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青山シアター物産展/北海道編

2020.01.08(Wed) | 仲谷暢之

ご当地映画を楽しむにあたって、その土地その土地の名所、観光地、食べ物、季節感が登場するのも魅力のひとつ。そしてそれらの宝庫が溢れているエリアといえば、北海道。その広大で起伏に富む土地ゆえ、映画のロケにも昔から数多く使われている場所。
ご当地映画を紹介している「青山シアター物産展」第3弾、今回は使い古されたフレーズごめんなさい。でっかいどう、北海道をロケ地とした作品をご紹介します。

『ガチ☆ボーイ』
ガチ☆ボーイ
劇団モダンスイマーズの舞台「五十嵐伝~五十嵐ハ燃エテイルカ~」の映画化。以前、リリー・フランキー原作の「東京タワー ~僕とオカンと、時々、オトン~」が舞台化された時に、テレビや映画にもなって、ある意味こすり倒された話を舞台でどう見せてくれるんだろうかと、少しばかりフィルターのかかった視点で見たら、G2さんのメリハリの効いた演出も功を奏し、セリフ劇の醍醐味を堪能しつつ大号泣という経験をし、誰が脚本なんだろうとチェックしたら、蓬莱竜太さんだった。そんな彼が手がけた舞台を、北海道の大学を舞台に置き換え、佐藤隆太を主演に立派な青春映画として仕立て上げたのが今作。

主人公、五十嵐良一は、大学では“天才五十嵐”と、呼ばれるほど頭の良さを噂されていた人物。が、自転車で転んで頭を打ち、その結果高次脳障害という、事故に遭う前の記憶は覚えているのに、それ以降は一日眠るとその前日の記憶は消え去ってしまう障害を持つことに。
クリストファー・ノーラン監督のサスペンス映画「メメント」(ちなみに主人公は10分しか記憶が持たない)やアダム・サンドラーとドリュー・バリモアのコメディ映画「50回目のファーストキス」(日本でも山田孝之と長澤まさみ主演でリメイクされ、青山シアターでも視聴可能)でも描かれたようなことが良一に起こる。

そんな彼が事故前に最高に楽しかった記憶といえば、学祭で見た学生プロレスということで、彼は思い切ってプロレス同好会へ入部を決意。もちろん、記憶障害のことは黙って・・・。

毎日、メモを取りながら必死に練習するも、翌日には悲しいかな記憶が消え去り、前日のメモや日記を見ながらイチから練習。部員たちもおかしいなぁと思いつつ、新入部員だからとみんなでサポート。そんな時にある部員たちに障害のことがバレてしまう・・・。

ずいぶんと昔、花屋に勤めていた知人が軽い記憶障害だった。最初は知らなかったけれど、花を買いに行くたびに名前を確認され、変だなぁと思っていた時に実は・・・と、彼から障害があるということを告白された。とにかく何度も確認し、そして約束する時はメモに日にちと用件を書いて確認した。それでも会うと自分が誰かという確認を怠らなかった。そんな知人は花屋の閉店というタイミングで実家に戻った。それ以来連絡はとっていないのだけど、映画を見ながらふと思い出した。当時を振り返ると知人は常に1日を不安と向き合いながら必死に仕事をしていたんだろうなぁと想像に難くない。
良一も、目覚めるとまず来る不安。だからこそ1日、1日を必死に生きてる。朝起きると確認のルーティーン・・・そんな彼の、記憶障害という病気がわかってからは、彼の行動一つ一つの意味の大きさが胸にズンとくる。
そしてクライマックに繰り広げられる他校のプロレスチームとの試合。マットに打ち付けられるバチーンという音、リングサイドに跳ね返されて倒れこむ迫力、絡み合うごとに飛び散る汗と、ゼェゼェと時間を追うごとに強くなる呼吸は、良一の今を生きる時間を体を持って覚えこませている思いが伝わってくる。実際、このシーンは佐藤隆太はもちろん他の俳優もガチの試合を繰り広げていたそうで、演技を超えた“リアル”と“緊張感”が場面を覆っている。

今作では向井理の今とはちとイメージの違うキャラや、仲里依紗の初々しさ、宮川大輔のpaypay感、懐かしや北海道を拠点とする女性芸人モリマン・種馬マンの登場と、脇を固めるキャラクターの魅力もしっかとチェックしてほしいです。
『そこのみにて光輝く』
そこのみにて光輝く
若くして自死した小説家、佐藤泰志の原作を映画化したのが本作。死後、長らく絶版されていた彼の小説は2007年に「佐藤泰志作品集」として発刊されたことを機に、次々と映画化。
山下敦啓監督の函館を模した架空の地方都市海炭市を舞台にそこで生きる人々を描いたオムニバス『海炭市叙景』、離婚し、故郷、函館に戻り職業訓練校に通う中年男とキャバ嬢との揺れ動く愛と自身の過去を描いたオーバー・フェンス、男女3人の刹那なるひと夏を描いたきみの鳥はうたえるとこれまでに本作を含め4作に。
監督は『酒井家の幸せ』『オカンの嫁入り』の呉美保。

毎日、散歩とパチンコライフを送っている無職の男、達夫はパチンコ屋でひょんな事から拓児と出会い、その日のうちに彼のうちへ。人懐っこい拓児に脳梗塞で寝たきりの父、介護で精神的に追い詰められている母、そして姉の千夏を紹介され、徐々に、達夫は千夏との距離を縮めていくが・・・。

綾野剛演じる達夫、菅田将暉演じる拓児、池脇千鶴演じる千夏のアンサンブルがとにかく素晴らしい。
昔、石材採掘現場で爆破事故で部下を死なせてしまった過去に、今も時折苛まれ、半ば自暴自棄に生きる達夫。
服役した経験があり、今は日雇いで刹那的に生きる拓児。
両親が働けない分、昼のパートだけではなく体も売り、さらに拓児が世話になっている造園会社の社長と不倫もしている千夏。
それぞれに重く暗い闇を抱えながら、いつか光を見つけようともがいて生きている不器用な3人が、達夫を中心にいつしか拓児とは兄弟のような関係が生まれ、千夏とは愛することを互いに求めていく。

3人のむせかえるような焦燥感を浮かび上がらせるのに函館の夏がひと役買っていて、千夏と拓児一家の住む、熱がこもりきった蚊のようなバラック小屋の中で起こる、ざらついたある出来事は、冬の閉塞感で起こるよりもショッキング。この感じは過去に見た映画で抱いたことがあったなぁと思い返せば、今から四半世紀以上前にATG(アート・シアター・ギルド)という非商業的、芸術的映画を数多く輩出した日本の映画会社があったけれど、そこで70年代~80年代に作られていた地方都市を舞台に、人生にもがき翻弄させられる若者を描いた作品を彷彿とさせる香り。なんせ、実際にATG系作品に出演していた伊佐山ひろ子が千夏の母親役で出ているのでさらに5割増し。

そして池脇千鶴のその体に幼児性を潜めながら肉感的。利発、だけど気だるい佇まいはまさにATGに出ていたかつての女優たちをごった煮にして現代に甦らせたような奇跡。 彼女が不倫相手である造園会社社長(演じる高橋和也のATG臭も強力!)との関係性は見ている者のメンタルをジクジクと攻めまくるし、何よりも説得力がありすぎる。そんな彼女の姿に達夫は不器用に好意をあらわにしつつ、その境遇を救おうとするし、弟も姉の尊厳を、彼なりの方法で守ろうとする。それぞれに人生の距離の取り方がヘタな3人が手にしようとする光は、ぜひ映画を見て感じてほしいです。
『愛を積むひと』
愛を積むひと
エドワード・ムーニー・Jr.の小説「石を積むひと」を北海道に舞台を移し、「釣りバカ日誌」シリーズの朝原雄三監督が大人のドラマに仕立て上げたのが本作。

東京で経営していた工場を畳んで、北海道に移住した50代後半の小林夫妻。妻の良子は心臓に病気を抱えながらも北海道での生活を謳歌、毎日怠惰に過ごしがちな夫の篤史の尻を叩きながら平穏な毎日を送っている。そんなある日、良子は家の周りの石塀づくりを篤史に頼む。重い腰を上げ、しぶしぶ近所の造園会社の見習いの青年をアシスタントに石塀づくりに励むが、そんな矢先、良子の心臓病が悪化し、篤史の願い虚しく亡くなってしまう。絶望の毎日を送る篤史の前に、良子が死の直前まで書き綴っていた自分宛てへの手紙が・・・。それを読んだことがきっかけとなり、疎遠だった娘、そしてアシスタントの青年や彼の彼女など周囲の人たちとの関わりを取り戻していくというお話。

小林夫妻には佐藤浩市と樋口可南子が演じているんだけど、初老と呼ばれる年代に入った部分と、まだ自然と若さが出る部分のさじ加減が絶妙!
夫婦二人の時のほのかに甘さが漂う会話と、良子が結果、篤史の人生を引っ張ってきたと自負する部分の関係性もサラリと浮かび上がらせるさりげなさ。やはり長年一線で演技を生業としてきたふたりだからこそ生み出す境地を見ることができて嬉しくなってしまいます。特にさりげない言葉のキャッチボールにそれを垣間見ることができて、さらに良子が亡くなった後に読む、手紙の文面からは、そこに樋口可南子がいなくても、確かに彼女はいるという存在感がしっかりとあるのがよけいに篤史とともに胸にズーン。
その対比として登場する、造園業見習いの青年・徹役の野村周平と彼女・紗英役の杉咲花の初々しさ。特に杉咲花は良子に対しての尊敬と、自分の母親にないものを求めている姿、徹に対しての母性を体現していて、未来の良子を彷彿とさせてくれます。
説明過多な映画が多い中で、夫婦の過去、現在、未来、そして家族というものが、見る側にいろんな見方や、考え方ができるのがいいです。おすすめ。
『ぶどうのなみだ』
ぶどうのなみだ
北海道で思い浮かべる俳優は?と聞かれれば、今なら断然、大泉洋でしょう。というわけで、大泉洋主演の北海道企画映画というものがあるんです。
今作のほかに北海道・洞爺湖のほとり月浦を舞台に、カフェスタイルのオーベルジュを営む夫婦と彼らを取り巻く人たちを描いたしあわせのパン
北海道せたな町の海が見える牧場を舞台にチーズ工房を営む主人公がもっとチーズを知ってもらおうと1日限定のレストランをオープンしようとする『そらのレストラン』。それぞれパン、チーズ、ワインと食べ物がキーワードになっているのがポイント。

北海道の空知でぶどうを育て、ワインと小麦を作っているアオとロクの兄弟。ある日、キャンピングカーでやってきた女性が自分たちの畑の先で突如スコップで土を掘り始めたことから起こる騒動を通じてワイン作りや地元の人々との繋がりを描いた物語。

「しあわせのパン」での穏やかな大泉洋とは違い、ぶどうやワイン作りに四苦八苦して、さらに突然やってきた謎のワケあり女性エリカ(演じるはコン・リー似のミュージシャン・安藤裕子)に振り回され、常に眉間にしわを寄せ、苦虫を噛んだような姿はなかなかにヘヴィなんですが、映画自体は北海道の大自然の中、ファンシーな空気が漂い、さらにスローライフ賛歌がたっぷり。そんな雰囲気の中、ただでさえ笑顔を見せない大泉洋がさらに浮いた存在になっているのが面白く、エリカとの交流からから徐々に忘れていた自分自身の気持ちを解放していく姿が見どころ。
さらにフードコーディネーターやスタイリストがいい意味でブイブイ言わせてる食事や衣装は作品世界へのディテールのこだわりが溢れていて、この映画がリアルとファンタジーを浮遊しているんだなぁと感じさせてくれます。
そして奇しくもここ数年、鬼籍に入られたりりィ、大杉漣、江波杏子という俳優たちが顔を揃えられているのも貴重な作品だと思います。
『南極物語』
南極物語
最後は、北海道といえばこの作品。今から37年前公開された時、空前の大ヒット作品となり、以後、フジテレビが本格的に映画製作にも乗り出した記念すべき映画で、僕も公開当時、劇場で見たクチ。とにかく親子連れでごった返し、犬たちが亡くなっていくシーンではそれこそ鼻を啜り上げる音のオンパレードだったことを覚えてる(自分も同じく泣きじゃくってましたが)。まさに「南極物語」というものを全員で共有している感が当時ありました。

昭和33年、南極にある昭和基地から第一次越冬隊員が第二次隊員に引き継ぐために観測船“宗谷”へと“昭和号”で空輸されるはずが、例年にない悪天候で、結局第二次越冬隊が昭和基地へ向かうことを断念。が、基地には15匹の犬たちが!犬係の潮田と越智の必死の懇願も叶わず、犬たちを残していくことに。
帰国した潮田は、樺太犬たちを供出してくれた飼い主たちに謝罪行脚を。その頃、南極の犬たちは生き残るために決死のサバイバルを繰り広げられていたが、一頭、また一頭と厳寒の氷原の中で命を落としていく・・・。
一方、日本では第三次越冬隊が組織されることになり、それを知った潮田と越智はいてもたってもおられず志願、再び隊員になり、南極の昭和基地へ向かうが、基地には無残にも亡くなった犬たちの姿を見つけ、助けてやれなかった自分たちに後悔と無念をぶつけるが・・・。

高倉健の潮田が飼い主を訪ね、北海道のあちこちを犬への謝罪の旅をするシーンは真夏。極寒の南極との対比が浮かび上がり、痛ましい。しかも日本での潮田や越智の様子の間に、犬たちがサバイバルする様子が描かれるのだけど、涙こぼさずにいられようかとばかり、それぞれが胸が張り裂けそうな死を迎える上に、ご丁寧にも亡くなった犬たちの名前と年齢、出身地が字幕となるので涙がさらに追い打ち。

印象的な音楽は「炎のランナー」や「ブレードランナー」などでおなじみのヴァンゲリスが担当しており、映画数本が余裕で取れるくらいの高額ギャラだったそうだけど、今ならヴァンゲリスに依頼して良かったと思うくらい、名曲だし、南極を走る犬たちにぴったり。
ちなみに犬係の越智を演じた渡瀬恒彦は、撮影に入る前から樺太犬のタロとジロ役の犬を飼って、関係を作り、撮影が終わると引き取って育てたといういいエピソードが残ってます。
30年以上経っても色褪せない日本の名作。以前見た人は改めて、初めての方は新鮮な気持ちで見るのもいいですよ。

そのほかにも「ロングバケーション」や「半分、青い。」などの脚本家、北川悦吏子の初監督作で小樽市を舞台としたハルフウェイや、紋別市を舞台に浅野忠信と二階堂ふみのビターな演技が光る私の男
函館市を舞台に犬の十戒をモチーフした犬と私の10の約束、ヘレン・ケラーのように障害を持って生まれた狐をめぐるお話子ぎつねヘレン、北海道の森で見つけた仔犬を助けるとそれは幻のエゾオオカミなのかもと騒動になるお話で富良野の美しい自然が切り取られたウルルの森の物語に、漫画でも号泣必至、映画でもさらに号泣必至の初老男性と愛犬の旅を描き、撮影された名寄市の風景が美しい星守る犬といった動物ものは北海道にぴったり。さらに1996年版モスラは環境破壊をテーマにし、北海道紋別市からデスギドラが復活するという話になっております。これらも青山シアターで見ることができるので、北海道くくりでぜひ映画を楽しんでください。

Writer | 仲谷暢之

ライター、関西を中心に映画や演劇、お笑い、料理ネタなどなどいろいろ書いてます。

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