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今年も充実のベネチア国際映画祭!コンペティション部門選出監督の作品セレクション

2019.08.30(Fri) | 谷直美

 第76回ベネチア国際映画祭が2019年8月28日(現地時間)に開幕しました。同映画祭のオープニングを飾ったのは是枝裕和監督の新作「真実」で、日本人監督初の快挙となりました。
 この他のコンペティション部門21作品も、実に豪華で多彩なラインナップ。
 10月に日本公開される是枝監督の新作紹介に加え、注目のコンペティション選出監督の過去作もこの機会にぜひチェックしてみて。

豪華キャストによる苦く優しい小さな家族の物語「真実」 是枝裕和監督
真実
 2018年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した前作「万引き家族」以来の新作は、是枝監督にとって初の国際共同製作であり、主演はフランス映画界を代表する大女優、カトリーヌ・ドヌーヴが務めています。
 共演もジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークと贅沢なキャスティング。しかし華やかなスターたちが競演したのは、いかにも是枝監督らしいパーソナルな家族の物語でした。

 カトリーヌ・ドヌーヴが演じるのは、自身がまさにそうであるところの“フランスの国民的大女優”ファビエンヌ。自らの才能と欲望に正直に生きてきた女性が、アメリカに住む娘リュミールと久々に再会する。

 嘘が平然と語られ、都合の悪いものはないものとして蓋をされたファビエンヌの自伝本「真実」の内容に驚き、積年の母へ怒りをぶつけるリュミール。
 悔いの残るかたちで亡くしたファビエンヌの親友サラにまつわる後ろめたい「真実」もリュミールに突きつけられるなかで、母子の間に横たわる複雑な思いにそれぞれが向き合い、人生を省みることを余儀なくされていく・・・。

 長年の家族のわだかまりの中には後悔や恥ずかしさが澱のように溜まっている反面、クスッと笑えるような滑稽さや優しさも含まれているもの。これまでの是枝作品同様、残酷さとユーモアが同居する家族の揺れ動く感情が丁寧に描かれています。

 誰もがそのようにしか生きられない人生をその人なりに誠実に生きている。埋めがたい齟齬やままならない運命もある中で、誰かと傷つけ合ったり愛し合ったりながら生きていく。
 そんな人の営みを温かく肯定したまなざしが、心を優しく癒してくれる作品です。

◆「真実」 2019年10月11日(金)公開
緻密なミステリーが驚愕の真実へと導く「手紙は憶えている」 アトム・エゴヤン監督
手紙は覚えている
 今回、新作「Guest of honor(原題)」がノミネートされているカナダのアトム・エゴヤン監督の前作が「手紙は憶えている」。

 社会や政治のタブーに果敢に挑み、時に物議を醸すこともある彼の作品は、緊迫感のあるミステリーで隠された真実に迫るスタイルが特徴。
 本作もホロコーストという重いテーマをエンターテインメント性の高いサスペンスに仕上げています。

 妻を亡くした認知症の老人が、友人の手紙を頼りにナチスの当事者を探し出して復讐をするための旅に出る。
 主演のクリストファー・プラマーをはじめとしたキャストは名優揃いながらも、死にかけの老人ばかりが出てくるという特異な設定。
 テーマも相まって辛気くさく地味な画づらになりがちなところを、役者のうまさと無駄なくメリハリの効いた脚本の力で、物語をぐいぐい引っ張っていきます。

 ホロコーストを実際に体験した戦争当時者は近いうちにこの世からいなくなってしまう。消えゆく世代の声には、胸深くに想像を絶する苦悩と悲しみが凝縮されており、戦争の罪深さを改めて思い知らされます。
社会の抑圧と闘い自らの表現を追及した「メアリーの総て」 ハイファ・アル=マンスール監督
メアリーの総て
 結婚も海外旅行も銀行口座の開設も親族男性の承認が必要で、2018年に自動車の運転は解禁されたものの、いまだに女性は自転車に乗る事もできない。女性の人権が極端に制限されている特異な国サウジアラビア初の女性監督がハイファ・アル=マンスールです。
 サウジ国内で時に車中に身を隠しながら撮影を重ね、困難な状況を乗り越えて製作した長編デビュー作「少女は自転車に乗って」は世界中で高く評価され、彼女は一躍脚光を浴びました。

 アル=マンスール監督の長編2作目が本作。エル・ファニングが怪奇小説の傑作「フランケンシュタイン」の作者メアリー・シェリーを演じています。
 「フランケンシュタイン」が書かれたのは19世紀のイギリス、メアリー18歳の時。いかにしてこのおぞましくも悲しい物語が100年以上前の若い女性から生まれたのか?彼女の人生が当時の時代背景をなぞらえつつ描かれています。

 前作とうってかわった陰鬱で耽美的な歴史ドラマでありながら、女性が社会の理不尽や古い因習の呪縛から解放され、そのままの自分を表現して生きたいと強く願う姿を描くフェミニズム的視点は一貫しています。

そんな彼女の最新作「The perfect candidate(原題)」は、再び祖国サウジアラビアにおける女性の人権にフォーカスを当てた作品で、長編3作目にしてコンペティション部門に選出。飛躍めざましい注目監督のひとりです。
ニューヨーク的モラトリアム青春映画「フランシス・ハ」 ノア・バームバック監督
フランシスハ
 今回コンペティションに選出されたノア・バームバックの新作「マリッジ・ストーリー」は、自身の経験をベースにアダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが破綻した夫婦を演じた作品です。

 ニューヨークを舞台にした作品が多く、知的でシニカルなユーモアで都会的な人間模様を描く彼の作風は、ウディ・アレンの作品を彷彿とさせます。
 軽妙でウィットに富んだ会話といやらしいほどシビアな人間洞察の織りなすドラマに苦笑いしつつも引き込まれてしまう。そんな魅力を持ったバームバック監督の作品です。

 「フランシス・ハ」は彼の長編4作目にあたり、主演は監督の現パートナーでもあるグレタ・ガーウィグ。 美しいモノクロ作品で、大都会ニューヨークのはざまで自由気ままに生きる若者たちの日々をノスタルジックなムードで描いています。

 気立てはいいが色気に欠けるフランシスは、終始じたばたともがいている。層の厚いニューヨークでアートの才能を開花させることは想像以上に厳しい。冴えない自分から逃げ出したいが、中途半端な自分はどこまでもついて回る・・・!
 転んですりむいても構わずがむしゃらに走るフランシス。渦中の当人はひたすら必死で情けない。けれど振り返ると切なく眩しい。そんなビタースウィートな青春を描いた作品です。
闇を見る目を体験する「ブラインド・マッサージ」 ロウ・イエ監督
ブラインドマッサージ
 コン・リー主演、オダギリジョーも参加している新作「サタデー・フィクション」がコンペティション部門にノミネートされているロウ・イエ監督。
 天安門事件を描いた「天安門、恋人たち」(2006)では、政府から上映禁止のみならず5年間の映画製作を禁じられるも、果敢にタブーに挑み続ける作品を作り続けています。

 「ブラインド・マッサージ」は、中国・南京の小さな盲人マッサージ施術院で働く目の見えない若者たちの群像劇。
 プロの俳優と素人の視覚障害者のキャストが混在した撮影は、視覚障害者に配慮した撮影を行ったために80日間に及び、俳優は撮影中見えないコンタクトレンズを装着して過ごしていたそう。
 時間をかけてじっくり作られただけあって、まるでドキュメンタリーのような自然で親密な空気感を感じさせる作品になっています。

 見える人々のためのものである映画というツールを使って、「見えない人々の世界の見え方や感じ方をありありと描く」という試み。撮影・音響・光などの効果によって、空間把握の難しさやものを認識することの困難さなど、盲人の感覚を疑似体験するような演出が多用されています。

 暗闇の中で聴き、触れ、嗅ぎ、想像しながら生きる人たちの一人ひとり異なる事情や喜びや苦悩が丁寧に描かれます。暴力や性の躊躇ない描写には障害を抱えながらも必死でより良い人生を求める若者の切実な迫力が満ちていて、胸を衝かれるものがあります。

 盲人にとっては時に暴力的な健常者中心の社会環境の描写は、現代中国社会の抱える差別や格差の問題も浮き彫りにしています。
 「見える人」が当たり前のように思って気付かないでいる世界観に揺さぶりをかける作品です。

多彩なラインナップに加え、今年はブラッド・ピットが宇宙飛行士に扮したジェームズ・グレイ監督「アド・アストラ」、バットマンの宿敵ジョーカーが誕生するまでの物語をホアキン・フェニックスが演じたトッド・フィリップス監督「ジョーカー」の他、スティーン・ソダーバーグやオリヴィエ・アサイヤスの新作など、大スターを配した作品も多くノミネートされているため、例年以上に華やかな映画祭になりそう。映画祭は9月7日まで。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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