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常識にも、逆境にも負けない! 映画が映す“ペンで語る人々”

2020.03.18(Wed) | 足立美由紀

作家、詩人、新聞記者…。言葉でもって、人の心に訴えかける生業の人々がいます。物語をつむいだり、ニュースを報道したりとそれぞれの方法は異なりますが、根底にあるのは「言葉を駆使して誰かに伝えたいことがある」ということ。その強い衝動は常識だって、逆境にだって負けることはないのです。今回はそんな“ペンで語る人々”を映した映画を5作品紹介します。

真相を追い求める新聞記者の「記者魂」『新聞記者』
新聞記者
極秘情報のリークを発端に、人生を交差させる女性記者とエリート官僚の姿をサスペンスフルに描く。原案は東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラー小説で、『デイアンドナイト』の藤井道人監督によるメガホン。ある種の“告発”として話題となった本作は、現在進行中の様々な事件をモチーフに盛り込んだ、衝撃の社会派エンターテインメントです。

東都新聞、社会部の女性記者・吉岡(シム・ウンギョン)の元に、突然、大学新設計画に関する極秘資料がFAXで届きます。一方、エリート官僚・杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合があれば国民を欺くことも厭わない内閣情報調査室=内調のやり方に疑問を感じていて。そんな折、杉原の元上司・神崎が自殺したことで、吉岡と杉原の人生が交差していきます。

日本人の父と韓国人の母を持つハーフでアメリカ育ちという吉岡は、ひたすら “真実を追求”する記者。周囲との軋轢も意に介さずズバズバと切り込んでいくスタイルで社会部の中でも少し浮いた存在なのですが、それでも持ち前の「記者魂」でリークの真相に近づきます。

対する<日本を操る影の存在>として語られる内調は、デフォルメ演出が施されかなり不気味な存在として描かれますが、そんな“組織”と自らの“信念”の間で葛藤する杉原に扮した松坂さんの悩める演技が秀逸!

本作は先ごろ行われた第43回アカデミー賞で、作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞の主要3部門を制しています。
書くことによって解放された女性作家の半生『コレット』
コレット
フランス文学界において、今でも人気の高い女性作家シドニー=ガブリエル・コレットの半生を追った波乱のドラマ。『アリスのままで』のウォッシュ・ウエストモアランド監督が、変革期を迎えた1890年代のパリを舞台に1人の女性の“魂の解放”を描きます。

自然豊かな田舎町で育ったコレット(キーラ・ナイトレイ)は、14歳年上の人気作家ウィリー(ドミニク・ウェスト)と熱烈な恋に落ち、ベル・エポック真っ只中のパリで暮らし始めます。最初は退屈していたコレットですが、芸術家たちから刺激をもらい、いつしか享楽の世界に順応。一方、自ら書くことをしなくなっていたウィリーは、文才のあるコレットをゴーストライターにすることを思いつき…。

浪費家のため資金繰りに困っていたウィリーを助けるために、自伝的小説を書き始めたコレット。そして本を書くことは、彼女の自我を解放していくことでもありました。物語はウィリーの浮気をきっかけに、妻という立場を越えて社会と接点を持ちたいと願い始めた彼女が、性において、また自己表現においても“本質”に目覚めていく姿が描かれています。

ココ・シャネルやジャン・コクトーらと親交があったというコレット。彼女が暮らすパリの社交サロンや芸術に触れる日々を再現した、デカダンスな趣もお楽しみください!
あの有名なゴシック小説が産み出されるまで『メアリーの総て』
メアリーの総て
こちらも文学史に名を残した、実在の女流作家を題材にした作品。200年以上に渡り語りつがれる古典ゴシック小説「フランケンシュタイン」を手がけ、SFの先駆者と呼ばれたメアリー・シェリーの半生を描いています。

19世紀イギリス。継母から疎まれ、居心地の悪い生活を送る18歳の少女メアリー(エル・ファニング)は作家になることを夢みています。そんな折、”異端の天才詩人“パーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と電撃的な恋に落ちた彼女は、全てを捨てて駆け落ちするものの、耐え難い悲劇が次々と降りかかってくるのです。

「フランケンシュタイン」の創作秘話となる本作。怪奇小説という娯楽的読み物ながら、まだ若いメアリーが経験するにはあまりに辛い出来事が創作の重要な役割を果たしていることが分かり、切なくなります。

失意のメアリーがパーシーと共に滞在した悪名高き詩人・バイロン卿の別荘で、退屈しのぎに “怪奇談”を作ることになった経緯は「ディオダディ荘の怪奇談義」として後世にも伝えられていますが、彼女が「フランケンシュタイン」のインスピレーションを獲得する瞬間のカタルシスは絶品。可憐で芯の強いメアリーを体現したエル・ファニングの好演も光ります。
真実を伝えるという「正義」を信じて『スポットライト 世紀のスクープ』
スポットライト
2003年にピューリッツァー賞を受賞した、教会スキャンダルのスクープ報道をベースにつむぐ社会派ドラマ。マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムスら豪華俳優陣が地元紙「ボストン・グローブ」の新聞記者を演じ、 “キリスト教の闇”をスリリングに暴き出していきます。第88回アカデミー賞で作品賞・脚本賞をW受賞。

「ボストン・グローブ」に赴任してきた新局長バロン(リーブ・シュレイバー)から、長年にわたり調査報道班として実績を積んできた “スポットライト”チームに勅命が下ります。その内容は「30年に渡り、神父が子供を性的虐待してきた教会の闇を暴け!」というもの。戸惑いながらも調査を始めたロビー(マイケル・キートン)ら記者たちの取材活動は、困難の連続で…。

一様に口をつぐむ人々の対応を目の当たりにすると、キリスト教徒の多いボストンで、教会のスキャンダルを告発することがどれだけ難しいことなのかを痛感させられます。それでも巨大な権威に屈することなく真実を追求した、新聞記者たちの熱意と根性に拍手喝采。真実を伝えるという「正義」を信じて世紀のスクープをものにした、ジャーナリストたちの崇高な戦いをしっかりと心に焼き付けましょう。
天才少女小説家の繊細な感性と妥協ナシの信念『響 -HIBIKI-』
響
「マンガ大賞2017」で大賞を受賞した、柳本光晴による累計発行部数170万部突破の人気コミックを実写化。監督は『君は月夜に光り輝く』の月川翔、先ごろ脱退を発表した元「欅坂46」の平手友梨奈が主人公の天才少女小説家に扮しています。

低迷する文学界に綺羅星のごとく現れた天才小説家・鮎喰響(平手)。文芸誌「木蓮」の編集者・花井ふみ(北川景子)は、響が15歳の高校生だと知ってビックリしますが、同時に彼女が文学界に革命をもたらすことを直感します。その思惑通り、評論家たちもその才能に太鼓判! 万人の心を魅了した彼女の小説は、ついには文学賞の最高峰である芥川賞&直木賞にWノミネートされるという歴史的快挙を成し遂げるのです。

絶対に信念を曲げないことで様々な場所でトラブルを引き起こす響。その極端な行動はかなりエキセントリックですが、ストレートな物言いが人をカチンとさせる反面、真実を突いてもいて、自分が偏った常識に囚われていたことを気づかせてくれます。

その一方で、本を読むことも書くことも大好きな響が、日常のふとした美しい瞬間をキャッチして物語へと昇華させる姿にキュン。バイオレンス描写に目が行きがちな本作ですが、物語をつむぐ者の繊細な感性を映す素敵なエピソードにもどうぞご注目ください!

かつてヨーロッパでは、女流作家の多くが貴族階級だった時代もありました。職業としての女流作家が台頭してくるのは19世紀ごろから。その時代のフランス、イギリスを舞台とした『コレット』『メアリーの総て』では、そんな時代の息吹なども感じていただけるかもしれません。

Writer | 足立美由紀

フリーライター&エディター。某インターネットプロバイダで映画情報サイトを立ち上げた後、フリーランスへ。現在は各種情報誌&劇場用映画情報誌などの紙媒体、ネット情報サービスほかにて映画レビューや俳優・監督のインタビュー記事を執筆。時には映画パンフレットのお手伝いも!試写室と自宅を往復する毎日です。

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