公の木村秋則を演じてるんですが、猪突猛進、とにかく打ち込む役、似合います。これまでにも舞妓Haaaan!!!謝罪の王様などとにかくこうと決めたり、ハマったらそこにどんな茨の道が待っていようとも、ひたすら走り続ける姿は今作でも健在。その集大成がある意味、現在放送中の大河ドラマ「いだてん」の田畑政治役かも知れません。
『いつも月夜に米の飯』 撮影地/新潟県
いつも月夜に米の飯
以前、新潟に行った時に食べたおにぎりの味がいまだに忘れられない。ほっくりと握られた大ぶりのその中には塩のきき過ぎた焼鮭のほぐし身が入っており、“ムハリ”と頬張るとお米の甘みと鮭の香ばしさと旨味、じわりと米にしみた塩味とのバランスが絶品でした。こうやって書きながらも味が思い出され幸せな気持ちになってきます。さすが新潟、米どころだなぁとしみじみ思ったものです。今作も美味しそうなおにぎり、そして料理、日本酒が登場し、食をめぐる物語が繰り広げるんだろうなぁと思っているとどうやら違う方向へ。
東京で暮らす女子高生千代里は、母親の麗子が失踪したとの知らせを受け、慌てて彼女が営んでいた居酒屋がある新潟へ向かいますが、待っていたのは親戚からの母親への罵詈雑言と借金返済の催促。そこで彼女はしぶしぶその居酒屋で働く料理人アサダとともに店を守っていくことに。最初のうちは、アサダに反発していた千代里も彼の作る料理や、店を訪れるお客さんを通して徐々に打ち解けていくのですが、ある日、麗子が戻ってきたことから平穏になっていた日常に波乱が訪れるというもの。

この戻ってきた母親がクセ者で、演じるは高橋由美子。表立ってではないけれど、男に対してだらしない部分をコアに持っててそのドアを開けたり閉めたりしてる感じだなぁってのが漂っていいんですよ。さらに料理人アサダも、確実に母親と何かあったよなっていう背徳感と闇を醸造してる。そんな千代里も気づいていなかった母親からのDNAは抗えずアサダに・・・。
食欲を満たすと次は性欲がもたげて来るのは人間の摂理。しょうがありません。とはいえ、ドロドロ展開にそれほどならず、意外にさらりと描かれているのは主演の山田愛菜の持つ清潔感のなせる技かも知れません。
古くは高倉健主演の『居酒屋兆治』や、最近では小林薫主演『深夜食堂』と言った酒場群像劇の趣も味わえる今作、最初はおにぎりだったのが最後は“丼”モノになるのがさすが米どころであります。
『生きる街』 撮影地/宮城県
生きる街
2011年3月11日に起こった東日本大震災は、8年経った現在も、完全復興とはまだ言い難く、かつて阪神大震災を経験した僕にとって、神戸の復興の早さとは明らかに遅れているなぁといまだ感じています。震災地から遠く離れている我々でもそう思っているのだから、地元の人はなおさらだと思います。

今作は宮城県石巻市の海沿いの街を舞台に、震災によってそれまでの生活が一変した家族を描いた物語。

夏木マリ演じる漁師の妻、千恵子。震災の津波で夫が帰らぬ人となり、彼女自身は避難生活を経て、現在は別荘を借り受け民泊を営業し、いつか戻ってくるかもしれない夫の帰還を望みながら日々を暮らしている。そして彼女の成人している娘と息子はそれぞれに被災の影響で受けた大きなトラウマを抱えながら被災地から逃げるように暮らし、家族の心はすれ違い状態。
そんなある日、かつて同じ町にくらいしていた韓国人のドヒョンが千恵子たちを訪ねてきたことから再び家族としてのあり方を見つめ直すのだけど、そのきっかけとなるのがドヒョンの父と、千恵子の夫との交流を記した一通の手紙だった・・・。
とにかくいつものエッジが効いた存在感とオーラを消し、石巻市の漁師町に暮らすおばちゃんを体現した夏木マリに尽きます。彼女の塩業する民泊に集まる人の面倒を見ながら日々忙しく、明るく気丈に立ち振る舞う姿の反面、いつか夫が帰ってくるかもという淡い期待に現実を感じ、涙する弱さ、その細やかな心の起伏、移ろい・・・。母であり、女であり、時には父性をも感じさせる存在は唯一無二。

実際に、ホテルではなく共同風呂、トイレの民宿に泊まり込んで地元の方たちの話を聞きながら、一切肌の手入れもせず、なんなら「綺麗に撮る必要なんてないからね、皺をたくさん撮って」とカメラマンにも言って挑んだという千恵子役、その結果、そこで暮らしている体温を十二分に感じさせてくれる千恵子になっていて見事です。

かつて石巻雄鹿半島で捕鯨の町と言われた鮎川港を中心に撮影され、かつて賑わっていたであろう風景の中で繰り広げられる家族の歯車を再び戻そうとする物語は、改めて東北大震災の記憶を風化させてはいけないと思うはずです。
『サニー/32』 撮影地/新潟県
サニー32
新潟もそういえば、豪雪地帯でした。そんな雪にどっぷり覆われた長岡市で血みどろの狂った世界が繰り広げられるのが今作。

元NGT48NO北原里英演じる、中学校教師の藤井赤理。学校では生徒に対して空回り、私生活ではストーカー行為に悩まされている女性。そんな彼女が24歳を迎えた誕生日に二人組の男に誘拐されてしまうところから話は始まります。

誘拐犯はリリー・フランキーとピエール瀧演じる二人のオヤジ。彼らはかつて犯罪史上最も可愛い殺人犯と呼ばれ世間を騒がした少女サニーを崇拝していて、赤理をサニーと呼んで雪山の廃小屋に監禁されることに。身に覚えのない殺人犯サニーとして崇めたてられ、肉体的にも精神的にも追い詰められていく赤理は、次第に自分をサニーとして認めるようになり、反対にオヤジ二人を支配していくように・・・。が、ネットでもう一人のサニーが登場したことによって事態は思わぬ方向へ・・・。

凶悪で注目され、綾野剛が俳優として剥けに剥けた『日本で一番悪い奴ら』、蒼井優と阿部サダヲのイヤ気さが溢れ出てる彼女がその名を知らない鳥たち、さらに今作以降もかつての東映ヤクザ路線をリブートさせた孤狼の血、かつて自分がいた映画製作プロダクションの青春を描いた止められるか、俺たちを、問題作『麻雀放浪記2020』、香取慎吾の異色作『凪待ち』と、コンスタントにアウトローな人物たちを描いた作品を監督している白石和彌が、2004年、長崎の佐世保小学校で起きた佐世保小6女児同級生殺害事件を(通称NEVADA事件)に着想を得て作ったものですが、実はアイドル映画でもあるというのがすごいところ。
全体を通して『セーラー服と機関銃』『ションベン・ライダー』『台風クラブ』『雪の断章~情熱~』など80年代、相米慎二監督が発表した女優をとことんまで追い詰め昇華させ完成させたと言われるアイドル映画を彷彿とさせます。実際、北原里英がとことんまで体を張り、喜怒哀楽の彼岸を見せ切った姿にはまさにかつてのそれを想起させる熱量が漂ってます。
さらに二人目のサニーとして登場する門脇麦の圧倒的な存在感も見逃せない部分。
新潟で生まれた闇のアイドル映画、異彩を放ちすぎてる逸品です!

まもなく公開される『アイネクライネナハトムジーク』と青山シアターで見ることのできる6作品。東北の様々な空気感を味わいたいときにぜひ見ていただきたいです。

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

Banner

関連するポスト

Copyright (C) GAGA Corporation. All Rights Reserved.
GAGA