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思春期の複雑であやうい心を描いた せつなほろにが青春映画5選

2019.11.06(Wed) | 谷直美

 子供が大人に変化していく思春期は、未熟でアンバランスゆえの生きがたい苦悩と、ビビッドな感受性がもたらす生きる喜びが交錯する特別な季節。
 初めての恋、かけがえのない友情、夢中になれるものとの出会い・・・。体当たりで思春期を駆け抜けていく若者たちの織りなす切なくてほろ苦い青春映画をご紹介します。

孤独と貧困を生き抜く中で大人になっていく「荒野にて」
荒野にて
 アメリカの広大な田舎を舞台に、みなしごとなった少年と一頭の馬との逃避行を描いたロードムービー。
 だめな大人たちと貧困と冷酷な社会システムによって、ひとりの若者が社会のセーフティーネットからこぼれ落ちて追い込まれていく過程が淡々と描かれます。

 女にだらしない父親が愛人の夫に殺され、一気に何の保護もない文字通りの荒野にひとりぼっちで放り出されたチャーリー。殺処分されることになった可愛がっていた馬を盗み、馬と共に子供の頃優しくしてくれた伯母を探す旅に出ます。
 厳しい広大な荒野を、少年が馬を曳いてどこまでもどこまでも歩いていく。ひとりぼっちの不安と自由を強く感じさせる大自然の美しい映像が印象深いです。

 心優しい少年は、生きるために精一杯のことをしながら急速に成長していく。優しい人に親切にされることもあれば、ひどい大人にむしり取られるような目にも遭う。

 少年が居場所を求めて社会の底辺をさまよう理不尽さに胸が痛むけれど、同時にひたむきに前進しつづける姿に心からのエールを送りたくなります。
こんな友だちと青春を過ごしたかった「ウォールフラワー」
ウォールフラワー
 スティーブン・チョボウスキーが1999年に出版したベストセラー青春小説を、作者自らが監督となって映画化した作品です。
 ウォールフラワー(壁の花)とは、パーティーなどの集まりで誰とも交わらず壁際にたたずんでいるさびしい人のこと。
 主人公のチャーリーは、まさにそんな地味で冴えない少年。ある日、明るく社交的なパトリックと妹のサムがチャーリーを見出し仲間にしたことで、彼の生活は一転、カラフルで刺激的なものに。

しかし一見イケてるパトリックやサムも、実は誰にも言えない秘密と苦しみを抱えていて。
 誰もがそれぞれのつらさを抱え、それを互いに支え合う打算のない友情の美しさが感動的です。もっともらしいことを言ったりしたりせず、ただ黙って一緒にいてくれる友だちって、何よりもありがたい。

 大人でも子供でもない思春期につちかった恋や友情は特別なもの。この作品の持つ切ない輝きは、誰もが胸の奥底に抱えているかけがえのない宝物のような記憶を蘇らせる力を持っています。
大人もそれぞれに大変で、愛されたいんだ「さよなら、僕のマンハッタン」
さよなら、僕のマンハッタン
 ニューヨークの裕福な家庭で愛されて育った作家志望の青年トーマスは、父の不倫を偶然目撃したことをきっかけに、芋づる式に両親をはじめとした身近な大人たちの思いがけない素顔に触れていくことに。

 物語のカギを握る父の愛人ジョハンナと、トーマスの隣りの部屋に住む作家ジェラルドの存在はいかにもニューヨーク的。
 ジョハンナは、やりがいのある仕事を得て自立し、社交もそつなくこなす優雅で洗練された美しい女性。
 ジェラルドは小説家として成功を収め、いつまでも自由に暮らし、若者のメンターになりうる格好いい不良おやじ。
 しかし、一見スマートそうに見える彼らも両親も、恋に翻弄され後悔を抱えるひとりの不完全な人間にすぎないことがだんだんと露呈していきます。

 失望と怒りにかられるトーマスに突きつけられたある驚きの真実とは?
 大人になるってほろ苦いけど悪くない。温かく包み込むようなハッピーエンドが心地良い作品です。
ぼくがぼくであることを堂々と生きる「彼の見つめる先に」
彼の見つめる先に
 ギャングものや政治腐敗といったハードなモチーフも多いブラジル映画。しかしこの作品で描かれているのは、等身大のハイスクールライフです。

 主人公レオは目の見えない高校生。普通学校に通って健常者と何ら変わらない日常を送っている。目が見えないことをからかういじわるな生徒もいるけれど、彼の事を守り、無条件に愛する家族と友だちに囲まれて、恋と外国への留学を夢見ているレオ。
それらの描写のどこにも障害に対する気負いは感じられず、全てが当たり前のこととしてさりげなく描かれています。

 さらに、転校生ガブリエルとの出会いによって彼は自分が同性愛であることに気付くのですが、同性愛に対する葛藤もうしろめたさもほとんど感じていない。ただまっすぐに初恋であるという描写も新鮮です。

 多様性に富んだブラジル社会の寛容さと共存への意識の高さに感心させられる、すがすがしい後味を残す青春映画です。
ぼくらはいつまで〈何者でもない自分〉でいられるのだろう「きみの鳥はうたえる」
きみの鳥はうたえる
 佐藤泰志による小説が原作。北海道の函館を舞台に、小さな地方都市に生きる3人の若者のモラトリアムな日々を描いた作品です。
 原作は1980年代の作品ですが、先が見えず、行き場のない閉塞感を刹那的な楽しさで紛らわせるようなホープレスな感覚は、時代に関わらずある種の若者が持つ感覚なのでしょう。

 何の責任も負わない自由で気ままな日々を楽しんでいた僕、静雄、佐知子。先のことなどあまり考えないし、誰と何の契約も結ぶつもりはない。今を楽しめばそれでいいじゃないかという場当たり的な生き方を、一体どこまでつらぬけるものだろうか?

 微妙なバランスで保たれていた3人の関係はいつの間にか壊れ、全てにクールを貫いていた「僕」はひとり取り残される。
 モラトリアムはみじめに敗北し、青春は終わりを告げる。切なく苦いけれど、何かの始まりも感じさせるのは彼らが若いからこそ。

 ヒロインは石橋静河。ボーイッシュなのにセクシーで、独特の存在感が光っています。彼女のこれからの活躍も楽しみ。

 青春映画って、喜びも苦しみも過剰に増幅する思春期という特別な時期を描くからこそ、こんなにも愛おしいのではないでしょうか。  自分の青春と重なるものを見出せる「私だけの青春映画」をぜひ見つけてみてください。

Writer | 谷直美

映画と旅と赤ワインをこよなく愛するフリーライター。映画レビュー・コラムのほか、人物インタビューやイベント取材など幅広いジャンルで執筆中です。

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