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『ジュディ 虹の彼方に』ほか、思い込めた夢のステージとその裏側を描く感涙映画

2020.02.26(Wed) | 上原礼子

『オズの魔法使』『スタア誕生』などで知られるジュディ・ガーランドを、その歌声や話し方、独特の姿勢などまで徹底的に研究したレネー・ゼルウィガーが第92回アカデミー賞主演女優賞に輝いた『ジュディ 虹の彼方に』。伝説のミュージカル女優がわずか47歳でこの世を去る半年前、“命を燃やし尽くすようだ”といわれたロンドンツアーを描いた本作にちなみ、鮮烈な印象を残すステージとそこに込められた思いに涙せずにはいられない映画に注目しました。

『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガーにとっても復活のステージ
ジュディ
自身の体形と、仕事と恋に悩む『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズで高い支持を受け、アカデミー賞主演女優賞に初ノミネート、歌声やダンスも披露した『シカゴ』(’02)でも同賞にノミネートされ、今回、『コールド マウンテン』(’03)での助演女優賞に続いてオスカーを手にしたレネー。一時期は外見の激変ぶりばかりが話題となり、自ら映画業界から距離をとっていたこともありました。

そんな彼女が、全盛期を過ぎてジリ貧のジュディを演じたことは、運命的といっていいかもしれません。しかもレネー自身、ジュディの大ファンであり、映画の舞台となる1969年のジュディと実年齢が同じだったというのも奇跡的な縁。圧倒的なステージパフォーマンスはもちろん、ふり返るときの身のこなしや歌い終えた後のマイクの振り下ろし方まで、相当な役作りを重ねたことが伺える熱演を見せます(特に“似ている”と思ったのは歌うとき、話すときの唇の動かし方!)。

この年、ジュディは、やむを得ず引き離された子どもとの生活とキャリアの再起のためにロンドン公演に挑みます。アメリカとは違い(!?)、現地での人気は健在でチケットは全公演完売。しかし、『オズの魔法使』の時代から睡眠や体形維持を薬でコントロールされてきた上に、アルコールの量も増えていた彼女は、過敏で不安定で、孤独。初日を迎えても「歌えない」とバスルームに閉じ籠もりますが、いざステージに立てば、そこは独壇場、あっという間に観客の心をつかむのです。

やがて、本公演でもショーに遅刻したり、酔って客を罵倒したりと失態を繰り返すことになったジュディは契約を打ち切られ、“ラストステージ”に立つことに。このシーンでは、彼女がどんなにボロボロでも歌い続けた理由、そして「オーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)」がLGBTQのシンボルとなった理由とともに、感情表現に身体表現も大変豊かなレネー=ジュディの真骨頂を目の当たりにできるはずです。

◆『ジュディ 虹の彼方に』3月6日(金)より全国ロードショー
『グリーンブック』あえて人種差別の根深い南部へ
グリーンブック
第91回アカデミー賞作品賞・助演男優賞・脚本賞の3冠を受賞したことも記憶に新しい本作。時は1962年、ガサツながら腕っ節の強さと口の上手さが取り柄のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、カーネギーホールの上層階に住み、まるでどこかの王族のような暮らしをする天才ピアニスト、“ドクター”ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)のツアーに運転手兼世話係として同行することに。

ドンが目指すのは中西部から、ディープ・サウスと呼ばれる人種差別が特に激しい地域。アフロアメリカンの旅行者が利用できる施設が載ったグリーンブックを手に、まるで正反対な2人が、ステージを重ねるたびに深めていく友情が泣かせます。

特にクライマックス、主賓でありながらドンがレストランで食事をすることも許されないと知った2人が向かったのは、地元のブルースバー“オレンジバード”。ここでのドンの楽しげな表情と盛り上がりっぷりは、8週間に及んだツアーの集大成といえるものとなっています。
『ラ・ラ・ランド』2人だけが分かるラストのピアノシーン
ラ・ラ・ランド
『オズの魔法使』と同じMGM作品の、『雨に唄えば』や『バンド・ワゴン』といった名作ミュージカルにオマージュが捧げられていることでおなじみ。映画女優を夢見るミア役のエマ・ストーンの主演女優賞をはじめ、第89回アカデミー賞で最多6部門を受賞しています。

ミアがアルバイトをする映画スタジオの中には、まるで『オズの魔法使』のようなセットが広がっていたのも印象的。さらに、オーディションに落ち続けていたミアが夢に一歩近づく場面で歌う「Audition」は、まるで彼女の一人舞台の続きのように観る者を引き込みます。また、クライマックスに再会したセブ(ライアン・ゴズリング)がステージで奏でる2人のテーマソングは、叶わなかった“もう一つの夢”を語る心憎い演出。

なお、ミアに速攻で振られてしまう“いい人”グレッグ役を演じたフィン・ウィットロックは、『ジュディ 虹の彼方に』ではジュディの5番目の夫ミッキー役に。印象がまるで違うので要チェックです。
『ブルーに生まれついて』ジュディとも重なる天才トランペッター
ブルーに生まれついて
『ラ・ラ・ランド』でセブがリスペクトしていた“バード”ことチャーリー・パーカーらに認められ、そのルックスから“ジャズ界のジェームズ・ディーン”と呼ばれたチェット・ベイカーを、近年ますます渋さに磨きがかかるイーサン・ホークが好演。

50年代に圧倒的な人気を誇りながらドラッグに溺れてしまったチェット。1966年、自身の半生を描いた映画で妻役を演じた新進女優ジェーン(カルメン・イジョゴ)と出会いますが、薬がらみで暴行に遭い、重傷を負ってキャリアの危機に直面することに。それでも、文字どおり血を吐くような努力でトランペットを吹き続け、ジェーンの愛に支えられながらドラッグを絶ち、立ち直ろうとするのですが……。

やがて、けがの功名で習得した新境地の演奏が認められ、レコーディングができるまでになったシーンで聴かせる1曲が、なんと「オーバー・ザ・レインボー」。さらに彼は、名門ジャズクラブ"バードランド”で人生をかけたステージに立つことになるのですが、再起のために彼が選んだ決断は胸に迫るものとなっています。
『シング・ストリート 未来へのうた』すべての願いが詰まったステージ
シング・ストリート 未来へのうた
伝説的ミュージカル女優や天才ピアニストではなくとも、音楽に込める熱い思いや夢は高校生バンド「シング・ストリート」も同じ。『はじまりのうた』『Once ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督が自伝的要素を盛り込みながら描いた本作では、終盤の“学期末ディスコ”がバンドの初ライブとなりますが、注目してほしいのはリハーサルシーンのほう。

1985年当時、歴史的な不況下にあったダブリンで主人公のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、父の失業や母の浮気、そして2人の別居に加え、MV撮影に協力してくれる年上のラフィーナとの初恋に思い悩んでいます。そんな中で歌い上げる「Drive it like you stole it」は、いつしか50’Sの雰囲気に様変わりし、彼の願いすべてが詰まったまさに夢のステージに。観るたびに号泣してしまうシーンです。

ラフィーナ役は『ボヘミアン・ラプソディ』で世界的にブレイクする以前のルーシー・ボイントン。レネー・ゼルウィガーが“ピーターラビット”の原作者ビアトリクス・ポターを演じた『ミス・ポター』では彼女の少女時代を演じています。

自身のプライドをかけ、孤独感や葛藤、恐れ、悲しみなども何もかもひっくるめて、“これが最後かもしれない”と全身全霊で臨むステージ。それぞれが体現した最高の舞台に心揺さぶられてみませんか。

Writer | 上原礼子

情報誌・女性誌等の編集・ライターをへて、現在はWEBを中心にフリーに。子ども、ネコ、英国俳優などが弱点。看護師専門誌で映画&DVDコーナーを14年担当したこともあり、医療や死生観、女性の権利などにも関心アリ。

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